【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ

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後宮散策

運動不足になるといけないので、紹介を終えた日の午後から後宮内を散策することにした。あいにくの雨なので、建物内だけにした。

使用人部屋は一階の外廊下で繋がっていた。
他にも談話室 応接間 会議室などは複数あり、浴室や美容室もある。図書室や医務室もあり、調理室もあった。中央には小さな庭園と噴水、外側には人工的過ぎない庭園が広がっていた。背の高い木などは無い。

「逃亡や侵入を防ぐためでしょう。この建物から出れば、外の警備兵に丸見えですし、侵入しようとすればそれも丸見えです」

「そうなのね。外への散策は許可を取ってくれた?」

「はい。晴れて足元が落ち着けば可能です」

「乾いてくれないかしら」


2階のサンルームへ向かう途中、薄い褐色の肌をした女性二人とすれ違った。

「お待ちなさい」

「貴女に言っているのよ」

「私ですか?」

「挨拶もないの?」

「今朝しましたが」

「私達は帝国人よ。従属国の貴族はすれ違う度に挨拶するのが常識でしょう」

後宮ここの常識とは違います。ここに暮らす皇帝専属の女性達は、どの国の者だろうと どんな身分だろうと平等だと説明を受けましたし、明記されています」

「そんなのは帝国民には適用しないのよ」

「生意気ね」

「それは申し訳ございません。
モアナ・ゼンブル様、シャンティ・シトール様。
ユピルピアがご挨拶を申し上げます」

「分かればいいのよ」

「貴女は二階に用はないでしょう」

「サンルームを拝見したくて」

「見たら直ぐに部屋に戻りなさいよ」

「あの、個人の部屋に入らなければ後宮内は朝の6時から9時まで自由に歩いていいと規則に載っていましたが」

「二階は特別なのよ!」

「承知しました」

「早く去りなさい」

「はい。この足で挨拶の件と過ごし方について、誤記載があるとサイモン後宮長に指摘しに向かいます」

「え!?」

「ちょっと待ちなさい」

「何でしょう」

「何で言いに行くのよ」

「献上品である私達19名は他国出身です。特に後宮は別世界です。従わなければ大問題も起こり得て祖国にも影響しかねないにも関わらず、規則に誤記載があるなんて あってはならないことです。直ちに正すよう申し上げるのです。失礼します」

「待ちなさい!」

モアナ様の手が伸びたが、ベルベナが間に立った。

「ユピルピア様は従属国でも第一王女殿下です。帝国民だとしても貴族令嬢に責任は負えますか?」

「お、王女!?」

「王女なら挨拶は結構です。失礼します」


サンルームを見た後、図書室へ寄ってから部屋に戻り絵を描いていた。

そこにエルダが訪ねてきた。

「何かご不便はございませんか」

「大丈夫です。
商人に作ってもらいたい家具があるので、いつ来るのか教えてもらえますか」

「あまり高価な家具は予算をオーバーしてしまいますが」

「高価では無いはずですけど、それぞれ国毎に物価が違いますものね。
想像していたよりも予算は少なそうですね。
もしかしてお困りということでしたら個人で購入しますが」

「そ、そんなことはございません。ドレスなどにもお金がかかりますから心配になっただけです」

「今着ているようなものしか着ないから大丈夫です。沢山作って持参しましたし」

「ドレスは注文なさらないのですか?」

「お渡りは無いのですから着飾るのは無意味ですわ。
しかも後宮から出ることも叶いませんし」

「ではドレスを扱う商人ではなくていいのでしたら、直ぐに手配いたします」

「ありがとうございます」



翌日の午後、商人とデザイン画を見ながら相談していた。兵士とエルダが立ち会っていた。

「お昼寝に使うのですね」

「はい。本を読む時にも使えます」

ベッドとソファの中間で木製の土台にマットを敷いた物だ。上半身を少し起こした角度になっている。

「こちらは?」

台形の長いクッションを指し示した。

「膝の下に置いて脚を乗せます。1つなら膝だけ、2つ3つ組み合わせれば足先まで乗せることができます」

「ではサイズが重要ですね」

「硬さもです」

「小さなサイドテーブルがくっついているのですね」

「これで小さくても倒れません」

「窪みは?」

「コップなどを置いて倒れたりズレたりするのを防ぎます」

「なるほど」

「プロプルでは珍しくない家具です」

「かしこまりました。後は調合セットですね」

「遠くから来たものですから、あまり荷を増やしたくなくて。
愛用のすり鉢とすり棒は持ってきましたわ」

「かしこまりました。ユピルピア様は薬草の調合をなさるのですね?」

「はい。プロプル発行の調薬師の資格を持っています」

「それは素晴らしいことです。今度相談にのっていただいても?」

「はい。許しがあれば」

「では、依頼された物の概算を提出して許可を取ります」

「私が個人的に支払いますから、私に渡してください」

「え?」

「あまり予算が無さそう、」

「んんっ!大丈夫です。こちらで支払いますので、いつも通りお願いします」

「かしこまりました」




【 後宮長サイモンの視点 】


エルダの報告を聞いて青ざめた。
皇帝陛下がユピルピア様への待遇は最低限でいいと仰ったため、エルダにも伝えた。

「で、ユピルピア様は予算が少ないから自腹で払うと仰ったのか」

「はい。ユピルピア様に具体的な予算額はお伝えしておりません。平等と言った手前、ユピルピア様だけ皇帝陛下が控えさせろと仰ったとは言えません。
お渡りの有無も皇帝陛下がユピルピア様に選択権を与えたのであって、我儘ではありません。寧ろ皇帝陛下が面倒臭がった結果です。
この様な大事なことは書面に残すのは王女出身なら当然のことです」

「商人は何か言っていたか?」

「口には出しませんが、苦笑いなさっておりました」

「更にドレスを注文しなかったら、それが証明になってしまう。
はぁ…困ったな。こういうことを聞きつけた別の国が目を付けるかも知れない」

「サイモン後宮長、本当に財政難ではありませんね?ユピルピア様は食事ももう少し質素にして、その分召使い達の食費の足しにして欲しいと仰いました。持参の宝石も売って足しにして欲しいと渡そうとなさいました。
誤解を解かないと残りの18ヵ国の耳にも届きます」

参ったな……。


エルダの報告を皇帝陛下に伝えた。

「は? 財政難!?」

「はい。ユピルピア様はこちらの指示に従っているだけで非はございません。契約書を求めたのは従属国の王女ならば必要です。後々役目を果たさぬ献上品と指をさされないためです。

他の方とユピルピア様のでは金額が違いますので、平等と伝えた後では 金額を公表できません。ユピルピア様だけ低いとバレてしまいます。
平等であるから何とか保っている後宮が、平等ではないと判断されたら、寵妃争いは激化するでしょう。

このままでは後宮中に財政難説が伝わり、外部に漏れ、その内 国外へ漏れます。従属国のエリアを出れば争い事の火種となりかねません」

「最低限は撤回する…そういうつもりの“最低限”ではなかった。書類もちゃんと見ればよかった。
今夜ユピルピアを訪ねよう」

「先触れを出します」

「出さなくていい。抜き打ちをしたい」

「かしこまりました」


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