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友情に隠れた令息
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【 クリストファーの視点 】
入学前、学園なんて時間の無駄だと思っていた。
僕が将来相手にするのは国外の要人なのだから、もっと優秀な教師を屋敷で雇うなり父達について行く方が有益だと思っていた。
『まだまだ青いな』
兄は大人ぶるし
『これ以上刺さるところがないわ』
姉は不器用。刺繍が苦手で無数に指を刺し続けている。昨日は額を刺した。何でそんなことになるんだ? “引いたからよ”と頬を膨らませた。
そのとき“避けなきゃ駄目よ”と母上が言った。ハンカチに針を刺して糸を引いて 針が額に刺さった姉と、引く方向を直せと言うのではなく避けるのは顔だと言う母上に似たのだとよくわかる。
『おまえと同時期にバラン伯爵のご令嬢が入学する。バラン家のことは知ってるだろう?これは外交の一つでもあるぞ。バラン伯爵は帝国の王位継承権を維持する皇族に変わりはない。わかるな?』
父は令嬢に近付くように言った。
入学するとエリン・バラン伯爵令嬢は目立っていた。第一王子の婚約者だからだ。
令嬢達からの嫉妬もマウントもかわし続ける最中も微笑みを浮かべていた。一糸乱れぬの手本のように微笑みの仮面は変化がない。それが壁に見えてしまいせっかく隣の席だというのに話しかけることができなかった。
入学から1ヶ月経った頃、先に馬車を降りた姉が間違えて僕の鞄を持って行ってしまったことに気が付いたのは、一限目の先生が入室したそのときだった。
刺繍セットと筆記用具に教科書、クッキー、飴。
姉の教科書を開いて自分の教科書があるフリをしてやり過ごすしかないと思ったらバラン嬢が教科書を見せてくれた。
そして一限目が終わると貴族科の棟へ姉と鞄を替えに行ってくれた。姉のいる建屋は男子生徒は入れなかったから助かった。戻ってきた鞄にはキーホルダーが付いていた。
帰宅して父上に報告をした。
父上はじっとキーホルダーを見つめると本を探してきてページを捲った。
『これは皇族カラーだな』
『?』
『成人すると皇帝が子供や孫に色を与えるんだ』
父上が見せてくれた本には皇族の名前のリストがあり、生年月日や母親の名前やカラーが記されていた。
『知りませんでした』
『婚約していなければおまえの婚約者に望んだのだがな』
僕が国外の令嬢と婚約できるように父上が動いているのは知っていたけど、バラン嬢なら国内でも許されたのか。婚約者になればあの仮面を剥がせるのだろうか。
翌日、バラン嬢は男爵家の令嬢と仲良くなっていた。続いて子爵令嬢や男爵令息とも仲良くなっていた。
『ほらね?孤高の貴公子みたいに見えるけど、奥手なの』
『それを言うなら人見知りじゃない?』
『不器用とか』
『恥ずかしがり屋さんなのよ』
バラン嬢に続いて男爵家や子爵家の子達が僕を見てヒソヒソと話している。隣の席でやられたらヒソヒソは全く意味を成しておらず筒抜けだ。
彼女達は“クリストファー・レイスを愛でる会”などというものを結成して僕をかまい始めた。
普通ならありえない図々しさと距離の近さは学園という環境のせいもあるが、バラン嬢の影響が大きいだろう。
彼女はまるで王族のようなオーラを放ち佇まいも気品に溢れている。居眠りさえ様になっている。その彼女が男爵家や子爵家の子達にタメ口を許し昔からの友人のように扱うから、この3人は格上から噛まれることを失念して無邪気に駆け寄ってくるのだろう。
『ねぇ、レイスくん、聞いていますか?』
だが彼女を含めた4人は僕にだけ敬語を使い家名で呼ぶ。それが気に入らなくなってきたのは毒されたからだろうか。
『クリストファーでいいよ』
『ほらね!言った通りでしょう』
『本当だ慣れれば腹を見せるんだな』
『毛を逆立てたりしないわ』
『牙が丸くなった?』
おまえ達……
だがバラン嬢のハズレは別にある。
僕を愛でる会じゃない、間違いなく“エリン・バランを愛でる会”だ。だってそうだろう?君無しでは彼らは集まって来なかった。引き寄せたのは君だよエリン。
『この食いしん坊め』
エリンが持ってきたクッキーを僕の口元に運ぶ。エリン達は僕が甘いものを好きだと思っているがそうではない。エリンは菓子を嫌いな子供なんていないと思っているのか、僕が遠慮して食べないのだと思っていた。だから僕の口元に菓子を近付けて、“手が痺れる、肩が攣る”と言って食べるまで諦めない。もはや拷問に近いが、根負けして食べた時、エリンの仮面が剥がれた。作られた微笑みではなく満面の笑みを浮かべた。僕も他の3人も時が止まったかのように静止し、エリンが揺すって我に返った。僕達が完全に魅了された瞬間だった。
僕は今でも菓子が好きなフリをしているし、3人も今まで通りにエリンに接する。
僕達はエリンを独占すべく、アイコンタクトを取った。だからそれぞれの屋敷で会って親睦を深めるようにしてエリンの素顔を他の奴らに見せる危険性を回避した。
彼女に婚約者がいなかったら父上に頼み込んだだろう。彼女なら父上も喜んでくれることは入学前に知っている。だが、もし反対されたとしても地べたに額を擦り付けて、他のことなら生涯何でも言うことを聞くと誓いを立てて許しを得ようとしたはずだ。
まあ、第一王子の婚約者でなければ他家からとうの昔に縁談がいくつもバラン伯爵家に届いていただろうから手遅れだったはずだ。それでももしもと夢を見ずにはいられなかった。
