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すれ違った関係
【 エリオット・ルセットの視点 】
ただ毎日やるべきことをやって、酒を飲んで寝るだけ。
女を抱く気にもなれなかった。
『おまえ、そんなにエリーゼのことが好きだったのか』
無気力な俺にシオンが言った。
『知っていただろう』
『そうだけど、妹のような存在としてかもと思っていた』
『何の話もないままならここまでじゃなかったかもしれない。エリーゼと結婚できると思ったのに、寸前で盗られたんだ。エリーゼに嫌われないなら相手の男を殺したかったくらいだ』
『父上もお祖父様もエリーゼは戻って来ると予想している。あの男の化けの皮が剥がれるのを待っているんだ』
『そうか』
『エリオット。すまなかった』
『帰るよ、また明日』
こんなに様々な感情を抱えたことはない。
この思い出だらけの土地を離れることも考えたりもした。苦しいのに去ることができない。
あれから1年が経とうとしていた。リッチウェイの別邸に呼び出され、前伯爵の前に座った。
『エリーゼが戻って来る』
『帰省ですか? 良かったですね』
『エリオット。エリーゼは婚姻無効で戻って来る』
『無効?』
『オリバーは愛人を作り妊娠させているが、エリーゼとは白い結婚だ』
『まさか』
『エリーゼから手紙が届いた。迎えに行かせようと思うが、誰に命じたらいいと思う?』
『俺が行きます』
『決してエリーゼを責めるな。気が変わったら困る』
『大事に連れ帰ります』
『頼んだぞ』
出発前に伯爵とシオンに異動を申し入れた。戻って来るエリーゼの側にいられるよう彼女専属の護衛になりたかった。2人は快諾してくれた。
『あんなに拗ねていたのに、エリーゼが戻ることになったらこんなに機嫌が良くなるなんて。ちゃんと食べて寝て身綺麗にして行けよ』
『そうするよ』
やっとエリーゼを迎えに行くと、屋敷から出てきたエリーゼに釘付けになった。
少し痩せたようだが、1年という時の流れがエリーゼをまた大人っぽく変化させていた。
膝を付き、心を込めて彼女の手にキスをした。
連れ戻し、ゆっくり彼女と距離を縮めたかったが、傷付いた心を癒したいから当分縁談は避けることになった。結婚式のときからの話を聞いていたから当然だと思ったので、焦らないことにした。
元気になっていくエリーゼを側で見ることができて満足だった。
だが、すれ違いはすぐに起こった。
パーティで、以前関係を持った令嬢が声をかけてきた。これは想定済みだ。エリーゼに勘違いをさせないよう、彼女達に最初からその気はなかったしこれからもないと告げた。
エリーゼに泣かれた。
『馬鹿だなぁ。エリーゼは愛し合っていると思った男に裏切られて冷たくされて傷付いて戻って来たんだぞ。おまえは令嬢達と恋愛はしていなくても寝たんだろう? 相手が好意を寄せているのにエリーゼの前で冷たくし過ぎたら駄目だろう』
シオンが何やってるんだという顔をした。
『はっきりさせたかったし、冷たくした方がエリーゼに矛先が向かずに俺に向くと思ったんだ』
『だがエリーゼは令嬢達に自分を重ねたから泣いたんだ。』
『……』
早く別邸に行きたい。エリーゼを抱きしめたい。
『客人が帰るまで本邸で子爵令息の振る舞いをしてくれよ』
シオンは俺の頭を覗いたのか?
