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新天地
王都に到着すると貸切馬車と傭兵を雇い、トーマスと別れて東の辺境の町までやってきた。
オプリード領のエクラという町に宿を取り、物件などを扱っている店を訪ねた。
「あの、家を購入したいのですが」
「一緒に住む方は?」
「1人です」
「お嬢様が?」
「貴族ではありません」
「これは失礼。お金はあるのかい?」
「はい」
「希望は?」
「古くて勝手に修繕などしてもいい家で、町から近いけど静かな場所がいいです」
「静かとは?」
「人が寄り付かない方がいいです。でも治安が悪いと困ります」
おじさんは調べに奥へ行くと10分経たないうちに羊皮紙を持ってきた。
テーブルに広げると、図面と地図が書いてあった。
「一人暮らしには広いがかなり古い家だ。掃除は家主が定期的に行っている。町から少し離れるが輸送馬車が行き交う通りのそばにある。通りから外れる小道があって、木などで通りからは屋敷が見えない」
地図を見ると確かに枝分かれしている。少し鋭角な小さな道だから気付き難いのかもしれない。
「この町の荷馬車でも良ければタダで乗せてもらえるように話を付けるし、有料で良ければこの町と領主様の屋敷がある町の往復馬車に乗せて貰えばいい」
間取り図をじっと見た。
「今から見に行くかい?」
「お願いします」
見に行くと、町から少し離れるけど、確かに通りは馬車がよく通っているし、通りからは屋敷が見えない。直角なら見通せたかもしれないけど、鋭角なので木々が奥の家を隠してくれている。
徒歩だと40分くらい? 小さな川も流れていて、家のそばには井戸もある。
「ここを修繕してもいいですか?」
「あまり修繕費は出せないけど、大工をあたっておこう」
「あ、大丈夫です。自分でやります」
「お嬢さんが?」
「はい。得意なんです」
「怪我をしないでおくれよ」
「はい、気を付けます。それと、家の中の物を買い揃えたいので、町のことを詳しく知る方を案内に付けていただきたいのです。その上で購入した物を馬車で運んで欲しいのです。お代はお支払いしますので」
「わかった。手配は女房に頼もう。荷物をたくさん積める馬車も確保しておこう」
町に戻り、おじさんの店に帰ってきた。
「今日は宿をとるだろう?」
「はい。もう1週間分宿をとっているので、その間に住める状態にしたいと思います」
「お金はいつ払える?」
「今支払います」
「賃貸だね?」
「買取りで」
「大丈夫かい?」
「私、元貴族なんです。婚約解消に伴い父に貴族をやめて出て行けと言われたんです。犯罪者ではありませんよ。今は平民ですが、多少の資金はあります」
「若いのに苦労したんだね」
「お慕いしていましたので、泣き暮らしました」
「お嬢様の名前は?」
「ユリエラです。もう貴族ではありませんから、平民として扱ってください。ユリエラという名も捨てようと思います。貴族の令嬢としてつけられた名前ですから」
「好きな名前を名乗って暮らすといい」
「リラにします」
「リラか、よく似合うよ」
「ありがとうございます。後、修復の仕事をしたいのですが」
「例えば?」
「手に持てる大きさの物なら。壊れた物と取れた部品もしくは修復に使う同じ素材の物を預かって修復します。オルゴールでも剣でも椅子でも構いません」
「店を出すのか?」
「はい。ですがお客様があのお家まで持って行くのは大変でしょうし、女のひとり暮らしなので安全面が気になります。出来れば預かりと引き渡しを委託できたらいいのですが。どこかのお店で預かってもらって、週に1、2度町へ来て持ち帰ります」
「工房に勤めるということではなくて?」
「はい」
「それは少し待ってくれないか。可能かどうかあたってあげよう」
「助かります。ではお金です」
「……確かに。では書類に署名して」
「はい」
「このまま町役場に行って住民として登録しておけば、領民として扱ってもらえるよ。契約書を見せれは大丈夫だ。両親が事故で死んで遺産を受け取ったとでも言いなさい」
「はい、ありがとうございます」
「町役場はここだからね」
おじさんは地図を指し示してくれた。
物件を紹介してくれて、あれこれ手助けしてくれたおじさんはアルバートさん。町の案内がてらに生活用品などの買い揃えに付き合ってくれたアルバートさんの奥さんのアニーさん。
そして運送屋とも親しくなり、オプリード領の領主邸のある町オプルと、この町の定期馬車に乗せてもらえることになった。定期馬車の予定に合わせて道に立つと停まって乗せてくれる。
運送屋さんは物も人も運ぶ。急ぎの手紙も届けるし、食べ物でも家具でも金貨の詰まった箱でも運ぶ。平民でも貴族でも乗せる。
それに伴い傭兵もいるし派遣している。荷物や乗せる人次第では必要になる。
一見強面で粗野な感じがするけどそうではない。相手に合わせているだけ。挨拶をすれば返すし丁寧に接すれば同じように返してくれる。
通りから家への枝道付近に馬車の停車場を作るのを手伝ってくれたのも運送屋の人達だ。
草むしりを手伝い、石を取り除き地面を均してくれた。丸太で作った椅子も置いてくれた。
その帰りにお礼にみんなの行き付けの店に行って食事をご馳走した。
修復の仕事は、アニーさんの兄ダニエルさんが経営する質屋で受け付けてもらい、決まった曜日に運送屋さんが運んでくれる。あまり大きな物でなければ、オスカーさんが馬に積んで届けてくれる。オスカーさんは運送屋所属の傭兵さんだ。
吊り下げ看板も“修復屋リラ”の商号で作ってもらった。“平民専門”という文字と一緒に。