数年後、僕はこの選択を後悔することになる。まさかあんな展開になるとは思っても見なかったんだ。
入学前、学園なんて時間の無駄だと思っていた。
僕が将来相手にするのは国外の要人なのだから、もっと優秀な教師を屋敷で雇うなり父達について行く方が有益だと思っていた。
『まだまだ青いな』
兄は大人ぶるし
『これ以上刺さるところがないわ』
姉は不器用。刺繍が苦手で無数に指を刺し続けている。昨日は額を刺した。何でそんなことになるんだ? “引いたからよ”と頬を膨らませた。
そのとき“避けなきゃ駄目よ”と母上が言った。ハンカチに針を刺して糸を引いて 針が額に刺さった姉と、引く方向を直せと言うのではなく避けるのは顔だと言う母上に似たのだとよくわかる。
『おまえと同時期にバラン伯爵のご令嬢が入学する。バラン家のことは知ってるだろう?これは外交の一つでもあるぞ。バラン伯爵は帝国の王位継承権を維持する皇族に変わりはない。わかるな?』
父は令嬢に近付くように言った。
入学するとエリン・バラン伯爵令嬢は目立っていた。第一王子の婚約者だからだ。
令嬢達からの嫉妬もマウントもかわし続ける最中も微笑みを浮かべていた。一糸乱れぬの手本のように微笑みの仮面は変化がない。それが壁に見えてしまいせっかく隣の席だというのに話しかけることができなかった。
入学から1ヶ月経った頃、先に馬車を降りた姉が間違えて僕の鞄を持って行ってしまったことに気が付いたのは、一限目の先生が入室したそのときだった。
刺繍セットと筆記用具に教科書、クッキー、飴。
姉の教科書を開いて自分の教科書があるフリをしてやり過ごすしかないと思ったらバラン嬢が教科書を見せてくれた。
そして一限目が終わると貴族科の棟へ姉と鞄を替えに行ってくれた。姉のいる建屋は男子生徒は入れなかったから助かった。戻ってきた鞄にはキーホルダーが付いていた。
帰宅して父上に報告をした。
父上はじっとキーホルダーを見つめると本を探してきてページを捲った。
『これは皇族カラーだな』
『?』
『成人すると皇帝が子供や孫に色を与えるんだ』
父上が見せてくれた本には皇族の名前のリストがあり、生年月日や母親の名前やカラーが記されていた。
『知りませんでした』
『婚約していなければおまえの婚約者に望んだのだがな』
僕が国外の令嬢と婚約できるように父上が動いているのは知っていたけど、バラン嬢なら国内でも許されたのか。婚約者になればあの仮面を剥がせるのだろうか。
翌日、バラン嬢は男爵家の令嬢と仲良くなっていた。続いて子爵令嬢や男爵令息とも仲良くなっていた。
『ほらね?孤高の貴公子みたいに見えるけど、奥手なの』
『それを言うなら人見知りじゃない?』
『不器用とか』
『恥ずかしがり屋さんなのよ』
バラン嬢に続いて男爵家や子爵家の子達が僕を見てヒソヒソと話している。隣の席でやられたらヒソヒソは全く意味を成しておらず筒抜けだ。
彼女達は“クリストファー・レイスを愛でる会”などというものを結成して僕をかまい始めた。
普通ならありえない図々しさと距離の近さは学園という環境のせいもあるが、バラン嬢の影響が大きいだろう。
彼女はまるで王族のようなオーラを放ち佇まいも気品に溢れている。居眠りさえ様になっている。その彼女が男爵家や子爵家の子達にタメ口を許し昔からの友人のように扱うから、この3人は格上から噛まれることを失念して無邪気に駆け寄ってくるのだろう。
『ねぇ、レイスくん、聞いていますか?』
だが彼女を含めた4人は僕にだけ敬語を使い家名で呼ぶ。それが気に入らなくなってきたのは毒されたからだろうか。
『クリストファーでいいよ』
『ほらね!言った通りでしょう』
『本当だ慣れれば腹を見せるんだな』
『毛を逆立てたりしないわ』
『牙が丸くなった?』
おまえ達……
だがバラン嬢のハズレは別にある。
僕を愛でる会じゃない、間違いなく“エリン・バランを愛でる会”だ。だってそうだろう?君無しでは彼らは集まって来なかった。引き寄せたのは君だよエリン。
『この食いしん坊め』
エリンが持ってきたクッキーを僕の口元に運ぶ。エリン達は僕が甘いものを好きだと思っているがそうではない。エリンは菓子を嫌いな子供なんていないと思っているのか、僕が遠慮して食べないのだと思っていた。だから僕の口元に菓子を近付けて、“手が痺れる、肩が攣る”と言って食べるまで諦めない。もはや拷問に近いが、根負けして食べた時、エリンの仮面が剥がれた。作られた微笑みではなく満面の笑みを浮かべた。僕も他の3人も時が止まったかのように静止し、エリンが揺すって我に返った。僕達が完全に魅了された瞬間だった。
僕は今でも菓子が好きなフリをしているし、3人も今まで通りにエリンに接する。
僕達はエリンを独占すべく、アイコンタクトを取った。だからそれぞれの屋敷で会って親睦を深めるようにしてエリンの素顔を他の奴らに見せる危険性を回避した。
彼女に婚約者がいなかったら父上に頼み込んだだろう。彼女なら父上も喜んでくれることは入学前に知っている。だが、もし反対されたとしても地べたに額を擦り付けて、他のことなら生涯何でも言うことを聞くと誓いを立てて許しを得ようとしたはずだ。
まあ、第一王子の婚約者でなければ他家からとうの昔に縁談がいくつもバラン伯爵家に届いていただろうから手遅れだったはずだ。それでももしもと夢を見ずにはいられなかった。
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