その隙にバミュート伯爵家が別邸に滞在していると聞いた。エリーゼと歳が近い令息も一緒らしい。気が気じゃない数日を過ごしてやっとエリーゼに会いに行くと、エリーゼの膝枕でソファに横たわる男と目が合った。
また盗られると思った。
ついエリーゼまで威圧してしまった。
『ルセット卿、その姿は私兵としての役割を果たしに来たんですよね? 主人に向かって咎めるように呼び捨てにするなんて有り得ないと思うのは僕だけですかね』
あぁ、コイツはライバルだ。しかも自分が格上だという態度がひしひしと伝わる。あの令息は次期バミュート伯爵となる男で、俺は子爵家の次男で爵位は継ぐことは叶わない。俺のことを把握しているんだとわかる。
『エリオット』
前伯爵から注意され引き下がるしかなかった。
あいつは長く滞在し、その後やっと帰ったものの、エリーゼが頻繁にバミュート邸を訪れていると聞いた。
一方で俺はエリーゼの護衛から外された。
『馬鹿ですね』
『クロエ』
『独占欲が丸出しなんですよ』
『……』
『そもそもお嬢様は私のものです』
『その次は俺だろう』
クロエは腕を組み溜息をついた。
『うまくやってくださいよ。意外とジュリアン様は面白いですよ。子供と大人が入り混じって賢い時もあれば馬鹿な時もあって、私やお嬢様の扱いをすぐに覚えましたし』
『チッ』
『でも、エリオット様も捨てがたいです』
『護衛を外されたのに?』
『あのクソを殺したの、エリオット様ですよね』
『証拠は?』
『違うなら私の見込み違いということで』
『エリーゼを騙して傷付けたクズを生かしておけるか』
ほぼ休まず馬を走らせ、あのクズのいる屋敷に忍び込んで、愛人と並んで描かせた肖像画を見ていた男の背後から首に紐を掛け、背負い投げのように引っ張り首を絞めた。吊るし終えるとまた馬を走らせエリーゼの元へ戻った。
火の気は全くなかったのに、その後火事になったのは誰のせいなのか。
『偉いですよ。本当は私がやりたかったんですけど、お嬢様のお側を離れられませんし。毒を盛ったシャルロットに追手を向かわせるしかできませんでした』
『何をした?』
『あの女は、オリバーに利用価値が無くなれば消えると思いました。だからゴロツキにお金と情報を渡したんです。いずれ金目のものを持って移動するから人気のない場所で襲えって。シャルロットの実家までの地図も渡しました。親切だと思いませんか?』
『さすがクロエ』
『そうでしょう』
『ジュリアン・バミュートは排除できるか?』
『今のところ無理ですね。しかも彼、純潔ですよ』
『そうなのか?』
『多分浮気はしないでしょうね』
最初の夫がアレでは、ジュリアンのような甘え上手な純潔は有利かもしれない。
どうしたらいいのかさっぱりわからない。
ただ毎日やるべきことをやって、酒を飲んで寝るだけ。
女を抱く気にもなれなかった。
『おまえ、そんなにエリーゼのことが好きだったのか』
無気力な俺にシオンが言った。
『知っていただろう』
『そうだけど、妹のような存在としてかもと思っていた』
『何の話もないままならここまでじゃなかったかもしれない。エリーゼと結婚できると思ったのに、寸前で盗られたんだ。エリーゼに嫌われないなら相手の男を殺したかったくらいだ』
『父上もお祖父様もエリーゼは戻って来ると予想している。あの男の化けの皮が剥がれるのを待っているんだ』
『そうか』
『エリオット。すまなかった』
『帰るよ、また明日』
こんなに様々な感情を抱えたことはない。
この思い出だらけの土地を離れることも考えたりもした。苦しいのに去ることができない。
あれから1年が経とうとしていた。リッチウェイの別邸に呼び出され、前伯爵の前に座った。
『エリーゼが戻って来る』
『帰省ですか? 良かったですね』
『エリオット。エリーゼは婚姻無効で戻って来る』
『無効?』
『オリバーは愛人を作り妊娠させているが、エリーゼとは白い結婚だ』
『まさか』
『エリーゼから手紙が届いた。迎えに行かせようと思うが、誰に命じたらいいと思う?』
『俺が行きます』
『決してエリーゼを責めるな。気が変わったら困る』
『大事に連れ帰ります』
『頼んだぞ』
出発前に伯爵とシオンに異動を申し入れた。戻って来るエリーゼの側にいられるよう彼女専属の護衛になりたかった。2人は快諾してくれた。
『あんなに拗ねていたのに、エリーゼが戻ることになったらこんなに機嫌が良くなるなんて。ちゃんと食べて寝て身綺麗にして行けよ』
