【完結】婚約破棄された令嬢は、嫌われ後妻を満喫する

ユユ

文字の大きさ
19 / 35

淑女教育浸け

セイラが下宿して2ヶ月、淑女教育浸けでゲッソリするかと思ったけど、先生と私に食らいついている。
愛情を掛けてもらえず、ブラージェルでの生活を悪く言いふらした母親への意地だろう。

「恥ずかしがらずに鏡に向かって決めた表情を何度も作るの。大きな姿見鏡は必需品よ。鏡の前に一人がけソファを置いて、座り方や立ち方を確認するの。テーブルも置いてお茶を飲んだり、様々な種類のお菓子や料理を食べるの。ワイングラスにジュースを入れて、ワインのつもりで飲んでみたり、扇子を使ってみたり。飽きても鏡に写しながら練習するの。
目を瞑ってみて笑顔をつくってから目を開けてみて。意外と目を開けて練習したときと同じようにできていないことがあるのよ。鏡に映っている自分を補正してしまうのね。私の時も、カップを持った時の角度がダメだったわ。いずれ意識せずとも自然にできるくらい身体に覚えさせるの。地道に繰り返し努力するしかないの」

「王子妃教育は気が遠くなるほどの努力が必要だったってことですね」

「そうね。鏡を使った練習は夜にやるのよ。他の復習もあるから、就寝はゆうに日付けを跨いでいたわね。朝も夜明け頃に起きてウォーミングアップして身支度をするの。寝不足だし疲れてるし、そのまま行くと滑舌が悪いとか姿勢が悪いとかたくさん注意を受けてしまうの。10歳で始まった頃は行きたくないって泣いて、お父様達が行かなくていいって迎えの馬車を追い返してくださったわ」

「怒られなかったのですか?」

「それがね、何日か連続でやったら、国王陛下が迎えに来てくださったの。“ごめんねエリーズちゃん。機嫌直してくれないか”って仰っていたわ。
当時の私より大きなウサギのぬいぐるみを持ってね。2匹用意してくれて、1匹は寝室に、もう1匹は私専用の送迎馬車を特注してその中に座らせたの。可愛い馬車だったのよ。
その日以来 泣かずに通い出したの」

「すごい…」

「息子に甘くなければ、優しいおじさんって感じで好きだったわ。お迎えの話は内緒よ」

「はい」


週に2~3回、クリス様が様子見と私に会いに来てくださるようになった。
セイラがいるので何もしない。

セイラに言われて、“セイラ”と呼ぶようになると、クリス様も嬉しそうだった。


この頃にはある領主が苦境に立たされていた。



【 カトリーヌ・ノクタルの視点 】

最近 お父様が忙しそうだ。
よく外出するし、屋敷に居ればバタバタしている。

「お母様、そろそろパーティドレスを仕立てませんか」

「まだ早いわね」

いつもなら楽しくドレスのデザイン画をみながらアクセサリーまで注文する頃なのに…。

最近はお茶会やパーティの招待状が来ないどころか、既に出席の返事を出していたものでさえ次々と中止の手紙が届く。
そうか、流行病ね。大人しくしておこうかしら。


数日後。

あれ?

「ねえ、いつも髪を結っていた子は?」

「お暇をいただきました」

「そう」

別の日には。

「マッサージ担当の2人は?」

「お暇をいただきました」

「ええ!?」

他のメイドが下手だから、わざわざマッサージの上手い人という募集をかけて採用した2人だったのに!

この時、やっと複数の些細な違和感が繋がった。

以前は焼きたてのパンがたくさん籠に入っていたのに、皿に一個ずつしか置かれなくなったし、半分以上残していたのに食べ切れる量が並ぶようになった。
夕食に至っては品数も減り、豪華さは無い。
お酒も無く、言えばグラス一杯だけ用意される。
てっきりお父様が健康を意識してのことだと思っていた。

毎週呼んでいた商人は来ていないし、ドレスも注文していない。
使用人が行き交う数もおかしい。

「ねえ。流行病で何人休んでいるの?」

「本日 休みをいただいている者はおりません」

「…辞めた者は何人?」

者は23人です」

「23人!? どんな事件があったらそんなことになるのよ」

「時には雇用主様のご都合で去らねばならない時もございます」

「はっきり言って。何が起きているの」

「私などには理由は教えていただけません」

「分かったわ」



お父様を探していると書斎のドアが少し開いていて、お母様と話す声が聞こえてきた。

「あなた!ブラージェル夫人に何を言ったの!」

「夫人には何も言っていない」

「じゃあ、誰に何を言ったの!」

「ブラージェル子爵達と少し男同士の話をしていただけだ。夫人はその場に居なかった。…ただ途中で子爵を迎えに現れた」

「つまり聞かれたってことじゃない!…あなた まさか、酒の勢いで下劣な話をしていたの?」

「……」

「そうなのね!何て言ったの!」

「……」

「原因が分からなくては対応が出来ないのよ!」

「子爵に 金と若い女を手に入れられて良かったなと」

「それだけでノクタル領の全ての物が売れなくて、ノクタル領に様々な物が卸してもらえないなんて事にはならないわ!もっと決定的な事を言ったはずよ!」

「…10年もしたら飽きるだろうから下げ渡せと言った」

「あなた…」

「従兄弟も欲しいと言ったから、私が囲っている間に使といった意味のことを…」

「ブラージェル夫人はアルミュア公爵の娘なのよ!?」

「すまない…本気じゃなかったんだ」

「夫人がそれを聞いて公爵に告げたのよ!」

「怒っていなかったし、夫を迎えにきただけという感じだった」

「夫人は王子妃教育を終えているの!殺したい相手にも天使のように微笑むことなど簡単なのよ!」

「すまない」

「最初は王子妃の打診を断ったと聞いたわ。家門の名誉より、娘の意思を尊重するような両親を持っている方なのよ!
あなた、王都新聞を読んでいなかったの!?婚約破棄の後の王家の動きは異例の連続だったじゃない!
王家がアルミュア公爵家の顔色をうかがってのことだってどうして分からないの!」

「すまない」

「カトリーヌも夫人を侮辱してワインをかけるし…。

招待されていたパーティもお茶会も中止になったと言われたわ。全部よ?友人も親戚も全部!

ブラージェル家に謝罪の機会が欲しいと手紙を送っても、謝罪は結構ですと子爵から返事が届くの。その理由がやっと分かったわ。あなたの発言でアルミュア公爵を怒らせたのよ。そうでなければ子爵がうちにそんな強気な態度に出るはずがないもの。もう謝罪する相手はアルミュア公爵になってしまったのよ…ブラージェル家だけだったら何とかできたのに、アルミュア家は無理だわ。足元に平伏して機嫌を直してくださる奇跡を願うしかない」

だって、見限られたからブラージェル子爵の後妻になったんじゃないの!?

「お嬢様?」

さっきのメイドが追いかけて来て 私に話しかけてしまった。

視線を書斎のドアに戻すとお母様の顔がそばにあった。

「ちょうど良かったわ。入りなさい」

いつも微笑んでいる優しいお母様の顔は怒りに満ちていた。

あなたにおすすめの小説

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……