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愛する婚約者
【 ヨハンの視点 】
幼い頃から定期的に会っていたリヴォン子爵家の長女ユリエラが大好きだった。出会いは15年以上遡る。
『およめさん?』
『そうだ。ユリエラはヨハンだけの女の子だ。優しく大事にするんだぞ』
『あなた、お嫁さんだなんてまだわからないわ』
『だけど大事な女の子だということはなんとなくわかるはずだ』
黄緑色の綺麗な丸い瞳、ふわふわと柔らかそうなストロベリーゴールドの髪。僕より少し背の高い可愛い女の子が僕の隣で眠っている。
柔らかくて良い匂いがするし、この子と手を繋いで寝ると安心する。まるでネコの母子みたいにくっついて寝ていた。
楽しくて嬉しくて、彼女と会うと幸せだった。
だけど大きくなるにつれて変わっていった。
一緒に寝ることは叶わなくなり、お互いに同性の友達ができて二人きりの時間が減っていった。
騎士を目指そうと思ったのは6歳のとき。ユリエラが兵士の訓練を見て“すごい、かっこいい”と言っから。彼女には内緒で12歳になってから剣を習い始めた。もっと早くから習いたかったけど、父上から許しが得られなかった。
年に何度も会うのだが、その度にユリエラは女らしく成長をしていた。
胸の膨らみは僅かだったのに、少しずつ大きくなっていった。腕を組まれたり抱き付かれると、柔らかい胸が当たって僕には刺激が強過ぎた。だから距離をとった。
彼女の妹ミアがしがみついても抱き付いても何も感じない。胸が当たっても何の反応もしなかった。だからミアの場合は子どもとして対応していた。
こっそり騎士学校を受験したが落ちてしまった。
王立でなければ受かっただろうが、父上からの条件は王立だったから受からなければ諦めなくてはならなかった。
3ヶ月も経つと、退学者が多いため繰り上げ合格の通知が届いた。父上から、ユリエラには自分で言うようにと言われていたけど、言葉に詰まって言えずにいた。
もたついている間にユリエラは知ってしまった。
不機嫌な彼女を宥めることもせず、握ろうとしてきた彼女の手を振り払ってしまった。やり過ぎだと思った。
彼女は一瞬驚いた顔をした後、少し微笑んだ。瞳の奥は悲しそうに見えた。そんな彼女とそれ以上目を合わすこともできず、俺は領地を後にした。
騎士学校の授業は大変だった。
怪我も多いしとにかく体力勝負だった。
半年以上が経った頃、騎士学校の先輩に招待されたパーティでアンナに出会った。
バターブロンドで顔は平凡。後ろ姿がなんとなくユリエラに似ていた。
アンナは一代騎士の娘で二つ歳上だった。
貴族の王都の屋敷でメイドをしているらしい。侍女になりたかったようだが受からなかったようだ。学校に通えば推薦をもらえただろうに、彼女の父親は学校より嫁げという方針らしい。
多分、貴族は彼女を相手にしない。使える伝手もないのだろう。今も婚約者がいないのは平民に嫁ぎたくないから。だからこうやってパーティに顔を出しては積極的に話しかけるのだろう。
ただ、会話を重ねていくと楽しい人だとわかった。
『お付き合いをしませんか?』
『婚約者がいます』
『騎士学校にいる間だけでも試してみませんか』
『そんな気はありませんよ』
そう言ったのに……
アンナと一夜を過ごしてしまった。
アンナに経験があるとすぐにわかり遠慮しなかった。アンナが乱れるとユリエラが喜んでいるかのように思えて興奮した。
翌朝に謝罪をしたが、アンナは一夜の関係で終わらせるつもりがなかった。
『婚約の邪魔はしないわ。だから……ね? 結婚したらこうはいかないわ。寮に入っている今しか自由はないのよ? 今を楽しみましょう』
『学校を卒業したら会わない』
『わかったから、もう一度』
アンナに抗えず、中毒になったかのように溺れた。
平日は週に二度ほど1時間でも外出してアンナと交わった。休みの日の早い時間は目についた店をのぞいたり何か観に行ったり、その後は時間が許す限りずっと……。
ここまでくるとアンナに情が湧いていた。
平日に交わるだけで終わってさっさと寮へ戻っても文句も言わない。休みの日に出かけると公園でも喜んでくれる。アンナのことは愛してはいなくても健気な彼女に優しくしてやりたいと思うのは必然だった。
騎士学校の友人達に忠告された。
『ヨハンは婚約者一筋だと思っていたよ』
『もちろん彼女だけだ』
『恋人を作っておいて?』
『恋人?』
『デートしてるだろう』
『周囲の目には恋人と映っているんだ』
『……』
『おまえの行動は浮気の範囲を超えた裏切りだ。特定の女をデートに誘い続けていたら恋人っていうんだ。それが世間一般の認識だ』
『……卒業までの関係だよ』
『まぁ、ヨハンの自由だからかまわないけどさ』
『王都は人目があるということは覚えておいてくれ』
『わかったよ、ありがとう』
