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過去じゃない想い
翌日。
お兄様のお嫁さんが誕生日を迎えるので贈り物を買いに貴族街に来ていた。急に現れた悪阻が重くパーティなどは無し。面会もできない。お兄様も近寄れないらしい。
まだ公になっていない懐妊だけど、お兄様の顔がデレデレし過ぎなので、すぐにバレると思う。
気分転換にオルゴールの小物入れを贈ろうとお店に入るとそこにはお兄様のパーティで会ったエルの元恋人がいた。
「リッチウェイ嬢、ごきげんよう」
「グレイ侯爵令嬢にご挨拶を申し上げます」
「……少しお付き合いしてくださる? お買い物が終わるまで待ちますわ」
また明日来ればいいと思ったけど、令嬢が一緒に選んでくれたので購入してからティーサロンに場所を移した。
彼女はグレイ侯爵家の次女サーシャ様。茶色の髪と瞳という一番多い色だけど顔が小さくて細身の美人。カップを持ちお茶を飲む姿もとても美しい。
「私の婚約は政略的なものでした。婚約者の家門を中立派から貴族派に引き込むためのものです。当主同士はそれで良くても当人は違います。彼は互いに貞操の誓いは不要だといいました。既に好きな方がいたようです。だからといって私も恋人を作ろうとしたわけではなく、ただルセット家のパーティでエリオット様に出会って恋に落ちたのです」
聞きたくないとは言えずに静かに話を聞いた。
「婚約者に初めてを捧げるのも嫌でしたし、エリオット様に他の令嬢の手を取って欲しくなくて誘いました。彼は本気になることはないし未来を語ることはない、それに優しくもしないと言われました。本心を言えば同意したくなかったのですが、そうしないと彼は私を避けたでしょう。同意して初めて男の人を受け入れました。雑に抱かれるかと思いましたが、初めてだと知るととても優しく丁寧に触れてくれました。いっそのこと乱暴にしてくれたら恋心など消えたかもしれません」
パーティではあんなに冷たく突き放したのに、エルは令嬢を大事にしていたのね。
「逢瀬は彼の予定次第。それでも会えるとわかれば予定を変えて会いました。デートなんてものはなく、ただ体を重ねるだけ。彼にとっては吐け口でも私にとっては夢のような時間でした。だけどある日、縁談がまとまりそうだからと別れを切り出されました。私は続けたいと懇願しましたが彼は相手の令嬢に誠実でありたいと言い、三ヶ月ほどの関係は終わってしまいました。ですが一年以上経った今も彼は婚約していません。リッチウェイ嬢は何かご存知ありませんか?」
「私、全く何も知らないんです。彼の私生活とか縁談の話とか。ただ兄の友人であるエルが、兄と一緒に私をかまうだけでしたし、私は結婚しましたから」
「私はエリオット様のそのお相手があなただと思ったのです」
「私ですか!? あり得ません」
「そうでしょうか。あのパーティで宝物のようにエスコートされていたではありませんか」
「それは妹のような存在だからです。しかも辛い結婚生活を終わらせたばかりでしたから優しかっただけです。それにエル自身も言っていました」
「彼は何と言ったのですか?」
「私のことは対象外だと」
「そうですか」
「あの、婚約者の方とは」
「この間、式の日取りが決まりましたわ。今まで恋人との時間を過ごしたくて結婚について濁していたのに、婚約者のお祖母様が弱っていらっしゃるらしくて、早く孫の顔を見せたいんですって。私の存在なんてその程度のものですわ。まぁ、血を残すのは貴族の務めですから仕方のないことですけど」
「でも絶対に私の結婚生活よりマシですわ」
令嬢は私の過去の結婚生活を聞くと涙を流した。
「そこまで酷いとは……」
「今は家族の元に帰ることができて幸せです」
「良かったですわね」
その後は、一緒に買い物を続けて夕方に別れた。まるで友達みたい。
別邸に戻るとお兄様が来ていて、一緒に夕食を食べながらグレイ侯爵令嬢に会ったことを話した。
「エルの別れた女と買い物をしてお茶を飲んできたのか!?」
「はい。美味しいケーキもご馳走になりました」
「いや、そうじゃなくて」
「まだエルに思いを寄せていらっしゃるようでしたが、式の日取りが決まったそうです」
「何かされなかったか?」
「いいえ。美しくて優しくて素敵な方でした」
歳が近いのに面識がなかったのは、接点がなかったこと。ルセット夫人とグレイ夫人に接点があっただけだった。私も令嬢もあちらこちらのパーティに顔を出すタイプではなかったことも要因だ。
「彼女はエルを愛していて、復縁を望んでいます。せめて式を挙げるまで会ってあげたらいいと思うんです」
「本気か?」
そんなに驚くこと?
