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制裁
しおりを挟む【 エミリオの視点 】
俺はアリスティーネのクラスメイトで友人の9人に頭を下げた。
「止めてください」
「そんなことをされてもエンちゃんの痛みは取れません」
「俺はアリスを守ったつもりだったんだ。あの女の矛先がアリスに向かないように。
本当にすまなかった」
「本当ですか?」
「本当だ」
「……座ったらどうですか」
「ありがとう」
「エンちゃんが止めなければ、俺、あの女の髪を掴んで窓から投げたかったよ」
「さすがにやり過ぎだろ」
「だってエンちゃんは何も悪くないだろう?」
「そうだけどさ、そのやり方じゃあ私達が負けるだけなんだよ。こういう時はジワジワと別の方向から追い詰めるんだよ」
「面白そうな話をしているね」
「で、殿下!?」
「しーっ 続けて。僕もアリスティーネの幼馴染だし、首を刎ねたいほど腹が立って仕方ないんだ。
僕の妹なのに手を出して無事で済ませるなんて有り得ないからね」
ノエルが座ると11人の作戦会議が始まった。
そして、数日後の停学明け。
学生食堂は静まり返った。
ノエルがセリーヌ嬢を平手打ちしたからだ。
「なっ!何をなさるのです!?」
「君もアリスティーネを叩いただろう?」
「それはっ」
「アリスティーネに罪は無かったのに君は叩いた。
人を叩いてもいいとロスティーユ公爵家で教わったのだろう?
だから僕もロスティーユ家を尊重して君を叩いたんだ。力加減はしてあげたよ?」
「わ、私は貴族令嬢ですわよ!?それなのに男性である王子殿下が手を挙げるなど許されませんわ!」
「へえ。偉くなったね。第二王子の僕をロスティーユ公爵家の面汚し如きが“許されない”?
そもそも君は令嬢とは呼ばないよ。婚約者の国に行って、その友人が女だからと虐め倒した挙句 怪我をさせて婚約者から愛想を尽かされて 婚約を破棄されたのに、同じことを繰り返す低脳さ。恐れ入ったよ」
「なっ!!」
「しかも今回、エミリオと君は婚約者でも恋人でも何でもないじゃないか。単なる共同事業主というだけで婚約者がいたときからエミリオに言い寄っていた尻軽が、捨てられて戻って来て、本格的にエミリオに付き纏うなんて、プライドは持ち合わせていないのかい?」
「殿下!」
「明日から、僕は停学だ。叩いても停学で済むらしい。喜んで叩かせてもらったよ。
部屋で菓子を食べながら謹慎でもしているよ。メイドに肩でも揉ませようかな。疲れていたから いい休暇となるだろう。
あ、出来るだけ人がいる場所に居た方がいいよ?
僕にとってアリスティーネは妹同然なんだ。つまり王太子夫妻にとっても妹同然だし、国王夫妻にとっても娘同然なんだ。
これからはちょっとしたことが命取りになりかねないからね。気を付けるんだよ?
ロスティーユ公爵夫妻にもくれぐれもよろしく伝えてくれ」
その後、ノエルは自ら学園長に報告に行き早退。そのまま2日間だけ停学になった。
だがその間に、セリーヌ嬢は確実に爪弾きにされていた。高位貴族の令息達は殴るふりをして寸止めをしてからかっていた。
「温厚な殿下を怒らせて無事で済むと思いましたか?公女様」
「こ、抗議するわ!」
「おお~怖っ」
「じゃあ、俺も抗議してもらおうかな~」
「きゃあ!」
「まだ触れてもいないのに大袈裟ですよ、公女様」
「エ、エミリオ様、助けてください」
「は? 何故 俺が?」
「だって私たちは、」
「煩い!
何でエミリオを泣きつくのかな。彼は僕と食事をしているんだ。近寄らないでくれ」
ノエルは停学を終えて登校を再開し、一緒に食事をしていた。
温厚なノエルが腐ったものでも見るかのような顔をしていた。
この女は何故 俺に助けを求めるんだ?
「アリスティーネは俺の全てだ。あの日、おまえに“何でもない”と言ったのは、毒蛇のようなおまえに目をつけられたら困るから、アリスティーネのことを何でもないと誤魔化した。
ただでさえ傷付けたのに、おまえが追い打ちをかけた。
なあ、アリスが何をしたというんだ?
彼女は決して前に出ず、いつも控えめだった。
幼馴染という関係もノエルと俺が押し付けた関係だ。アリスはいつも受け身だったんだ」
遠くの席にいる令嬢達に向かって声を張り上げた。
「おい!王子妃選考以降、アリスティーネを爪弾きにして嫌がらせをした女達!おまえらも同罪だ!
アリスティーネは立候補じゃない!王家のご意向で試験を受けただけだ!
アリスティーネにそんな気はなかったから高度な教育を始めていなかった。だが試験を受けるからと寝る間も惜しんで努力して、初日にうっかり眠ってしまっただけだ。それでも失態だったことは本人が一番分かっているし、自分のせいで努力が無駄になって王妃様やノエルにも失礼なことをしたと思い悩んだのもアリスティーネ本人だ。
失態をしたアリスティーネが選ばれた場合に おかしいと抗議するなら分かる。だが選ばれなかったのに攻撃するのは虐めでしかないだろう!心優しい令嬢に憂さ晴らしのようなことをして楽しかったか!ハント侯爵令嬢!」
「わ、私は何も…」
「あんたが令嬢達に声をかけて爪弾きにすることにしたということは、当時調査を入れて分かっているんだ。だがアリスティーネは幼馴染であるノエルの幸せを願って 俺に他言するなと頭を下げた。
一体何なんだ?何で腐った令嬢がのさばって、善良な令嬢が追い詰められるんだよ!」
「エミリオ、その話は本当か」
「メイド達の証言を取ったからな」
「ハント嬢。もしこのまま君を妻にしなくてはならなくなったら、僕は君との関わり全てを拒否しよう。初夜も無し、夫婦の会話も無し、催し事の同伴も無し。そしてできるだけ早く新しい妻を迎えて寵愛し 子を産ませよう。君は正妻の看板を抱えて、王宮の外れで暮らすといい。そこから祝砲や音楽に耳を傾けて生きろ」
「で、殿下…お許しくださいっ」
「何で?嫌だよ。もう話しかけないでくれ」
「殿下!」
「エミリオ、その調査報告書はまだあるの?」
「金庫に保管しているよ」
「学園が終わったら持って来て。父上達と兄上達に見せたいから」
「すぐに持っていく」
セリーヌ嬢もハント嬢も食堂から走り去って行った。
「チッ、片付けてから帰れよ」
ザック…おまえは大物だよ。
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