【完結】絶縁してでも愛を選んだのに、祭壇の前で夫が豹変しました。

ユユ

文字の大きさ
20 / 32

反りが合わない2人

翌朝の別邸では。

引き攣った笑みを浮かべて朝食の席に現れたのはジュリアンだ。彼はぎこちない歩き方をしていた。

「ジュリアン、どうした」

「筋肉痛です」

彼の祖父は何やってるんだという顔をした。
彼の祖母は笑いながら夫に話す。

「昨夜お話ししたではありませんか」

「女物の靴を履いて筋肉痛なのか」

「お祖父様も履けばわかりますよ。足どころか、コルセットという拷問着のせいで腰も背中も痛いんですから。髪の毛も長いと首も肩も凝るんですよ」

「ふふっ、運動しなさすぎなのよ」

「何でお祖母様は大丈夫何ですか? 僕、肋骨折れたんじゃないかな。クロエが容赦ないから」

確かにクロエはコルセットの紐を、まるで殺し屋が標的を絞め殺すかのように絞めていたわね。
あれを見て、今まで私は手加減されていたのだと知ったわ。私の背中を足で押さえ付けたこともないもの。本当はコルセットをこれでもかと絞め上げることで恨みを晴らしているかもしれないなんて思っていて悪かったわ。
今日はたくさん撫でてあげるわね。

「うちのクロエは優秀なの」

クロエは嬉しそうに瞳だけ輝かせた。


食後にジュリアンは、女物の靴の恐ろしさを知ったせいか、私の足を心配して抱き上げて、居間に移動してソファに降ろそうとしたけど、ほぼ全身筋肉痛の彼はバランスを崩して私ごと倒れた。何とか私だけはソファの上に落としたけど、彼は肘掛けに倒れそのままゴロンとローテブルに脇腹を打ち付け悶絶。
医者を呼ぶ羽目になった。

彼の祖父母は呆れて私に平謝り。

「しばらく安静になさってください。直に骨を確認できないので何ともいえませんが、酷い打ち身だけか肋骨にヒビが入っているかのどちらかです。ひとまず1ヶ月様子を見ましょう。移動できるかどうかはその後判断します。痛み止めと薬草を置いて帰りますので、すり潰して塗って清潔な布をあてて包帯か何かを巻いてください」

「馬鹿だな」

彼のお祖父様は “これは私の孫で間違いないのか?” と言いたげな顔をしている。

「他所様の家で何をやっているのよ、恥ずかしい」

彼のお祖母様は頭を抱えている。

「ごもっともです」

本人は下を向いてそう答えた。

「ローランド、すまないが動かせるようになるまでジュリアンを頼めるか?」

「もちろんだとも」

お祖父様が承諾するとジュリアンはニコニコし始めた。

「何を嬉しそうにしているんだ。エリーゼ嬢を怪我させるところだったんだぞ。治ったら毎日兵士達と朝の鍛錬をさせるからな。まったく…馬にばかり夢中になっているから馬鹿なことを言ったりやったりするんだ」

「お祖父様ぁ」

「大人になった孫息子にそんな声を出されても気色悪いだけだ」

「差別じゃないですか!」

「ジュリアンもオスカーが膝の上に座るよりエリーゼ嬢が座る方がいいだろう、それと同じだ」

「そうよ、私だってあなたよりエリーゼ嬢の方がいいわ」

「お祖母様まで……」

そんなことを言っているけど、2人にとって彼はとても可愛い存在なのね。愛されて育ったことを感じるわ。

「私もお祖父様に甘えたいです」

「よしよし、エリーゼはいくつになっても可愛いぞ」

「私もお祖父様が大好きです」

「エリーゼだけズルい」

最初の印象より子供っぽい中身のジュリアンを見ていたら弟ができた気分になった。



前バミュート伯爵夫妻とジュリアンが別邸に滞在して6日目。
本邸でルセット子爵令息としての役割を終えて、私の護衛騎士に戻るために別邸に戻ったのだけど、ソファで私の膝枕で横になるジュリアンを見て固まった。

