【完結】婚約破棄された令嬢は、嫌われ後妻を満喫する

ユユ

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頼み事

ノクタル邸から戻って1週間後に ブラージェル家の長女セイラから先触れがあり、本日訪ねてくる予定だ。

「セイラ様がいらっしゃいました。応接間へお通ししております」

「ありがとう」

応接間に入るとセイラは立ち上がり挨拶をした。

「改めまして、ブラージェル子爵家長女セイラと申します。初対面のときには大変失礼な態度を取りました。申し訳ございません」

「誰だって4歳上の継母なんて嫌よね。図々しくするつもりはないのよ。書類上の妻というだけだから、セイラさんやジスランくんの邪魔はしないわ」

「王都新聞、読みました」

「あ~アレね。いろいろあったけど、彼のことを好きじゃなかったことだけが救いかしら」

「好きじゃなかったのですか?」

「そうよ。初対面から小さな俺様王子でね、嫌だなって思ったのよ」

「王子様はとても美形だと聞いたことがあります。
容姿にも興味はありませんでしたか?」

「無いわね。好みじゃなかったみたい」

「エリーズ様はどんな男性が好みですか?」

エリーズの記憶にそういうのは無いのよね。
忙しすぎて目を向けなかったのね。
惠莉わたしなら…

「そうね。痩せている人は好まないわね。髪の色は黒かダークブラウンがいいかしら。瞳の色は何でもいいわ。今となっては元婚約と違う色なら何でも。
清潔で体臭がキツくない人…できればいい匂いの人がいいわ。爪もきちんと切っている人がいいわね」

「性格はどうですか」

「性格?
穏やかな人がいいわね。思いやりがあって他人を尊重できるといいわね」

「父とは仲良くしないのですか?」

「喧嘩さえしなければそれでいいと思うの。
アルミュア家は金銭支援を、ブラージェル家は書類上の妻の座を与える約束だけだから。
子爵様はまだ若いから恋人もできるだろうし、その恋人を妻にしたいと思えば離縁を受け入れるわ。
まあ、直ぐにというのは難しいと思うけど。
私はこの屋敷で自由に過ごしたいだけだから。
子爵様はよく分からない人というのが正直な感想よ。ただ感じたのは一緒にいない方が良さそうかなって。
ごめんなさいね、セイラさんのお父様なのに」

「嫌い…ということですか?」

「そうじゃないのよ。
ただ、8年も自由の無い縛られた日々を送っていたの。朝、迎えの馬車が来てその瞬間から教育係の監視下に置かられるわ。ずっと王子妃となるための勉強を続けて、昼食もティータイムも休憩ではないのよ?テーブルマナーの実習なの。食べ難いものをわざとだされるのよ。
夕食前に屋敷に帰してもらえるけど復習があるし、学園が始まれば、同時進行よ。放課後と学園のない日に迎えがくるの。
お友達を作るとか、一緒にお茶をするとか買い物をするとか、友達の誕生日のパーティに出席するとかできなかったわ。
第一王子殿下と違って第二王子殿下はフォローが必要な方だったの。その分 私への教育は厳しかったから自分の誕生日のパーティを開くことさえ出来なかったわ。毎日疲れていたの。
化粧の仕方でさえ自由がないのよ?
なのに第二王子殿下は自由奔放。理不尽だなって思っていたわ。

やっと解放されたから、自分らしく生きていきたいの。
子爵様はよく分からない方だから、子爵様の言動に振り回されたくないのよ。私に何か怒っている時があるみたいだけど、心当たりが無いし、子爵様も何も言わないし。
“私が何かして怒らせてしまいましたか?”なんて聞いて探るようなことは今の私はしたくないわ。
私といることで そうなってしまうのなら、関わることなく生活することが一番なのよ。
この間はノクタル家の誘いを受けてしまったけど、もうそういうことは止めておくわ。
王家主催の行事にだけ参加するけど、移動も現地集合にしようと思っているわ。馬車は狭い空間だからね。お互いのためよ。
子爵様は王宮の客室に滞在していただいて、私は実家に滞在するわ」

「そうなのですね」

「だから安心して今まで通りに過ごしてね」

「……」

「何か困り事が?」

「私の母と父は政略結婚でした。
母の実家は新興貴族で、旧家との縁を繋ぎたかったので父と結婚したのですが、王都で華やかに暮らしていた母にとって、ブラージェル領は耐え難かったようです。国内最南端ですから気温も上がります。
お母様の好む重厚なドレスは着ることができません。娯楽も少なく、港のある町へ行ってみたときも“臭い”と言って馬車から一歩も降りなかったみたいです。
ブラージェルは裕福ではありません。
ドレスや宝石を毎月当たり前のように何着も買っていたお母様にとって、王家主催の催しのときにドレスだけ買うという生活も、パーティを主催出来ないという生活も地獄だったそうです。
私を産んでも、一度も会いに来てくれたことは無かったと聞きました。やっと男児が授かると、逃げるよう王都の実家に帰省して戻ろうとしませんでした。
結局 離縁が成立し、それっきりです。

父はその後、後妻を探しましたが不調に終わりました。せめてお金が有れば違ったのでしょう。
それに私の母で元子爵夫人がブラージェルでの生活を茶会やパーティで話して回ってしまっていたのです。多分大袈裟に触れ回ったのでしょう。

再婚相手を探しましたが 商家の娘は特に利が無ければ嫁いできたりはしません。婚歴のある女性も範囲に入れたのですが、本人の浮気などで離縁となった女性しか反応がありませんでした。父はあまり出席しなかったパーティに出るようになって恋人を作りました。だけど結婚の話になり、どんな暮らしになるか知ると別れを切り出されました。
また次の人も同じでした。

そしてついに平民に目を向けました。
子を産ませるわけではないからいいだろうと。
でも、平民の女性は嫁ぐと貴族教育が始まります。既に平民の所作が染み付いている人に淑女の所作を身に付けるなんて大変なことのようでした。
食事の席で、何度か注意をしたら逃げられてしまいました。婚約もしていませんでしたけど。
平民女性が貴族に嫁ぐことこそ、お金が必要だったのです。身に付けなければならないことが多い上に難しいのに、贅沢できないなんて意味がないのです。

父は再婚を諦めてしまいました。
そして何ヶ月も前に後妻の打診がアルミュア家から来たのです」

「そう」

「つまり、もともと魅力のない子爵家なのに 元母親の触れ回りが上乗せされて 私にも友人はおりませんし、婚約者もおりません。
もうすぐ成人の儀があります。助けてくださいませんか」

「助ける?」

「エリーズ様に教育をしていただきたいのです。
会場で独りぼっちでも何か言われても、所作だけは美しくいたいのです」

「もっと早く言わないと」

「はい」

「それに子爵様のお許しが必要よ。
私はセイラさんに対してもブラージェル家に対しても口を出す権利は無いのよ」

「そうですか」

仕方ないわね。

「本気なら子爵様を説得していらっしゃい。1日でも早く始めたいでしょう?」

「あ、ありがとうございます」

セイラは大急ぎでブラージェル邸に戻って行った。

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