『そうするよ』
やっとエリーゼを迎えに行くと、屋敷から出てきたエリーゼに釘付けになった。
少し痩せたようだが、1年という時の流れがエリーゼをまた大人っぽく変化させていた。
膝を付き、心を込めて彼女の手にキスをした。
連れ戻し、ゆっくり彼女と距離を縮めたかったが、傷付いた心を癒したいから当分縁談は避けることになった。結婚式のときからの話を聞いていたから当然だと思ったので、焦らないことにした。
元気になっていくエリーゼを側で見ることができて満足だった。
だが、すれ違いはすぐに起こった。
パーティで、以前関係を持った令嬢が声をかけてきた。これは想定済みだ。エリーゼに勘違いをさせないよう、彼女達に最初からその気はなかったしこれからもないと告げた。
エリーゼに泣かれた。
『馬鹿だなぁ。エリーゼは愛し合っていると思った男に裏切られて冷たくされて傷付いて戻って来たんだぞ。おまえは令嬢達と恋愛はしていなくても寝たんだろう? 相手が好意を寄せているのにエリーゼの前で冷たくし過ぎたら駄目だろう』
シオンが何やってるんだという顔をした。
『はっきりさせたかったし、冷たくした方がエリーゼに矛先が向かずに俺に向くと思ったんだ』
『だがエリーゼは令嬢達に自分を重ねたから泣いたんだ。』
『……』
早く別邸に行きたい。エリーゼを抱きしめたい。
『客人が帰るまで本邸で子爵令息の振る舞いをしてくれよ』
シオンは俺の頭を覗いたのか?
その隙にバミュート伯爵家が別邸に滞在していると聞いた。エリーゼと歳が近い令息も一緒らしい。気が気じゃない数日を過ごしてやっとエリーゼに会いに行くと、エリーゼの膝枕でソファに横たわる男と目が合った。
また盗られると思った。
ついエリーゼまで威圧してしまった。
『ルセット卿、その姿は私兵としての役割を果たしに来たんですよね? 主人に向かって咎めるように呼び捨てにするなんて有り得ないと思うのは僕だけですかね』
あぁ、コイツはライバルだ。しかも自分が格上だという態度がひしひしと伝わる。あの令息は次期バミュート伯爵となる男で、俺は子爵家の次男で爵位は継ぐことは叶わない。俺のことを把握しているんだとわかる。
『エリオット』
前伯爵から注意され引き下がるしかなかった。
あいつは長く滞在し、その後やっと帰ったものの、エリーゼが頻繁にバミュート邸を訪れていると聞いた。
一方で俺はエリーゼの護衛から外された。
『馬鹿ですね』
『クロエ』
『独占欲が丸出しなんですよ』
『……』
『そもそもお嬢様は私のものです』
『その次は俺だろう』
クロエは腕を組み溜息をついた。
『うまくやってくださいよ。意外とジュリアン様は面白いですよ。子供と大人が入り混じって賢い時もあれば馬鹿な時もあって、私やお嬢様の扱いをすぐに覚えましたし』
『チッ』
『でも、エリオット様も捨てがたいです』
『護衛を外されたのに?』
『あのクソを殺したの、エリオット様ですよね』
『証拠は?』
『違うなら私の見込み違いということで』
『エリーゼを騙して傷付けたクズを生かしておけるか』
ほぼ休まず馬を走らせ、あのクズのいる屋敷に忍び込んで、愛人と並んで描かせた肖像画を見ていた男の背後から首に紐を掛け、背負い投げのように引っ張り首を絞めた。吊るし終えるとまた馬を走らせエリーゼの元へ戻った。
火の気は全くなかったのに、その後火事になったのは誰のせいなのか。
『偉いですよ。本当は私がやりたかったんですけど、お嬢様のお側を離れられませんし。毒を盛ったシャルロットに追手を向かわせるしかできませんでした』
『何をした?』
『あの女は、オリバーに利用価値が無くなれば消えると思いました。だからゴロツキにお金と情報を渡したんです。いずれ金目のものを持って移動するから人気のない場所で襲えって。シャルロットの実家までの地図も渡しました。親切だと思いませんか?』
『さすがクロエ』
『そうでしょう』
『ジュリアン・バミュートは排除できるか?』
『今のところ無理ですね。しかも彼、純潔ですよ』
『そうなのか?』
『多分浮気はしないでしょうね』
最初の夫がアレでは、ジュリアンのような甘え上手な純潔は有利かもしれない。
どうしたらいいのかさっぱりわからない。
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