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歪んだ王子
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【 第一王子アランの視点 】
あの頃は子供過ぎた。13歳の思春期に8歳との子供と婚約させられたから。しかも伯爵家の娘というのが気に入らなかったことの一つ目。
父上はあの娘の父親が帝国の皇族だから伯爵家だからといって下に見るなと言った。しかもバラン伯爵に敬語を使う。皇族だからなんだ!他国から伯爵家に婿入りした男がそんなに偉いのか!今はうちの伯爵だろう!平伏すのは伯爵家の方だ!
だけど父上は伯爵とその娘の機嫌を取れという。そういうのが気に入らなかったことの二つ目。
“気品があるわね”
“さすが皇族を父に持つご令嬢ね”
“うちの王子殿下が霞んじゃうわ”
そんな声がどこからか聞こえてきた。
次期国王と言われている私が伯爵家の小娘より劣るというのか!?
気に入らなかったことの三つ目。
そしてあの微笑み。何なんだ?仮面のように変わらない微笑み。全てが重なりあの微笑みが不快だった。まるで馬鹿にされているかのようだった。
だから冷たくした。文句を言ったり貶したり、遅れたりすぐに席を立ったり、すっぽかすこともあった。なのに泣くことはおろか眉ひとつ動かさず微笑みは崩れない。
学園に入ると令嬢達が頬を染めて近寄って来る。普通はこうあるべきなんだ。
そろそろ小娘が学園に入る歳になったのに、入学しないと言った。王子妃教育が大変で通えないのなら婚約を辞退すればいいだろう!
立ち去ろうとする小娘の肩を掴んだ。大した力を入れたつもりはなかったが小娘は後ろに転倒して足首に怪我を負った。
こんなつもりではなかった。
護衛騎士フィンネルが険しい顔をした。
『バラン伯爵令嬢はいくつだと思っていらっしゃるのですか』
『あいつが…まさかあんな簡単に倒れるなんて』
『ご令嬢はまだ子供ではありませんか。殿下は成人しておりますよね。しかも男です。力の差も大きいですし、ご令嬢はドレスで履き物のヒールは細いんです。後ろに引かれたら簡単に倒れます』
『わざとじゃない!』
フィンネルに咎められた後は父上に咎められた。
そして翌日には伯爵が父上と接見した。その内容は教えてもらえなかったが、父上は私とは目も合わさず反省文を小娘に送れと言った。書いたが返事はなかった。
その後、交流は控えることになり会わなくなった。
その間に側妃と小娘が仲良くなり、教育係が追放された。
父上に呼ばれ、その教育係が何をしたのか知らされた。
『学園に通う余裕がないと言い出すわけだ』
父上は疲れた顔をしていた。
『何故我慢したのでしょう』
『どこまで何をしてくるのか様子を見ていたらしい。強い子だな』
その後は学園へ通うことを了承し、貴族科ではなく経営科に入ったと聞いた。王子妃になるなら貴族科だろう!何で男ばかりの経営科に行んだ!
入学から半年後、在学中の令嬢達から小娘の話を聞いた。
『バラン嬢ならレイス侯爵令息と仲良くしていますわ。意外でしたわね』
『後は下位貴族の令息と令嬢達ですわね』
何故こんなにモヤモヤするのか。
その後も王族の誕生日パーティに姿を現したが、バラン家には招かれることは一度もなかった。
ある日、レイス侯爵夫妻が次男を連れて父上に会いに来ていると知った。あの小娘と仲良くしていると噂になっていた次男が何の用かと思ったら他国へ婿入りするので挨拶に来たことがわかった。
出て来るのを待って次男に近付いた。
『婿入りだって?』
声をかけると次男はお辞儀をしながら挨拶をした。
『アラン王子殿下にクリストファー・レイスがご挨拶を申し上げます』
『それで?何でエリン・バランと仲良くしたんだ?』
『素敵なレディだからです』
『ハッ!あのいつも同じ仮面を付けた小娘がか?』
『……それはお気の毒に存じます』
『何を言っている』
『確かにエリンは常に微笑みの仮面を付けておりますが、彼女が心を許せば仮面は外し素顔が見られます。勘もよく賢く、優しくて一緒にいて楽しいレディです。婚約者なら知っていて当然かと思いますが、エリンからの信頼や尊敬を得られていないのですね。僕は他国へ行きますが、帝国の傘下の国の中でも有力国です。向こうで立場を確立しエリンの頼れる存在になるよう努めます、では失礼いたします』
『話はまだ、』
引き止めようとした時、侯爵夫妻がこちらへ来てしまい、そのままになってしまった。
あの小娘が仮面を外した?
そうか、ならば無理にでも外させてやろう。
執務室へ行くと側近で侯爵家の三男ジョセフ・バリエーズと伯爵家の長男トニー・モントストと子爵家の次男レイモンド・アンカーが待っていた。
『誰か次のパーティでエリン・バランを口説け』
『はい!?』
『殿下、一体何を』
『やるのかやらないのか。おまえ達の誰かが名乗り出ないなら他所を当たる』
『理由は何ですか、誰もやりませんよ』
『そんなことできるわけがありません』
『そうですよ、婚約を解消したいんですか!?』
『そうだ、ずっとそう思ってきた。だがその為じゃない。あの仮面を剥がしたい。やらないなら人を雇って、』
『私がやります』
名乗り上げたのはレイモンドだった。
『そうだな、おまえは一度接触があったな。それに他の2人は妻がいるしな。おまえが適任だろう』
あの微笑みの仮面を外した後でレイモンドの接触は故意によるものだと知ったときの歪む顔が拝みたい。
あの頃は子供過ぎた。13歳の思春期に8歳との子供と婚約させられたから。しかも伯爵家の娘というのが気に入らなかったことの一つ目。
父上はあの娘の父親が帝国の皇族だから伯爵家だからといって下に見るなと言った。しかもバラン伯爵に敬語を使う。皇族だからなんだ!他国から伯爵家に婿入りした男がそんなに偉いのか!今はうちの伯爵だろう!平伏すのは伯爵家の方だ!