「元々婚約者持ちだと知っていてお付き合いしたのですから結婚前なら問題なさそうですよ? それに別れる原因となったエルの婚約はなくなったと聞きました。嫌いで別れたわけじゃないのでしたら復縁もいいかなと。本当に素敵な方で、エルが令嬢と交際した理由がわかりましたわ」
「頭が痛い……あいつの気持ちを全くわかっていない」
「すみません、お兄様。余計なお世話でしたわ」
「エリーゼ、どうしてあいつをこっちに戻したんだ?」
「人材としてもったいないと感じたからです。別邸にいてたまにしか出かけない私の護衛なんて退屈過ぎます」
「それだけか?」
「はい」
お兄様は何か言いたい言葉を飲み込んでいるような気がした。
お兄様のお嫁さんが誕生日を迎えるので贈り物を買いに貴族街に来ていた。急に現れた悪阻が重くパーティなどは無し。面会もできない。お兄様も近寄れないらしい。
まだ公になっていない懐妊だけど、お兄様の顔がデレデレし過ぎなので、すぐにバレると思う。
気分転換にオルゴールの小物入れを贈ろうとお店に入るとそこにはお兄様のパーティで会ったエルの元恋人がいた。
「リッチウェイ嬢、ごきげんよう」
「グレイ侯爵令嬢にご挨拶を申し上げます」
「……少しお付き合いしてくださる? お買い物が終わるまで待ちますわ」
また明日来ればいいと思ったけど、令嬢が一緒に選んでくれたので購入してからティーサロンに場所を移した。
彼女はグレイ侯爵家の次女サーシャ様。茶色の髪と瞳という一番多い色だけど顔が小さくて細身の美人。カップを持ちお茶を飲む姿もとても美しい。
「私の婚約は政略的なものでした。婚約者の家門を中立派から貴族派に引き込むためのものです。当主同士はそれで良くても当人は違います。彼は互いに貞操の誓いは不要だといいました。既に好きな方がいたようです。だからといって私も恋人を作ろうとしたわけではなく、ただルセット家のパーティでエリオット様に出会って恋に落ちたのです」
聞きたくないとは言えずに静かに話を聞いた。
「婚約者に初めてを捧げるのも嫌でしたし、エリオット様に他の令嬢の手を取って欲しくなくて誘いました。彼は本気になることはないし未来を語ることはない、それに優しくもしないと言われました。本心を言えば同意したくなかったのですが、そうしないと彼は私を避けたでしょう。同意して初めて男の人を受け入れました。雑に抱かれるかと思いましたが、初めてだと知るととても優しく丁寧に触れてくれました。いっそのこと乱暴にしてくれたら恋心など消えたかもしれません」
パーティではあんなに冷たく突き放したのに、エルは令嬢を大事にしていたのね。
「逢瀬は彼の予定次第。それでも会えるとわかれば予定を変えて会いました。デートなんてものはなく、ただ体を重ねるだけ。彼にとっては吐け口でも私にとっては夢のような時間でした。だけどある日、縁談がまとまりそうだからと別れを切り出されました。私は続けたいと懇願しましたが彼は相手の令嬢に誠実でありたいと言い、三ヶ月ほどの関係は終わってしまいました。ですが一年以上経った今も彼は婚約していません。リッチウェイ嬢は何かご存知ありませんか?」
「私、全く何も知らないんです。彼の私生活とか縁談の話とか。ただ兄の友人であるエルが、兄と一緒に私をかまうだけでしたし、私は結婚しましたから」
「私はエリオット様のそのお相手があなただと思ったのです」
「私ですか!? あり得ません」
「そうでしょうか。あのパーティで宝物のようにエスコートされていたではありませんか」
「それは妹のような存在だからです。しかも辛い結婚生活を終わらせたばかりでしたから優しかっただけです。それにエル自身も言っていました」
「彼は何と言ったのですか?」
「私のことは対象外だと」
「そうですか」
「あの、婚約者の方とは」
「この間、式の日取りが決まりましたわ。今まで恋人との時間を過ごしたくて結婚について濁していたのに、婚約者のお祖母様が弱っていらっしゃるらしくて、早く孫の顔を見せたいんですって。私の存在なんてその程度のものですわ。まぁ、血を残すのは貴族の務めですから仕方のないことですけど」
「でも絶対に私の結婚生活よりマシですわ」
令嬢は私の過去の結婚生活を聞くと涙を流した。
「そこまで酷いとは……」
「今は家族の元に帰ることができて幸せです」
「良かったですわね」
その後は、一緒に買い物を続けて夕方に別れた。まるで友達みたい。
別邸に戻るとお兄様が来ていて、一緒に夕食を食べながらグレイ侯爵令嬢に会ったことを話した。
「エルの別れた女と買い物をしてお茶を飲んできたのか!?」
「はい。美味しいケーキもご馳走になりました」
「いや、そうじゃなくて」
「まだエルに思いを寄せていらっしゃるようでしたが、式の日取りが決まったそうです」
「何かされなかったか?」
「いいえ。美しくて優しくて素敵な方でした」
歳が近いのに面識がなかったのは、接点がなかったこと。ルセット夫人とグレイ夫人に接点があっただけだった。私も令嬢もあちらこちらのパーティに顔を出すタイプではなかったことも要因だ。
「彼女はエルを愛していて、復縁を望んでいます。せめて式を挙げるまで会ってあげたらいいと思うんです」
「本気か?」
そんなに驚くこと?
「元々婚約者持ちだと知っていてお付き合いしたのですから結婚前なら問題なさそうですよ? それに別れる原因となったエルの婚約はなくなったと聞きました。嫌いで別れたわけじゃないのでしたら復縁もいいかなと。本当に素敵な方で、エルが令嬢と交際した理由がわかりましたわ」
「頭が痛い……あいつの気持ちを全くわかっていない」
「すみません、お兄様。余計なお世話でしたわ」
「エリーゼ、どうしてあいつをこっちに戻したんだ?」
「人材としてもったいないと感じたからです。別邸にいてたまにしか出かけない私の護衛なんて退屈過ぎます」
「それだけか?」
「はい」
お兄様は何か言いたい言葉を飲み込んでいるような気がした。
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