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黒いナッツ
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【 ゼノンの視点 】
隣村で待機していた部下が時々様子を見に来ていた。
「あの、まだお帰りには」
「当分帰らない。金はあるだろう」
「ですが宿に数人長期滞在をしていては、そのうちなくなります。帰りの旅費はしっかり残さねばなりません。あと1ヶ月程度しか…」
「おまえ達だけで先に帰れ」
「そんなことは許されません!」
「フォルモントの騎士達が宿の空きのある町で野宿なんてできないだろう。どんな噂が立つか」
「ですから、一度帰りましょう」
「嫌だ」
「殿下」
「おまえ達だけで帰れ」
そんな話を外でしているときにネスティフィーネが帰って来た。俺は持っていた保存食を部下に渡した。
「道中の足しにしてくれ」
「殿下!」
「何それ」
「非常食だよ」
ネスティフィーネが興味津々に近付いてきた。俺が人の姿になっているときに自ら近付いて来てくれるの初めてだった。
「ナッツと干し肉とかだよ」
「見せて」
袋を開けて見せた。
「このナッツ、知らない」
「ああ、フォルモント特有のナッツなんだ。人気は無いが栄養価が高いと言われている」
「……」
ネスティフィーネが食べたそうにじっとナッツを見つめていた。1粒摘み、ネスティフィーネの口元へ持っていくと口を開けた。
「カリッ カリッ コリッ コリッ ゴクン」
ネスティフィーネはまた口を開けた。ゼノンは1粒摘み、また食べさせた。
小さな口の中にナッツを入れ、柔らかい唇に触れることができたゼノンは喜びを感じていた。
「カリッ カリッ コリッ コリッ ゴクン」
これを3回繰り返したところでネスティフィーネは水を飲みに井戸へ向かった。
キュコキュコ
「ゴクン ゴクン ゴクン。
ゼノン、それ買いたい。どこで売ってるの?」
「これはエデン王国でも人気がないからフォルモントでしか売っていないはずだ」
「そっか…」
「好きなのか?」
「うん、美味しい」
「そうか」
ネスティフィーネは貯蔵庫へ行き、巾着を持って戻った。
「騎士さん。これとそのナッツを交換して」
「は、はい」
ネスティフィーネの持って来た巾着を開けると殻の付いた黒いナッツが入っていた。
「これは、何の?」
ゼノン達は初めて見る黒いナッツだった。
「森の中から採ってきたの。村の人達がヌイのエキスの強力なやつだって言ってたよ。男の人が食べるものなんだって。詳しくは知らない」
ゼノンと部下は目を合わせた。
ヌイのエキスとは男にしか効かない精力剤で高価なものだ。ヌイのエキスより強力な効果を持つナッツなんて聞いたことがないし、もっと高価なものだろう。小さな巾着袋にはぎっしり入っていた。
「ヤディス、1粒食べてみろ」
「今ですか!?嫌ですよ!此処にも隣町にも娼…モゴッ」
ゼノンは部下ヤディスの口を塞いだ。いかにもそっちのことを知らないネスティフィーネの前では慎んで欲しかった。
〈 娼館は無くても娼婦はいるものなんだよ。隣町に戻って宿の主人か誰かに聞けば女を紹介してくれるか娼婦のいる家を教えてくれる 〉
〈 わ、わかりました 〉
〈 明日、昼前に報告に来い 〉
ヒソヒソと2人は話をした後、ネスティフィーネと物々交換をして、ヤディスを隣町に戻らせた。
翌日、昼になっても現れない部下ヤディスに苛立っていた。
夕方になり、別の部下が現れたので人の姿に戻って外に出た。
「ヤディスは何をしているんだ!」
「昨日の昼間に帰って来た後、宿の主人に娼婦の居場所を聞いて、夕食後に訪ねて行きました。今日の朝食の時間を過ぎても帰って来ないので様子を見に行ったら…まだ終わっていませんでした」
「はぁ?」
「その家には娼婦仲間3人で暮らしているらしいのですが、夜の8時に訪れて以来ずっとしているそうです。1人では身がもたないため、交代で女達が相手をしているそうです。なんか変なものを盛られたんですかね」
「実は…」
