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王都に戻りたかった
【 元妻イライザの視点 】
お祖父様の代で男爵位を賜った。
それは本格的な差別の始まりだった。
お祖父様は嬉々と拝受したけど、その後 貴族社会の壁の分厚さを思い知った。
フールス商会は遠い昔の先祖が始めた店が徐々に大きくなったものだ。
平民向けの様々な物を扱う。飲食店も最初は失敗したけど、別の代で成功させてティールーム、レストラン、居酒屋などを展開していた。
服飾店は下級貴族のドレスを扱うまでに成長していた。
裕福なのでドレスや宝石を身に纏うことは容易だった。だけど“新興貴族”という枠へ放り込まれて本物の貴族として扱ってもらえない。同じ男爵家でもお金があっても貴族の最下層にいた。
父達も、長兄も貴族令嬢との婚姻が義務となっていた。所詮お祖父様の血を引いたら平民。それを少しでも本物の貴族の血と混ぜることを重視した。
次男三男は商才か技能の優れた嫁なら平民でも許された。娘は出来れば貴族の嫡男、もしくは上位貴族の次男三男、無理なら大きな取引先や仕入れ先の嫁に出された。
お母様は没落寸前の子爵家の次女。援助と引き換えに嫁いできた。未だにお母様の実家への援助は続いているので大人しい。だけど長兄の嫁は違った。男爵家の長女だけど援助なと必要としていない家門の令嬢だった。
お兄様に一目惚れをして縁を結んだ。
会うたびに嫌な女だと思った。私を見下すあの目。私やお兄様達より美しくないくせに、いつまでも高飛車だった。
結婚して“お義姉様”と呼ぶと、“ジャンヌ様と呼びなさい”と言われた。彼女の実家や親戚のパーティや茶会には絶対に呼ばれることはなかった。
『え?』
『ブラージェル子爵家の長男だ。跡継ぎだぞ』
それ何処よ。
『場所は何処ですか』
『国内最南端で海に面した領地だ』
最南端!?
『タウンハウスはあるのですよね?』
『無い。ブラージェル子爵家は援助を必要としている家門だし、王都に用は無い』
『そんなの嫌です!』
『お前の意思は関係ない。今まで贅沢させてやっただろう。恩恵を返す時が来たのだ』
『お父様!?』
『イライザ、子爵夫人になるのよ』
『子爵夫人…』
『最低でも跡継ぎを産むまで頑張りなさい』
『はい』
嫌だったけど、ジャンヌより格上になれる。それだけを希望に婚姻した。
クリストファーは顔も体も良かったけど黒髪だった。黒髪は白髪の次に人気のない髪色だ。
ブラージェル領は本当に田舎で貴族の娯楽が無い。普通はパーティやお茶会を開いたりするのだけれどブラージェル家は開けない。しかも王家主催の催しの時にしかドレスを作ってもらえなかった。
隣領や親戚が主催するパーティに出席することになっても“ドレスはあるだろう”と作ってはもらえなかった。一度パーティなどで着たドレスを着回して別のパーティに出席するなんてできない。そんな事をしたことがないのだもの。
自分のお金でドレスを作り招待を受けたパーティや茶会に出席していた。自分で払うようになると、今までどれだけ高いドレスを注文していたのか知った。
アクセサリーはブラージェル家のお古を身に付けていいと言われたけど、デザインも古いし くすんでいた。
実家に手紙を送ったけど、散々買ってやったものがあるだろうと送金を断られてしまった。
領地内を案内されたときは改めてこの地を離れたいと思った。どこに寄っても田舎。牧場は糞尿で臭いし、漁港は海の臭いと魚の腐った臭いで吐き戻しそうになった。馬車のドアを開けて手を差し伸べられたけど、臭くて無理だから閉めてと言うとクリストファーの機嫌は悪くなった。
仕方ないじゃない!あんな臭い 好きな貴族なんていないわよ!
里帰りしても二、三日で追い返されちゃうし、長く滞在を許してくれるような友人もいない。
ブラージェルで跡継ぎを産むまで我慢するしかなかった。
直ぐに妊娠して希望を持てたのに、辛いつわりと死にそうな陣痛の末に産まれたのは女児だった。
黒い髪に青い瞳、クリストファーにそっくりだった。全く可愛くない。結局一度も抱かず名前も呼ばず、話せるようになっても無視した。
そして次の妊娠で男児を産んだ。
黒髪だったけど瞳は私と同じライトグレーだった。
何とも言えない気持ちになったけど、どうしてもブラージェル領で生きていくのは嫌だった。
産後3ヶ月が経ち、クリストファーが出掛けている間に屋敷を出て王都の実家に帰った。
実家に到着し、ゆっくり王都で暮らせると喜びに満ちていたのにお父様が信じられないことを口にした。
『離婚は許すが、嫁ぎ先を探すぞ』
『え!?』
『もう隠居した老人の後妻しか話は来ないだろうが仕方ない』
『嫌です!
フィリップお兄様とドミニクお兄様だって跡継ぎじゃないのに残っているではありませんか!』
『2人はフールス家の利になる嫁を迎えているし、家業の一部を任されているんだ。お前は何が出来ると言うんだ』
『私だって何かできますわ!』
『いいかイライザ。失敗には責任が伴うんだ。駄目でした、ごめんなさいでは済まされないんだぞ!
