【完結】絶縁してでも愛を選んだのに、祭壇の前で夫が豹変しました。

ユユ

文字の大きさ
5 / 32

困惑する夫

結婚して以来、クロエが身銭を切った分を返そうとしたら、それはお祖父様からだと打ち明けられた。

「え!? お祖父様が!?」

「はい。リッチウェイ家と縁を切ったことになっているから大っぴらに援助できないけどとおっしゃって。私は現在大旦那様個人に雇われてお給料をいただいておりますが、他にお嬢様の生活を支えるためのお金も預かっております」

「知らなかったわ」

「もっといろいろとお出ししたかったのですが、高価な物を私が買っては怪しまれてしまい、それでは内緒になりませんから」

「ありがとう、クロエ」

「大旦那様にはバレたとお伝えします」

「お祖父様は私の結婚生活の詳細をご存知なの?」

「はい」

「心配かけてしまっているのね」

「そうですね。早く別れることを心待ちにしているみたいです」

「でも、行き場がないわ」

「大旦那様が受け入れてくださいます」

「そうかしら」

お祖父様は、5年前にお祖母様が天に召された際に、お父様に爵位を譲り一線を退いている。
リッチウェイ家は王都の一等地の本邸の他に、王都の南外れの落ち着いた場所にもう一邸かまえていてお祖父様はそこに滞在する。本邸だと騒がしいかららしい。領地では敷地内の別邸に住み、自由を満喫している。

リッチウェイ伯爵家の領地では定番色の他に珍しい色彩のサファイアが採れ、それは世界に輸出されている。石だけで売ることはほぼなく、冠やネックレスなどにして出すため、その分売値は高くなる。小さな石はそれ1つで出すことはない。たくさん敷き詰めたパヴェリングやパヴェバンクルなどにして売り出す。だから安価な商品はない。
彫金の技術にも優れ、デザイン次第ではバルモンドから依頼を受けることもある。

酪農でも有名だ。
固定客がずっと予約枠を維持しているので、口にするには購入した人の屋敷に行って振る舞ってもらうか、仕入れているレストランを予約して食べに行くか。
生産量が少ない年は幻のチーズ、幻の肉などと呼ばれる。

夫はリッチウェイの富を雨の恵みのように考えていそうだけど、大昔、採掘して外れたことも何度とあったけど諦めなかったから稀少な運を手にできた。酪農も環境や餌の研究を重ね、チーズ作りも何度も何度も失敗し、最初の成功で良しとせず研究改良を繰り返した。リッチウェイの富は心が折れるほどの多くの失敗と無数の努力の積み重ねの上にある。

「もちろんです、同じ瞳を持つ最愛の孫娘ですから」

リッチウェイの中で稀にグリーンとブルーが混じらず放射状に虹彩を色付け、透明度を誇る泉のような瞳の持ち主が生まれる。現在生きてその瞳を持つ者はお祖父様と私だけ。この瞳はリッチウェイを繁栄させると言われている。

お祖父様が生まれてすぐに、感染力が強く重症化する風邪が流行って大勢が亡くなった。そのときリッチウェイの領地内に死者が出ることはなかった。
その数年後、品種改良に成功して病気になりにくく肉質の良いブランド牛を繁殖させた。
お祖父様は、三階から転落したのに小さな擦り傷しかなかったという奇跡が一番すごかったと話してくれたことがある。

私の瞳の効果は? と聞かれてもよくわからない。
お祖父様の瞳のおかげかもしれないし。



数週間後。

用もないのに夫と愛人シャルロットが領地の屋敷に戻った。
いつもの古くて見すぼらしいワンピースに着替えて居間へ向かう。

「お帰りなさいませ」

シャルロットを見ると今にも泣き喚きそうな顔をしている。

「……おい。何故かみんなの態度がおかしいんだ。何か知っているか?」

何を尋ねているのか、何が起きているのか心当たりがあるけど、普通はその言葉だけで答えに辿り着くことはない。

「あの、もっと詳しく教えてくださらないと何をおっしゃっているのか」

「今まで交流があった貴族や友人達から避けられているんだ。いつの間にか私を外して集まっていて、何を聞いてもはぐらかされる。それに自ら御用聞に来ていた商人も来なくなった」

「そうよ! 呼んでやっても粗末な品か売れなさそうな高価な品だけしか持って来ないし、説明しないし売る気がないの! しかも来たのは荷物運びの下男と見習いの売り子だけなのよ!?」

なかなか頼もしい店じゃない。

「何て店でしたか?」

「ピリア」

店の名に心当たりがなく、クロエを見ると声を出さず口が動いていた。

〈 フィ・リ・ア 〉

エリーゼ、落ち着くの。笑っては駄目。読もうと思えばピリアとも読めるかも。違うことを一度考えるの。そう、愛して結婚したはずの夫が豹変した日のことを……。

込み上げる笑いを不幸な思い出で掻き消した。

「何か外で目に引くようなことをなさいましたか?」

「別に」

気付かせないと。もっとヒントをあげないと。

「声を張り上げたり、感情を抑えなかったり。例えば怒りとか」

「ん~、あったかなぁ」

ここまで言っても!?

「視線をたくさん浴びたりとか」

「ん~」

「あ、オペラのチケットの件ですわ。抗議したときに」

「あれは向こうが悪いんだろう」

「感情を出して声を張り上げたりすると事情を知らない方々には異様に映ったかもしれません。多くのお客様がいらしたのではありませんか?」

「確かに、公演が終わって客がたくさん出てきたな」

「それですわ」

やっと指摘できて良かったわ。

「なんでだ?」

「本当におかしいです! 私達は当然のことを言っただけですのに全く相手にしようとせず、帰れって言いましたのよ!」

「そうだ! 失礼な奴らだった!」

本当よ。どうして私はこの男が輝いて見えたのかしら。
結婚前はこんな馬鹿なことは言い出さなかった。優しくて話を聞いてくれて、よく王宮内の庭園の開放日にデートに連れて行ってくれた。たくさん褒めてくれて愛してると言ってくれた。彼とならリッチウェイを出ても穏やかで愛のある日々を過ごせると思っていた。

今ならわかる。話を聞くのは無料タダ、せいぜいお茶代くらい。王宮庭園の開放日を利用すれば無料タダ、昔から他の女性にも何度と使っていたデートコースなら庭師並みに花の知識もあるはずよね。観劇とか連れて行ってもらったことはない、だからこの惨事。無料開放の美術品展示とかそういうお金のかからないデートばかりだった。

バルト家に余裕がないと感じていたから、そんなデートも彼の最大限の心遣いだと思っていた。
私の生きてきた世界でそれが新鮮に感じたの。

代が惜しかったなんて気付かず、“私のような者は君に相応しくないのはわかっているが、一生側にいたいなんて夢を見てしまうんだ” なんてプロポーズらしき言葉を放つ彼からいかにも売れ残りの萎れ気味の花をもらって喜んでいた。

私のバカ。





あなたにおすすめの小説

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。 【感謝】 第19回恋愛小説大賞にて奨励賞を受賞しました。 ありがとうございます。

忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。 5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。 週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。 そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り―― 忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。 そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。 中世風異世界でのお話です。 2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。

【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……