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限界
女学校に戻り、昼休みに寮に戻って来てくれたケイトにお礼の品を渡したのだけど
「何があったの!」
「もう行くわ。ありがとう」
「ユリエラ! 目が真っ赤じゃない! 何があったの⁉︎」
「どうせ……馬車の旅だから赤くても大丈夫よ」
「ユリエラ!」
「……ヨハンは、恋人とデートしていたわ」
「え⁉︎」
「鈍感な私に迷惑していたのね。この目で見ないと気が付かないなんて。しつこく手紙なんか出してヨハンに悪いことをしちゃったわ」
「待って、何かの間違いじゃ、」
「間違いで手を繋いで歩かないし楽しそうに話もしない。ティールームで女性あんな親密なキスはしないわ」
「そんな……」
冷静になりたくて我慢していたのに、もう涙を抑えることができなかった。頬をいくつもの雫が伝う。
「彼、私が……私が手を握ると……振り払うのよ」
ケイトは私の手を握った。
「もう……ここ数年ずっと……辛くて……私だけヨハンを愛……」
「わかった、わかったから」
ケイトは強く抱きしめてくれた。
「もう……傷付きたくない……私……ヨハンが……冷たくて」
「うん」
「好きになんて……ならなきゃ良かっ……」
「ユリエラ」
深呼吸をして笑顔を作った。
「ありがとう、一刻も早く王都から離れたいの。もう出発するわ」
「うん」
「またね」
「うん……」
ケイトも泣いていて“うん”しか言えなくなっていた。
馬車が動き出すと、見送るケイトが小さくなり、角を曲がると完全に見えなくなった。
「うっ……ううっ……」
その後はずっと泣いたりボーッとしたりしながら馬車の旅に身を委ねた。
彼が冷たくなっていく記憶を辿りながら。
リヴォン邸に帰ってきた日の夕食後、避けられない話題をお父様が口にした。
「ヨハンは元気にしていたか?」
「はい、お父様」
「お姉様、ヨハン様はミアのこと、何か言っていた?」
「いいえ」
「疲れただろう。休んだらどうだ」
お兄様の言葉に首を横に振った。
「お父様」
「何だ」
「ヨハンとの婚約を解消してください」
「は?」
「お姉様⁉︎ 何言っているの!」
「ミアは黙っていなさい。ユリエラ、本気なの?」
お母様は心配そうに私を見つめた。
「私はヨハンをお慕いしておりました。ですがヨハンには恋人がいます」
「は⁉︎」
家族4人は声を揃えて驚きの声を上げた。
「私の手紙は無視して、恋人とデートをしていました」
「何かの間違いよ」
「いいえ、お母様。この目でしっかりと見ましたわ。手を繋ぎティールームに入り、嬉しそうに会話を楽しんで、堂々とキスをしていました」
「ユリエラ……」
「だから何だ」
「お父様?」
「元々は恋人になって婚約したわけではない。当主同士が決めたことだ。ヨハンに女ができたくらいで騒ぐな」
「そんな!」
「ロペス家もヨハン自身も何も言ってきていないじゃないか。多分王都にいる間の遊びだろう。そのくらい見なかったフリをしてやりなさい」
「……私に、今まで以上に心を痛めて生きろと仰るのですか」
「おまえは嫁にしてもらう身だろう! 男の浮気程度で貴族の婚約は覆えるものではない!」
「覆った方がヨハンも喜びます」
お父様と私の意見は平行線だった。折れない私に苛立ったお父様は決定的な言葉を口にした。
「そんなに婚約をやめたいのなら、貴族をやめて屋敷から出て行け!」
「あなた!」
「父上、いくら何でもユリエラが可哀想です」
「自分の力で生きていけないくせに婚約解消? そんな甘い考えの娘を養うつもりはない。貴族の約束事を守る気がないのなら貴族をやめるしかないだろう」
「……わかりました」
「わかったらいい。部屋に戻れ」
「はい。失礼します」
自室に戻り、小ぶりの鞄に王都で換金したお金と最小限の荷物を入れてベッドの下に隠した。
そして5通の手紙を書いた。
ケイト宛には、追放になったので別れの挨拶を。
ロペス伯爵には、婚約の解消を希望したので追放になったこと、ロペス家から破棄をしてヨハンの恋人を歓迎してあげて欲しいというお願いを、そして今までの感謝を。
ヨハンには、恋人と幸せになってと。
お父様には、今まで育てくれたことに感謝と、二度と戻ることはないのでお別れを。
お母様には、お兄様とミアによろしく伝えて欲しいことと、魔法があるから生活費に困らないから心配しないでと書いた。
ロペス伯爵、ヨハン、ケイト宛の手紙はすぐ出してもらい、お父様とお母様宛の手紙は枕の下に隠した。
明朝、出て行くときに枕の上に置くつもりだ。
翌日、夜明けに鞄をもって屋敷を出た。
夜勤メイドと朝番のメイドの入れ替えの時間で、私は目立つことなく屋敷を出ることができた。
御者のトーマスには、昨夕のうちに依頼をしてあった。また旅に出るけど、家族をわざわざ起こしたくないからそっと出発すると言ったので静かに準備をしてくれていた。
「ごめんなさい、朝早く」
「特別手当をいただきましたから」
「王都までよろしくね」
「お任せください」
馬車に乗り込むと、ゆっくり静かに出発した。
17年間、生まれ育った屋敷に別れを告げた。
