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献上品
父王に呼ばれ会議室へ行くと、父、母、兄2人、宰相が待っていた。
父「ユピルピア。すまない」
私「お父様?」
父「……」
兄「エテルネル帝国の後宮に入ってもらいたい」
私「はい!?」
父「すまない…」
私「確かその件は、公女が行くと決まっていたはず…」
母「その公女が妊娠していたのよ」
私「はい!?」
宰「相手は屋敷の管理をしている人のようです」
私「家令とか?」
宰「いえ、そのままです。言い換えれば設備管理担当の使用人です」
私「……」
宰「侯爵家以上で新皇帝より歳上ではない女性で相応しい者がおりません」
兄「だとすると、残るはユピルピアしかいないんだ」
宰「もう未献上は我が国だけ。流石に条件に合う王女がいらっしゃるのに引き伸ばすことはできません。既に18国目の献上を終えて11ヶ月。遅くなればなるほど、後宮での扱いは酷くなるでしょう」
兄「うちは従属国の中でも一番小さく外れにあり、帝国の管理下にない国と隣接している。有事には守って貰わねば簡単に滅びてしまう」
父「すまない…ユピルピア」
父王が涙を流していた。
私「お引き受けいたします。但し、公女の家門にはしっかりと制裁してください。これが前例となれば繰り返してしまいます。そして私の婚約者の家門には最大限のお詫びをしてください」
父「もちろんだ」
宰「ロー公爵家は男爵位に落とし、ロー公爵家の個人財産は9割没収。公女はプロプル王国の貴族籍から永久抹消し国外追放いたします。
王女の嫁ぎ先でしたナルプナ伯爵家は、50年間の減税を約束します。また没収したロー公爵家の個人財産の半分を違約金として支払います。
残り半分は王女の持参金となります」
母「ごめんなさい…ユピルピア。
後4ヶ月でウエディングドレスを着て嫁げたのに」
私「元々、恋愛結婚でもありませんでしたから」
母「そう思っているのは貴女だけよ。ご子息も伯爵家も貴女が嫁いでくるのを心待ちにしていたのよ」
私「……」
兄「母上、そんなことを伝えてもユピルピアには酷です」
私「いいえ、兄様。惜しまれて献上されるのだと知れたので胸を張って帝国へ参れそうですわ」
父「ユピルピア…」
母「愛しているわ」
兄「寵愛など競わなくていいからな」
兄「寝たふりをすればいい」
宰「お望みの者をお連れください」
私「連れて行ったら可哀想よ」
宰「では、一人連れて行ってくださいませんか。本人が望んでおります」
私「無理はしないでね。ここから帝国は遠いもの。簡単には帰れないのだから」
大急ぎで準備が始まった。
ナルプナ伯爵家にいただいた装飾品を返し、公式にお詫びの声明を出した。
出来るだけ簡素なワンピースドレスなどを作らせた。
私と一緒に帝国に行きたいと名乗り出てくれたのはベルベナという平民のメイドだ。
昔 孤児院に訪問した時、ベルベナは孤児院の子供達から虐められていた。彼女は帝国と隣接する国の出身なのだろう。少し肌がプロプル人とは違っていた。
私はその子を引き取り、教育を受けさせた。
服には必ず私の色のリボンをつけさせた。それは王女の庇護にある者という意味だ。
時々お茶に誘って近況報告を受けるが、返事は曖昧で、ただ 虐められることなく、寧ろ優遇を受けていると口にしていた。手首に触れるとしっかりと食べているのが分かった。
不定期に湯浴みの手伝いと言って、一緒にバスタブに浸かり、隠れた場所に虐待が無いか確認した。時々痣や傷があり、最初に見つけた時は暴れ狂う勢いで騒いだが、“実は、本人の希望で武術の鍛錬をさせております”と専属護衛が教えてくれたので見守ることにした。
ベルベナは本来輿入れするはずのナルプナ伯爵家にもついて行くと希望を出していたらしい。
彼女用の装飾品が届いた。鮮やかなマリンカラーの宝石を使ったピアス、ブレスレット、ネックレス、ブローチなど、いくつも作らせた。向こうで作れるか分からなかったから。
私の瞳そっくりの宝石を厳選したので値が張った分サイズは小ぶり。小ぶりな方が仕える者にはいいだろう。
出発の前日、昼食を豪華にしてもらい家族だけの送別会をしてもらった。
夜は翌日の出発に備えて早く寝たかったから。
翌早朝、祖国をあとにして帝国へ向かった。
1ヶ月近くの旅程は、ようやく終わりを告げる。
国境で帝国の馬車に乗り換え、荷を移し、祖国の護衛騎士達に別れを告げる。
1人1人に握手をし、大金貨数枚と小金貨数枚を入れた小さな巾着を握らせた。
「ありがとう。帰りはのんびり帰ってもいいのよ。何か言われたら、私がやたら休憩をさせたと言えばいいの。国を出たこともない小娘がこんなところまで来たのだから誰も不思議に思わないわ。
とにかく、楽しく帰って思い出にしてね。犯罪だけは駄目よ。家族へのお土産は必ず買うのよ。奮発してね」
「王女様を護衛できましたこと、光栄でございました。遠く離れていても我らは心優しき王女様を忘れることはございません」
「王女様!またお会いしましょう!」
「王女様!お元気で!」
騎士達と別れを告げて帝国内を移動し、6日後に王宮に到着した。門をくぐり、そのまま馬車を走らせて到着したのは変わった形の建物だった。
馬車を降りると、出迎えた者達が挨拶をしてくれた。
「プロプル王国第一王女ユピルピア様、ようこそエテルネル帝国へ。
こちらは皇帝の後宮となります。こちらの建物の一室で生活をしていただきます。
私は後宮の使用人を管理しておりますエルダと申します。何かございましたらお申し付けくださいませ」
「よろしくお願いします」
「ユピルピア様、今日からは王女様でも姫でもなく、皇帝に仕える者として様付けで呼ばせていただきます。
私は後宮長のサイモンと申します。後宮の秩序を守らせる者です。場合によっては懲罰房へ入れたり、身体に及ぶ罰を与えます。最悪は祖国に火の手が上がります。後宮の規則には従ってもらいます」
「分かりました」
「今日はお部屋でお過ごしください。食事を運ばせます。部屋の外へは出られません。明日、後宮の説明をしますので、その後でしたら 後宮内の許された場所に足を踏み入れることが可能となります。
では、エルダがご案内します」
部屋まで遠く、室内は広いが質素だった。
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