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婚約
しおりを挟む婚約の理由はわからない。
8歳の誕生日の翌日、父が部屋にきた。
「リリアーナにとってランドルフ殿はどんな子だ?」
「公爵令息です」
「好きか嫌いか聞いているんだ」
「わかりません」
「嫌いではないのだな?」
「…はい」
「わかった」
そう言って父は部屋から出ていった。
どうでもいい子のことを聞かれても“わかりません”としか言えないし、好きでも無ければ嫌いでもない。興味がない。それだけだった。
数日後、公爵夫妻が訪ねて来た。
「今日からランドルフ殿がリリアーナの婚約者だ」
えっ!?
「どういうことですか?」
「リリアーナは知らなかったのか?アルバート」
「まだリリアーナには早いから、拒否感が無いことだけ確認したんだ」
「えっ、話していないのですか?カレン?」
「私はてっきりアルバートが説明してるのかと。
でもリリアーナには確かに早いわね」
「貴族の婚約は親が決める家がほとんどだ。本人がまだそういうことに疎いのだから親が主導で動いてもいいだろう。
デービッド、ローザ。自覚がない娘だが年頃になれば大丈夫だろう」
「リリちゃん。よくわからないのに話を進めてしまうけど、不安がることはないわ。ゆっくり花嫁修行をしましょうね」
「……」
「リリアーナ、お返事は?」
「はい」
公爵のデービッド、夫人のローザ、私の父で伯爵のアルバート、母のカレン。この4人は学園からの親友で、ずっと親しい交流がある。
よく互いの家でお茶会やお食事会をしていた。
オヌール公爵家は前公爵が王弟だった。歴史は浅いが富と権力を持つ。
一人息子のランドルフは私より1歳年上で、ライトブラウンの髪にアイスブルーの瞳。見目麗しいく優秀だ。
我がクロノス伯爵家は平凡だと思う。
嫌がらせを受けて帰ってくると父と母が喧嘩になるので黙っていた。どうやらこの婚約に母は反対のようだ。ランドルフが嫌とかではなく、私が辛い思いをするのが嫌だと言っていた。
いつか、何故婚約という話になったのか聞こうと思っていたのに。抱きしめて慰めてくれた父はもういない。
父は2年前に他界し、兄が継いだ。兄自体が優秀だし側近達も優秀だったので、急な不幸ではあったが無事引き継いでいる。
兄のマクセルは淡々とした人で、私が巻き込まれるトラブルにも冷静だ。
どうでもいいのか、面倒だと思っているのか。
私にとって一番よくわからない人だ。
ランドルフは丁寧に接してくれるしニコニコしているが、よくわからない。仮面を付けているように見えてしまう。本心はどうなのだろう。
でも、あの時父達が貴族の婚約について話していたから、彼もそれを受け入れているだけなのかもしれない。
無気力の8年間だったな。
走馬灯を経験したのは二度目だった。
目覚めると、見知らぬ部屋にいた。
「お嬢様!」
この人はオヌール公爵家のメイド。
「私は一体」
「覚えておられますか?2階から転落なさったのです」
そうだ。誰かに押された。女の子だったような。
「思い出せない…」
「!! お嬢様!まさか記憶が!!」
そう言って部屋を飛び出して行った。
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