一体おまえに何が出来るんだ!』
『ド、ドレスのデザインとか』
『描いてみろ』
何枚か描いたけど、
『こんなものが売れるか!道化じゃないか!』
『酷い!』
『やたらリボンやレースやフリルや宝石を付ければいいってものじゃない!刺繍も駄目だ!お前は自分のデザインのドレスを絶対作らせるな!意見も言うな!分かったな!』
『……はい』
その後はいろいろさせられたけど、どれも駄目だった。
お祖父様の代で男爵位を賜った。
それは本格的な差別の始まりだった。
お祖父様は嬉々と拝受したけど、その後 貴族社会の壁の分厚さを思い知った。
フールス商会は遠い昔の先祖が始めた店が徐々に大きくなったものだ。
平民向けの様々な物を扱う。飲食店も最初は失敗したけど、別の代で成功させてティールーム、レストラン、居酒屋などを展開していた。
服飾店は下級貴族のドレスを扱うまでに成長していた。
裕福なのでドレスや宝石を身に纏うことは容易だった。だけど“新興貴族”という枠へ放り込まれて本物の貴族として扱ってもらえない。同じ男爵家でもお金があっても貴族の最下層にいた。
父達も、長兄も貴族令嬢との婚姻が義務となっていた。所詮お祖父様の血を引いたら平民。それを少しでも本物の貴族の血と混ぜることを重視した。
次男三男は商才か技能の優れた嫁なら平民でも許された。娘は出来れば貴族の嫡男、もしくは上位貴族の次男三男、無理なら大きな取引先や仕入れ先の嫁に出された。
お母様は没落寸前の子爵家の次女。援助と引き換えに嫁いできた。未だにお母様の実家への援助は続いているので大人しい。だけど長兄の嫁は違った。男爵家の長女だけど援助なと必要としていない家門の令嬢だった。
お兄様に一目惚れをして縁を結んだ。
会うたびに嫌な女だと思った。私を見下すあの目。私やお兄様達より美しくないくせに、いつまでも高飛車だった。
結婚して“お義姉様”と呼ぶと、“ジャンヌ様と呼びなさい”と言われた。彼女の実家や親戚のパーティや茶会には絶対に呼ばれることはなかった。
『え?』
『ブラージェル子爵家の長男だ。跡継ぎだぞ』
それ何処よ。
『場所は何処ですか』
『国内最南端で海に面した領地だ』
最南端!?
『タウンハウスはあるのですよね?』
『無い。ブラージェル子爵家は援助を必要としている家門だし、王都に用は無い』
『そんなの嫌です!』
『お前の意思は関係ない。今まで贅沢させてやっただろう。恩恵を返す時が来たのだ』
『お父様!?』
『イライザ、子爵夫人になるのよ』
『子爵夫人…』
『最低でも跡継ぎを産むまで頑張りなさい』
『はい』
嫌だったけど、ジャンヌより格上になれる。それだけを希望に婚姻した。
クリストファーは顔も体も良かったけど黒髪だった。黒髪は白髪の次に人気のない髪色だ。
ブラージェル領は本当に田舎で貴族の娯楽が無い。普通はパーティやお茶会を開いたりするのだけれどブラージェル家は開けない。しかも王家主催の催しの時にしかドレスを作ってもらえなかった。
隣領や親戚が主催するパーティに出席することになっても“ドレスはあるだろう”と作ってはもらえなかった。一度パーティなどで着たドレスを着回して別のパーティに出席するなんてできない。そんな事をしたことがないのだもの。
自分のお金でドレスを作り招待を受けたパーティや茶会に出席していた。自分で払うようになると、今までどれだけ高いドレスを注文していたのか知った。
アクセサリーはブラージェル家のお古を身に付けていいと言われたけど、デザインも古いし くすんでいた。
実家に手紙を送ったけど、散々買ってやったものがあるだろうと送金を断られてしまった。
領地内を案内されたときは改めてこの地を離れたいと思った。どこに寄っても田舎。牧場は糞尿で臭いし、漁港は海の臭いと魚の腐った臭いで吐き戻しそうになった。馬車のドアを開けて手を差し伸べられたけど、臭くて無理だから閉めてと言うとクリストファーの機嫌は悪くなった。
仕方ないじゃない!あんな臭い 好きな貴族なんていないわよ!
里帰りしても二、三日で追い返されちゃうし、長く滞在を許してくれるような友人もいない。
ブラージェルで跡継ぎを産むまで我慢するしかなかった。
直ぐに妊娠して希望を持てたのに、辛いつわりと死にそうな陣痛の末に産まれたのは女児だった。
黒い髪に青い瞳、クリストファーにそっくりだった。全く可愛くない。結局一度も抱かず名前も呼ばず、話せるようになっても無視した。
そして次の妊娠で男児を産んだ。
黒髪だったけど瞳は私と同じライトグレーだった。
何とも言えない気持ちになったけど、どうしてもブラージェル領で生きていくのは嫌だった。
産後3ヶ月が経ち、クリストファーが出掛けている間に屋敷を出て王都の実家に帰った。
実家に到着し、ゆっくり王都で暮らせると喜びに満ちていたのにお父様が信じられないことを口にした。
『離婚は許すが、嫁ぎ先を探すぞ』
『え!?』
『もう隠居した老人の後妻しか話は来ないだろうが仕方ない』
『嫌です!
フィリップお兄様とドミニクお兄様だって跡継ぎじゃないのに残っているではありませんか!』
『2人はフールス家の利になる嫁を迎えているし、家業の一部を任されているんだ。お前は何が出来ると言うんだ』
『私だって何かできますわ!』
『いいかイライザ。失敗には責任が伴うんだ。駄目でした、ごめんなさいでは済まされないんだぞ!
一体おまえに何が出来るんだ!』
『ド、ドレスのデザインとか』
『描いてみろ』
何枚か描いたけど、
『こんなものが売れるか!道化じゃないか!』
『酷い!』
『やたらリボンやレースやフリルや宝石を付ければいいってものじゃない!刺繍も駄目だ!お前は自分のデザインのドレスを絶対作らせるな!意見も言うな!分かったな!』
『……はい』
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