だけどうちもリヴォン子爵も田舎に屋敷がある。王都のことは伝わらない。あいつらは心配しすぎだと軽く考えていた。
幼い頃から定期的に会っていたリヴォン子爵家の長女ユリエラが大好きだった。出会いは15年以上遡る。
『およめさん?』
『そうだ。ユリエラはヨハンだけの女の子だ。優しく大事にするんだぞ』
『あなた、お嫁さんだなんてまだわからないわ』
『だけど大事な女の子だということはなんとなくわかるはずだ』
黄緑色の綺麗な丸い瞳、ふわふわと柔らかそうなストロベリーゴールドの髪。僕より少し背の高い可愛い女の子が僕の隣で眠っている。
柔らかくて良い匂いがするし、この子と手を繋いで寝ると安心する。まるでネコの母子みたいにくっついて寝ていた。
楽しくて嬉しくて、彼女と会うと幸せだった。
だけど大きくなるにつれて変わっていった。
一緒に寝ることは叶わなくなり、お互いに同性の友達ができて二人きりの時間が減っていった。
騎士を目指そうと思ったのは6歳のとき。ユリエラが兵士の訓練を見て“すごい、かっこいい”と言っから。彼女には内緒で12歳になってから剣を習い始めた。もっと早くから習いたかったけど、父上から許しが得られなかった。
年に何度も会うのだが、その度にユリエラは女らしく成長をしていた。
胸の膨らみは僅かだったのに、少しずつ大きくなっていった。腕を組まれたり抱き付かれると、柔らかい胸が当たって僕には刺激が強過ぎた。だから距離をとった。
彼女の妹ミアがしがみついても抱き付いても何も感じない。胸が当たっても何の反応もしなかった。だからミアの場合は子どもとして対応していた。
こっそり騎士学校を受験したが落ちてしまった。
王立でなければ受かっただろうが、父上からの条件は王立だったから受からなければ諦めなくてはならなかった。
3ヶ月も経つと、退学者が多いため繰り上げ合格の通知が届いた。父上から、ユリエラには自分で言うようにと言われていたけど、言葉に詰まって言えずにいた。
もたついている間にユリエラは知ってしまった。
不機嫌な彼女を宥めることもせず、握ろうとしてきた彼女の手を振り払ってしまった。やり過ぎだと思った。
彼女は一瞬驚いた顔をした後、少し微笑んだ。瞳の奥は悲しそうに見えた。そんな彼女とそれ以上目を合わすこともできず、俺は領地を後にした。
騎士学校の授業は大変だった。
怪我も多いしとにかく体力勝負だった。
半年以上が経った頃、騎士学校の先輩に招待されたパーティでアンナに出会った。
バターブロンドで顔は平凡。後ろ姿がなんとなくユリエラに似ていた。
アンナは一代騎士の娘で二つ歳上だった。
貴族の王都の屋敷でメイドをしているらしい。侍女になりたかったようだが受からなかったようだ。学校に通えば推薦をもらえただろうに、彼女の父親は学校より嫁げという方針らしい。
多分、貴族は彼女を相手にしない。使える伝手もないのだろう。今も婚約者がいないのは平民に嫁ぎたくないから。だからこうやってパーティに顔を出しては積極的に話しかけるのだろう。
ただ、会話を重ねていくと楽しい人だとわかった。
『お付き合いをしませんか?』
『婚約者がいます』
『騎士学校にいる間だけでも試してみませんか』
『そんな気はありませんよ』
そう言ったのに……
アンナと一夜を過ごしてしまった。
アンナに経験があるとすぐにわかり遠慮しなかった。アンナが乱れるとユリエラが喜んでいるかのように思えて興奮した。
翌朝に謝罪をしたが、アンナは一夜の関係で終わらせるつもりがなかった。
『婚約の邪魔はしないわ。だから……ね? 結婚したらこうはいかないわ。寮に入っている今しか自由はないのよ? 今を楽しみましょう』
『学校を卒業したら会わない』
『わかったから、もう一度』
アンナに抗えず、中毒になったかのように溺れた。
平日は週に二度ほど1時間でも外出してアンナと交わった。休みの日の早い時間は目についた店をのぞいたり何か観に行ったり、その後は時間が許す限りずっと……。
ここまでくるとアンナに情が湧いていた。
平日に交わるだけで終わってさっさと寮へ戻っても文句も言わない。休みの日に出かけると公園でも喜んでくれる。アンナのことは愛してはいなくても健気な彼女に優しくしてやりたいと思うのは必然だった。
騎士学校の友人達に忠告された。
『ヨハンは婚約者一筋だと思っていたよ』
『もちろん彼女だけだ』
『恋人を作っておいて?』
『恋人?』
『デートしてるだろう』
『周囲の目には恋人と映っているんだ』
『……』
『おまえの行動は浮気の範囲を超えた裏切りだ。特定の女をデートに誘い続けていたら恋人っていうんだ。それが世間一般の認識だ』
『……卒業までの関係だよ』
『まぁ、ヨハンの自由だからかまわないけどさ』
『王都は人目があるということは覚えておいてくれ』
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