「何があったの!」
「もう行くわ。ありがとう」
「ユリエラ! 目が真っ赤じゃない! 何があったの⁉︎」
「どうせ……馬車の旅だから赤くても大丈夫よ」
「ユリエラ!」
「……ヨハンは、恋人とデートしていたわ」
「え⁉︎」
「鈍感な私に迷惑していたのね。この目で見ないと気が付かないなんて。しつこく手紙なんか出してヨハンに悪いことをしちゃったわ」
「待って、何かの間違いじゃ、」
「間違いで手を繋いで歩かないし楽しそうに話もしない。ティールームで女性あんな親密なキスはしないわ」
「そんな……」
冷静になりたくて我慢していたのに、もう涙を抑えることができなかった。頬をいくつもの雫が伝う。
「彼、私が……私が手を握ると……振り払うのよ」
ケイトは私の手を握った。
「もう……ここ数年ずっと……辛くて……私だけヨハンを愛……」
「わかった、わかったから」
ケイトは強く抱きしめてくれた。
「もう……傷付きたくない……私……ヨハンが……冷たくて」
「うん」
「好きになんて……ならなきゃ良かっ……」
「ユリエラ」
深呼吸をして笑顔を作った。
「ありがとう、一刻も早く王都から離れたいの。もう出発するわ」
「うん」
「またね」
「うん……」
ケイトも泣いていて“うん”しか言えなくなっていた。
馬車が動き出すと、見送るケイトが小さくなり、角を曲がると完全に見えなくなった。
「うっ……ううっ……」
その後はずっと泣いたりボーッとしたりしながら馬車の旅に身を委ねた。
彼が冷たくなっていく記憶を辿りながら。
リヴォン邸に帰ってきた日の夕食後、避けられない話題をお父様が口にした。
「ヨハンは元気にしていたか?」
「はい、お父様」
「お姉様、ヨハン様はミアのこと、何か言っていた?」
「いいえ」
「疲れただろう。休んだらどうだ」
お兄様の言葉に首を横に振った。
「お父様」
「何だ」
「ヨハンとの婚約を解消してください」
「は?」
「お姉様⁉︎ 何言っているの!」
「ミアは黙っていなさい。ユリエラ、本気なの?」
お母様は心配そうに私を見つめた。
「私はヨハンをお慕いしておりました。ですがヨハンには恋人がいます」
「は⁉︎」
家族4人は声を揃えて驚きの声を上げた。
「私の手紙は無視して、恋人とデートをしていました」
「何かの間違いよ」
「いいえ、お母様。この目でしっかりと見ましたわ。手を繋ぎティールームに入り、嬉しそうに会話を楽しんで、堂々とキスをしていました」
「ユリエラ……」
「だから何だ」
「お父様?」
「元々は恋人になって婚約したわけではない。当主同士が決めたことだ。ヨハンに女ができたくらいで騒ぐな」
「そんな!」
「ロペス家もヨハン自身も何も言ってきていないじゃないか。多分王都にいる間の遊びだろう。そのくらい見なかったフリをしてやりなさい」
「……私に、今まで以上に心を痛めて生きろと仰るのですか」
「おまえは嫁にしてもらう身だろう! 男の浮気程度で貴族の婚約は覆えるものではない!」
「覆った方がヨハンも喜びます」
お父様と私の意見は平行線だった。折れない私に苛立ったお父様は決定的な言葉を口にした。
「そんなに婚約をやめたいのなら、貴族をやめて屋敷から出て行け!」
「あなた!」
「父上、いくら何でもユリエラが可哀想です」
「自分の力で生きていけないくせに婚約解消? そんな甘い考えの娘を養うつもりはない。貴族の約束事を守る気がないのなら貴族をやめるしかないだろう」
「……わかりました」
「わかったらいい。部屋に戻れ」
「はい。失礼します」
自室に戻り、小ぶりの鞄に王都で換金したお金と最小限の荷物を入れてベッドの下に隠した。
そして5通の手紙を書いた。
ケイト宛には、追放になったので別れの挨拶を。
ロペス伯爵には、婚約の解消を希望したので追放になったこと、ロペス家から破棄をしてヨハンの恋人を歓迎してあげて欲しいというお願いを、そして今までの感謝を。
ヨハンには、恋人と幸せになってと。
お父様には、今まで育てくれたことに感謝と、二度と戻ることはないのでお別れを。
お母様には、お兄様とミアによろしく伝えて欲しいことと、魔法があるから生活費に困らないから心配しないでと書いた。
ロペス伯爵、ヨハン、ケイト宛の手紙はすぐ出してもらい、お父様とお母様宛の手紙は枕の下に隠した。
明朝、出て行くときに枕の上に置くつもりだ。
翌日、夜明けに鞄をもって屋敷を出た。
夜勤メイドと朝番のメイドの入れ替えの時間で、私は目立つことなく屋敷を出ることができた。
御者のトーマスには、昨夕のうちに依頼をしてあった。また旅に出るけど、家族をわざわざ起こしたくないからそっと出発すると言ったので静かに準備をしてくれていた。
「ごめんなさい、朝早く」
「特別手当をいただきましたから」
「王都までよろしくね」
「お任せください」
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17年間、生まれ育った屋敷に別れを告げた。
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