黒いナッツの説明をした。
「なるほど、では叱らずに終わるのを待ちます。サフィールの村民なら黒いナッツについてネスティフィーネ様より詳しいのでは?」
部下の指摘を受けて、村長の息子に黒いナッツについて聞いてみた。
「あれはちょっと取り扱い注意といった感じです。
不能を解消してくれる効果があります。健康な男なら効き過ぎてしばらくおさまりません。2回か3回した後は少し萎えますが、10分もすればまた勃ちます。人にもよりますが平均して20時間くらい効果が持続します。だから食べるなら半分か3分の1程度でいいんです。
女のネスティフィーネには疲れが取れる程度の効果しかないので詳しく説明しませんでした。というか、ネスティフィーネはその手のことを知らないので話辛くて誰も教えません。僕達にとってネスティフィーネは永遠の妹であり娘であり孫娘なんです。
あの子は動物の交尾くらいは見たことがあるかもしれませんが、それが子供を作る行為だとは知らないでしょう。
あの黒いナッツは心臓や血流に問題のある方は避けた方がいいです。お年寄りにも与えない方が良さそうです」
「理性はあるのか?」
「個人差があるようです」
「そなたは使ったのか?」
「使いません。元気ですので」
「なるほど」
「黒いナッツを食べた奴の話では、美味くないと言っていました。少し変な渋みがあるんです」
「わかった。これは栽培できるものなのか?」
「ネスティフィーネが言うには、葉と茎に腐食性の毒があるらしいのです」
「つまりネスティフィーネにしか触れないということか。ありがとう」
腐食性だと解毒云々どころではなくなる。触れた瞬間から腐食してしまうなら手袋をしていたとしてもその手袋についた毒に触れてしまうかもしれないし、手袋をして収穫していてもうっかり別の場所に着くかもしれない。シャツに着いたら浸透するのかも分からない。嵐で葉が散ったら?雨水がその腐食性の毒を有効にしながら流れていったら?
ネスティフィーネの家に戻って聞いてみたら、森の奥にしか生えてないらしい。それなら強風で荒く揺さぶられようが大雨に晒されようが村には影響が出ないなと納得した。
隣村で待機していた部下が時々様子を見に来ていた。
「あの、まだお帰りには」
「当分帰らない。金はあるだろう」
「ですが宿に数人長期滞在をしていては、そのうちなくなります。帰りの旅費はしっかり残さねばなりません。あと1ヶ月程度しか…」
「おまえ達だけで先に帰れ」
「そんなことは許されません!」
「フォルモントの騎士達が宿の空きのある町で野宿なんてできないだろう。どんな噂が立つか」
「ですから、一度帰りましょう」
「嫌だ」
「殿下」
「おまえ達だけで帰れ」
そんな話を外でしているときにネスティフィーネが帰って来た。俺は持っていた保存食を部下に渡した。
「道中の足しにしてくれ」
「殿下!」
「何それ」
「非常食だよ」
ネスティフィーネが興味津々に近付いてきた。俺が人の姿になっているときに自ら近付いて来てくれるの初めてだった。
「ナッツと干し肉とかだよ」
「見せて」
袋を開けて見せた。
「このナッツ、知らない」
「ああ、フォルモント特有のナッツなんだ。人気は無いが栄養価が高いと言われている」
「……」
ネスティフィーネが食べたそうにじっとナッツを見つめていた。1粒摘み、ネスティフィーネの口元へ持っていくと口を開けた。
「カリッ カリッ コリッ コリッ ゴクン」
ネスティフィーネはまた口を開けた。ゼノンは1粒摘み、また食べさせた。
小さな口の中にナッツを入れ、柔らかい唇に触れることができたゼノンは喜びを感じていた。
「カリッ カリッ コリッ コリッ ゴクン」
これを3回繰り返したところでネスティフィーネは水を飲みに井戸へ向かった。
キュコキュコ
「ゴクン ゴクン ゴクン。
ゼノン、それ買いたい。どこで売ってるの?」
「これはエデン王国でも人気がないからフォルモントでしか売っていないはずだ」
「そっか…」
「好きなのか?」
「うん、美味しい」
「そうか」
ネスティフィーネは貯蔵庫へ行き、巾着を持って戻った。