気に入られて自分の元で働けと命じてくる貴族もいるかもしれないし。とにかく関わらないようにしたかった。
オプリード領のエクラという町に宿を取り、物件などを扱っている店を訪ねた。
「あの、家を購入したいのですが」
「一緒に住む方は?」
「1人です」
「お嬢様が?」
「貴族ではありません」
「これは失礼。お金はあるのかい?」
「はい」
「希望は?」
「古くて勝手に修繕などしてもいい家で、町から近いけど静かな場所がいいです」
「静かとは?」
「人が寄り付かない方がいいです。でも治安が悪いと困ります」
おじさんは調べに奥へ行くと10分経たないうちに羊皮紙を持ってきた。
テーブルに広げると、図面と地図が書いてあった。
「一人暮らしには広いがかなり古い家だ。掃除は家主が定期的に行っている。町から少し離れるが輸送馬車が行き交う通りのそばにある。通りから外れる小道があって、木などで通りからは屋敷が見えない」
地図を見ると確かに枝分かれしている。少し鋭角な小さな道だから気付き難いのかもしれない。
「この町の荷馬車でも良ければタダで乗せてもらえるように話を付けるし、有料で良ければこの町と領主様の屋敷がある町の往復馬車に乗せて貰えばいい」
間取り図をじっと見た。
「今から見に行くかい?」
「お願いします」
見に行くと、町から少し離れるけど、確かに通りは馬車がよく通っているし、通りからは屋敷が見えない。直角なら見通せたかもしれないけど、鋭角なので木々が奥の家を隠してくれている。
徒歩だと40分くらい? 小さな川も流れていて、家のそばには井戸もある。
「ここを修繕してもいいですか?」
「あまり修繕費は出せないけど、大工をあたっておこう」
「あ、大丈夫です。自分でやります」
「お嬢さんが?」
「はい。得意なんです」
「怪我をしないでおくれよ」
「はい、気を付けます。それと、家の中の物を買い揃えたいので、町のことを詳しく知る方を案内に付けていただきたいのです。その上で購入した物を馬車で運んで欲しいのです。お代はお支払いしますので」
「わかった。手配は女房に頼もう。荷物をたくさん積める馬車も確保しておこう」
町に戻り、おじさんの店に帰ってきた。
「今日は宿をとるだろう?」
「はい。もう1週間分宿をとっているので、その間に住める状態にしたいと思います」
「お金はいつ払える?」
「今支払います」
「賃貸だね?」
「買取りで」
「大丈夫かい?」
「私、元貴族なんです。婚約解消に伴い父に貴族をやめて出て行けと言われたんです。犯罪者ではありませんよ。今は平民ですが、多少の資金はあります」
「若いのに苦労したんだね」
「お慕いしていましたので、泣き暮らしました」
「お嬢様の名前は?」
「ユリエラです。もう貴族ではありませんから、平民として扱ってください。ユリエラという名も捨てようと思います。貴族の令嬢としてつけられた名前ですから」
「好きな名前を名乗って暮らすといい」
「リラにします」
「リラか、よく似合うよ」
「ありがとうございます。後、修復の仕事をしたいのですが」
「例えば?」
「手に持てる大きさの物なら。壊れた物と取れた部品もしくは修復に使う同じ素材の物を預かって修復します。オルゴールでも剣でも椅子でも構いません」
「店を出すのか?」
「はい。ですがお客様があのお家まで持って行くのは大変でしょうし、女のひとり暮らしなので安全面が気になります。出来れば預かりと引き渡しを委託できたらいいのですが。どこかのお店で預かってもらって、週に1、2度町へ来て持ち帰ります」
「工房に勤めるということではなくて?」
「はい」
「それは少し待ってくれないか。可能かどうかあたってあげよう」
「助かります。ではお金です」
「……確かに。では書類に署名して」
「はい」
「このまま町役場に行って住民として登録しておけば、領民として扱ってもらえるよ。契約書を見せれは大丈夫だ。両親が事故で死んで遺産を受け取ったとでも言いなさい」
「はい、ありがとうございます」
「町役場はここだからね」
おじさんは地図を指し示してくれた。
物件を紹介してくれて、あれこれ手助けしてくれたおじさんはアルバートさん。町の案内がてらに生活用品などの買い揃えに付き合ってくれたアルバートさんの奥さんのアニーさん。
そして運送屋とも親しくなり、オプリード領の領主邸のある町オプルと、この町の定期馬車に乗せてもらえることになった。定期馬車の予定に合わせて道に立つと停まって乗せてくれる。
運送屋さんは物も人も運ぶ。急ぎの手紙も届けるし、食べ物でも家具でも金貨の詰まった箱でも運ぶ。平民でも貴族でも乗せる。
それに伴い傭兵もいるし派遣している。荷物や乗せる人次第では必要になる。
一見強面で粗野な感じがするけどそうではない。相手に合わせているだけ。挨拶をすれば返すし丁寧に接すれば同じように返してくれる。
通りから家への枝道付近に馬車の停車場を作るのを手伝ってくれたのも運送屋の人達だ。
草むしりを手伝い、石を取り除き地面を均してくれた。丸太で作った椅子も置いてくれた。
その帰りにお礼にみんなの行き付けの店に行って食事をご馳走した。
修復の仕事は、アニーさんの兄ダニエルさんが経営する質屋で受け付けてもらい、決まった曜日に運送屋さんが運んでくれる。あまり大きな物でなければ、オスカーさんが馬に積んで届けてくれる。オスカーさんは運送屋所属の傭兵さんだ。
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