だけど父上は伯爵とその娘の機嫌を取れという。そういうのが気に入らなかったことの二つ目。
“気品があるわね”
“さすが皇族を父に持つご令嬢ね”
“うちの王子殿下が霞んじゃうわ”
そんな声がどこからか聞こえてきた。
次期国王と言われている私が伯爵家の小娘より劣るというのか!?
気に入らなかったことの三つ目。
そしてあの微笑み。何なんだ?仮面のように変わらない微笑み。全てが重なりあの微笑みが不快だった。まるで馬鹿にされているかのようだった。
だから冷たくした。文句を言ったり貶したり、遅れたりすぐに席を立ったり、すっぽかすこともあった。なのに泣くことはおろか眉ひとつ動かさず微笑みは崩れない。
学園に入ると令嬢達が頬を染めて近寄って来る。普通はこうあるべきなんだ。
そろそろ小娘が学園に入る歳になったのに、入学しないと言った。王子妃教育が大変で通えないのなら婚約を辞退すればいいだろう!
立ち去ろうとする小娘の肩を掴んだ。大した力を入れたつもりはなかったが小娘は後ろに転倒して足首に怪我を負った。
こんなつもりではなかった。
護衛騎士フィンネルが険しい顔をした。
『バラン伯爵令嬢はいくつだと思っていらっしゃるのですか』
『あいつが…まさかあんな簡単に倒れるなんて』
『ご令嬢はまだ子供ではありませんか。殿下は成人しておりますよね。しかも男です。力の差も大きいですし、ご令嬢はドレスで履き物のヒールは細いんです。後ろに引かれたら簡単に倒れます』
『わざとじゃない!』
フィンネルに咎められた後は父上に咎められた。
そして翌日には伯爵が父上と接見した。その内容は教えてもらえなかったが、父上は私とは目も合わさず反省文を小娘に送れと言った。書いたが返事はなかった。
その後、交流は控えることになり会わなくなった。
その間に側妃と小娘が仲良くなり、教育係が追放された。
父上に呼ばれ、その教育係が何をしたのか知らされた。
『学園に通う余裕がないと言い出すわけだ』
父上は疲れた顔をしていた。
『何故我慢したのでしょう』
『どこまで何をしてくるのか様子を見ていたらしい。強い子だな』
その後は学園へ通うことを了承し、貴族科ではなく経営科に入ったと聞いた。王子妃になるなら貴族科だろう!何で男ばかりの経営科に行んだ!
入学から半年後、在学中の令嬢達から小娘の話を聞いた。
『バラン嬢ならレイス侯爵令息と仲良くしていますわ。意外でしたわね』
『後は下位貴族の令息と令嬢達ですわね』
何故こんなにモヤモヤするのか。
その後も王族の誕生日パーティに姿を現したが、バラン家には招かれることは一度もなかった。
ある日、レイス侯爵夫妻が次男を連れて父上に会いに来ていると知った。あの小娘と仲良くしていると噂になっていた次男が何の用かと思ったら他国へ婿入りするので挨拶に来たことがわかった。
出て来るのを待って次男に近付いた。
『婿入りだって?』
声をかけると次男はお辞儀をしながら挨拶をした。
『アラン王子殿下にクリストファー・レイスがご挨拶を申し上げます』
『それで?何でエリン・バランと仲良くしたんだ?』
『素敵なレディだからです』
『ハッ!あのいつも同じ仮面を付けた小娘がか?』
『……それはお気の毒に存じます』
『何を言っている』
『確かにエリンは常に微笑みの仮面を付けておりますが、彼女が心を許せば仮面は外し素顔が見られます。勘もよく賢く、優しくて一緒にいて楽しいレディです。婚約者なら知っていて当然かと思いますが、エリンからの信頼や尊敬を得られていないのですね。僕は他国へ行きますが、帝国の傘下の国の中でも有力国です。向こうで立場を確立しエリンの頼れる存在になるよう努めます、では失礼いたします』
『話はまだ、』
引き止めようとした時、侯爵夫妻がこちらへ来てしまい、そのままになってしまった。
あの小娘が仮面を外した?
そうか、ならば無理にでも外させてやろう。
執務室へ行くと側近で侯爵家の三男ジョセフ・バリエーズと伯爵家の長男トニー・モントストと子爵家の次男レイモンド・アンカーが待っていた。
『誰か次のパーティでエリン・バランを口説け』
『はい!?』
『殿下、一体何を』
『やるのかやらないのか。おまえ達の誰かが名乗り出ないなら他所を当たる』
『理由は何ですか、誰もやりませんよ』
『そんなことできるわけがありません』
『そうですよ、婚約を解消したいんですか!?』
『そうだ、ずっとそう思ってきた。だがその為じゃない。あの仮面を剥がしたい。やらないなら人を雇って、』
『私がやります』
名乗り上げたのはレイモンドだった。
『そうだな、おまえは一度接触があったな。それに他の2人は妻がいるしな。おまえが適任だろう』
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