【完結】2人の幼馴染が私を離しません

ユユ

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【 レオナルドの視点 】

アリスティーネはだいぶ落ち着いてきたが、まだ食事は病人食並みだし、睡眠も短時間で目覚めてしまうらしい。

そんな中、エンブレア侯爵家の長男サミエルが王都の屋敷に現れた。

馬車から降りたその瞬間からアリスティーネを包み込む温かい笑顔とは裏腹に、彼女を抱きしめながら鋭い視線を私に向けた。

軽々とアリスティーネを持ち上げ、幼子のように片手で抱き上げながら彼女から私の説明を聞くと、穏やかな目になった。

居間で眠ってしまったアリスティーネを寝室へ運ぶと言ったきり、サミエル殿は戻って来ない。

「先に食事をしよう」

「ですが兄様は」

「こういう時はサミエルはアリスが起きるまで離れないわ。歳が離れているでしょう?それはもう宝物のように大事にしていたわ。学園を卒業して領地で仕事を始めて妻を持って。子供もできたけど、やっぱりアリスは特別なのね」

「サミエルが婚約した時は大変だった。
まだアリスティーネは7歳の誕生日前で、サミエルが16歳だった。アリスティーネは自分がサミエルの花嫁になるものだと思い込んでいて、大泣きしていた。サミエルは嬉しそうに泣き続けるアリスティーネを抱っこしていた」

「懐かしいわね。泣き顔がまた可愛くて、サミエルはメロメロだったわ。
あの子はサミエルとくっついていると すぐ眠くなるのよ。安心するのかしら」

「一度領地で引き籠ったときも、サミエルはアリスティーネを寝かし付けていた。
嫁に愛想を尽かされるんじゃないかと思うところだが、“分かっていて結婚したから大丈夫です”と言われたよ」

「サミエルの前でアリスを口説いたりしないでね」

「もちろんです」

本当にサミエル殿は戻って来なかった。


翌朝のアリスティーネはよく食べた。

「アリス。お腹がびっくりするからまた後で食べようか」

「はい、お兄様」

「それで、レオくんは戻らなくて大丈夫なのかい?」

「どうやら騒動があったようで、陛下が復帰なさったそうです。王妃の廃位が決まりました」

「それはまた…」

「どうやら陛下に毒を盛っていたようで、王妃が大怪我で寝込んでいる間に効果が薄れたようです。
強い毒だと私が跡を継ぐことになりますから、微量の毒を定期的に飲ませて第二王子が成人するまで、時折床に伏せる程度にさせたのでしょう。
共犯の宮廷医は処刑され、王妃はある程度怪我が治ってから改めて処刑をするようです。
養子に出る前は私にも毒を盛っていたと主治医が白状しました。
王妃もしくはその手先が毒を盛っても、診察すれば毒か病気か大体は分かりますからね。主治医は毒と分かっていて病気だと診断したのです」

「じゃあ、そろそろ戻るんだね?」

「陛下も毒を盛られていたということなら、仕方がないですね。本当は勝手にしてくれと思っていたのでメット公爵家の養子のままでいようと思っていましたが、王子に戻っることにします。
それに、やりたいことができましたから」

「やりたいこと?」

「アリス。エスペランサに留学しないか」

「え!?」

「2年生から卒業まで。
君が来るまでに整えておくよ。ゴタゴタも一掃しておく。
無理にじゃないよ?選択肢の一つとして提案しているんだ。だって、他人のために人生を変えられてしまうなんて、おかしいと思わないか?
君に意地悪をした令嬢たちは、何もなかったかのように卒業して嫁いでいく。なのにアリスティーネは?腹が立たないか?」

「アリスがここを離れるなんて無理ですわ」

「侯…パパとママも来ればいいではありませんか。
パパは無期限の休職になっていますし、領地は兄様に任せているのでしょう?

まあ、あくまでそういう方法もあるというだけです。強制でも何でもありません」

「レオ。もし行ったら私はどこに住むの?
学生寮か何かあるの?」

「学生寮もあるけど、王宮が嫌ならメット家に頼むよ」

「少し悩みたい」

「分かった。
アリスが回復してきたのを見届けられたから、私は今週末に帰国するつもりだ。
決意が出来たら手紙を送ってくれ。
ただし手続きとかあるから間際では困る。タイムリミットを聞いて手紙で知らせよう」

「ありがとう、レオ」


毒に侵されていたとはいえ、養子の話が出たら父上に“どうでもいい。好きにしろ”と言われた。

“どうでもいい”と言われて傷付いた私と、“何でもない”と言われて傷付いたアリスティーネ。環境も何もかも違う私達だけど、仲間のように思えてならないんだ。

卒業できれば、アリスティーネは狭い世界に閉じこもらなくても済む。
まあ、その狭い世界は君を甘やかしてくれるようだけど、もしサミエル殿が早逝したら、甥っ子たちへの負担を考えて思い悩むかもしれない。
独立するにしても卒業できるならした方がいい。

どうか幸せになって欲しい。






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