「エリーゼ、何してるんだ?」

「エル」

お祖父様がこうなってる経緯を簡単に説明した。

「バミュート伯爵令息、辛いのでしたら客室で安静になさったらよろしいのでは?」

「お構いなく」

「エリーゼ」

エルは咎めるかのように低い声で私の名を呼んだ。
それに反応したのはジュリアンだ。

「ルセット卿、その姿は私兵としての役割を果たしに来たんですよね? 主人に向かって咎めるように呼び捨てにするなんて有り得ないと思うのは僕だけですかね」

「エリオット」

お祖父様が注意を促すようにエルの名を呼んだ。

「失礼しました」

ジュリアンはクロエの方に顔を向けて手を上げた。

「クロエ、僕の鞄の中に青いリボンがかかった水色の箱があるから持って来てよ」

「嫌です」

「頼むよクロエ、君の大好きなご主人様にあげるものなんだ」

「取ってきます」

ジュリアンはクロエの動かし方を心得てるわね。掌握が早くない??

クロエが取りに向かうとジュリアンは私の髪先に触れた。

「クロエは本当にエリーゼが大好きなんだね」

「私もクロエが大好きなの」

「相変わらず無礼な言動があるんだけど、やっぱり腹が立たないよね」

「クロエの魅力がわかるなんて見込みがあるのね」

「ハハッ、そうかもしれないね」

そこからクロエとの昔話をしているとクロエが戻って来た。

「それ、エリーゼにあげる」

「いいの? ありがとう」

開けると綺麗な小瓶が入っていた。

「これは?」

「香水だよ。隣国で買ったんだ。男女問わず付けられる香りで僕も使ってるんだ」

それは使い辛いわね。でもお礼を言わないとね。

「ありがとうございます」

「車椅子も貸してもらえたから、明日から散歩に連れて行ってよ。外の石畳の歩道、あれすごい精度だよね。行ったことはないけど、国王陛下専用の庭園の石畳より絶対こっちの方が綺麗だと思うよ」

歩道の石畳は、ピンヒールで歩いても引っかかったりしないよう丁寧に作り上げられている。石のタイルの隙間が窪んでいたり盛り上がっていたりしないよう、頻繁に点検させている。石のタイルはツルツルに磨き上げて敷き詰めるのではなく、わずかにザラザラさせ、雨が降っても滑らないようにしている。そして歩道も馬車道も水たまりができにくい。人に認識させない程のわずかな勾配をつけている。

「しかもさ、水が綺麗だし魚泳いでるし」

ただ漏れるように水を湧き出して周辺の土地を泥濘ませていた水量の少ない水源を生かせるように、土を掘って幅狭の川を作った。その先に小さな池を作っていて、幻の淡水魚とされる魚が生息している。
食べる目的で仕入れて気まぐれに池に放したらしいけど、餌をねだる姿が可愛く思えてきてそのまま食べずに繁殖させたらしい。

更に余分な水気を吸収させようと、水をよく吸う植物を適量植えている。

「あれ、幻の魚だよね。すごく美味しいってお祖父様が言ってたけど、どのくらい美味しいのか食べてみたいな」

「あの魚達に手を出したら戒めの石版を池のほとりに設置することになるわよ?」

「何それ」

「 “ジュリアン・バミュート、享年19歳、池の魚に手を出して処刑される” ってね」

「冗談だよね?」

「ここの敷地に入った瞬間から領邦法に似た独自の法律が優先されるわ。あの池の魚に手を出したら側にある木に縛り付けられて10日間飲まず食わずでいないといけないの」

「作り話だよね?」

「本当よ。さすがに王族相手なら他の方法で手を打つだろうけど」

「たかが魚なのに?」

「自分で言ったじゃない、だって。ジュリアンは幻の人種じゃないでしょう?」

「酷い」

「二軒隣のガルティーノ侯爵夫人はあの魚全部に名前を付けていらっしゃるから、一匹でも消えたらバレるわよ」

「本当に!?」

「本当よ。確かジュリアンって名付けられた魚もいるわよ。住人と住人の家族の名は使わなかったらしいから、私の名前はないわね」

「僕も住んだら、その魚を改名してくれるかな」

「たぶん、してくださるわ」

「それなら良かった」

「ここの土地は絶対売りに出ないわよ」

「そうだね」

ジュリアンは指に私の髪を巻き付けながら、旅先での思い出を話し出した。

あなたにおすすめの小説

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。 【感謝】 第19回恋愛小説大賞にて奨励賞を受賞しました。 ありがとうございます。

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……