「騎士さん。これとそのナッツを交換して」
「は、はい」
ネスティフィーネの持って来た巾着を開けると殻の付いた黒いナッツが入っていた。
「これは、何の?」
ゼノン達は初めて見る黒いナッツだった。
「森の中から採ってきたの。村の人達がヌイのエキスの強力なやつだって言ってたよ。男の人が食べるものなんだって。詳しくは知らない」
ゼノンと部下は目を合わせた。
ヌイのエキスとは男にしか効かない精力剤で高価なものだ。ヌイのエキスより強力な効果を持つナッツなんて聞いたことがないし、もっと高価なものだろう。小さな巾着袋にはぎっしり入っていた。
「ヤディス、1粒食べてみろ」
「今ですか!?嫌ですよ!此処にも隣町にも娼…モゴッ」
ゼノンは部下ヤディスの口を塞いだ。いかにもそっちのことを知らないネスティフィーネの前では慎んで欲しかった。
〈 娼館は無くても娼婦はいるものなんだよ。隣町に戻って宿の主人か誰かに聞けば女を紹介してくれるか娼婦のいる家を教えてくれる 〉
〈 わ、わかりました 〉
〈 明日、昼前に報告に来い 〉
ヒソヒソと2人は話をした後、ネスティフィーネと物々交換をして、ヤディスを隣町に戻らせた。
翌日、昼になっても現れない部下ヤディスに苛立っていた。
夕方になり、別の部下が現れたので人の姿に戻って外に出た。
「ヤディスは何をしているんだ!」
「昨日の昼間に帰って来た後、宿の主人に娼婦の居場所を聞いて、夕食後に訪ねて行きました。今日の朝食の時間を過ぎても帰って来ないので様子を見に行ったら…まだ終わっていませんでした」
「はぁ?」
「その家には娼婦仲間3人で暮らしているらしいのですが、夜の8時に訪れて以来ずっとしているそうです。1人では身がもたないため、交代で女達が相手をしているそうです。なんか変なものを盛られたんですかね」
「実は…」
黒いナッツの説明をした。
「なるほど、では叱らずに終わるのを待ちます。サフィールの村民なら黒いナッツについてネスティフィーネ様より詳しいのでは?」
部下の指摘を受けて、村長の息子に黒いナッツについて聞いてみた。
「あれはちょっと取り扱い注意といった感じです。
不能を解消してくれる効果があります。健康な男なら効き過ぎてしばらくおさまりません。2回か3回した後は少し萎えますが、10分もすればまた勃ちます。人にもよりますが平均して20時間くらい効果が持続します。だから食べるなら半分か3分の1程度でいいんです。
女のネスティフィーネには疲れが取れる程度の効果しかないので詳しく説明しませんでした。というか、ネスティフィーネはその手のことを知らないので話辛くて誰も教えません。僕達にとってネスティフィーネは永遠の妹であり娘であり孫娘なんです。
あの子は動物の交尾くらいは見たことがあるかもしれませんが、それが子供を作る行為だとは知らないでしょう。
あの黒いナッツは心臓や血流に問題のある方は避けた方がいいです。お年寄りにも与えない方が良さそうです」
「理性はあるのか?」
「個人差があるようです」
「そなたは使ったのか?」
「使いません。元気ですので」
「なるほど」
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「ネスティフィーネが言うには、葉と茎に腐食性の毒があるらしいのです」
「つまりネスティフィーネにしか触れないということか。ありがとう」
腐食性だと解毒云々どころではなくなる。触れた瞬間から腐食してしまうなら手袋をしていたとしてもその手袋についた毒に触れてしまうかもしれないし、手袋をして収穫していてもうっかり別の場所に着くかもしれない。シャツに着いたら浸透するのかも分からない。嵐で葉が散ったら?雨水がその腐食性の毒を有効にしながら流れていったら?
ネスティフィーネの家に戻って聞いてみたら、森の奥にしか生えてないらしい。それなら強風で荒く揺さぶられようが大雨に晒されようが村には影響が出ないなと納得した。
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