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カイゼル・フェリング

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【 アリエルの夫、カイゼルの視点 】


14歳の時にアリエル・ラクロワ侯爵令嬢と婚約した。

たまに家族を交えて茶を飲む程度の交流だった。家格が同じだと思っていたのに父上がラクロワ家に気を遣っていることに少し不満を持っていた。

学園に通い出し、私は貴族科、アリエルは商科だった。それも不満だった。私の妻になるつもりなら貴族科にして、選択科目で淑女に必要な授業を選択すべきだろうと思った。

2年に進級するとメリンダと同じクラスになった。彼女は控えめで可愛い令嬢だった。
時々声をかけられるようになり、私の持っていた本に興味を示したので貸してやるとお礼に刺繍を施したハンカチをくれた。

令嬢はこうあるべきだ。アリエルときたら男共に混じって討論などをして!

偶然学生食堂で見かけたアリエルは学年と学科毎に上位2名の成績優秀な者しか使えない個室へ向かって行った。

教室に戻ると貴族科の上位者の話が聞こえてきた。

「食堂で一緒になって話をしたけどラクロワ嬢は優秀で素敵な令嬢だったよ。楽しかったなぁ。次も2位以内に入らないとな」

なんなんだ!あいつは!


学生の間は同じ学園にいるのだからと特別な交流を義務付けられなかった。デビュータントのパートナーについて父が聞いたらアリエルの兄がエスコートすると言う。

そんな時、メリンダが

「エスコートしてくださる方がいなくて、1人で会場に入ることになりそうです。
弟は子供ですし、親戚に頼める令息がいません。カイゼル様の婚約者様が羨ましいですわ」

そうだよ、普通はそういう思考になるはずだ。なのにアリエルは私より身内のエスコートを選んだ。だったら…

「よかったら私がエスコートしようか」

「でも、婚約者様が」

「あいつは兄がエスコートするから気にするな」

「嬉しいですわ!」

初めてメリンダに心が動いた瞬間だった。


それからは彼女と仲良くなっていった。
2人で出かけることも多くなった。
メリンダは嬉しそうに私の腕にしがみつく。
いつも私を敬い自尊心を満たしてくれた。


ある日メリンダに元気がなくどうしたのか聞いてみると、“はしたない” “元平民のくせに”と女共に罵られたと言う。

「カイゼル様にご迷惑がかかっていたとは知らず申し訳ございません」

涙を浮かべて頭を下げた。

私は彼女を抱きしめて口付けをした。


メリンダは令嬢達から距離を置かれているのが分かった。

「仕方ありませんわ。侯爵令嬢と元平民の準男爵の娘では天と地との身分差があります。
何を言われても何をされても受け入れますわ。それでカイゼル様のお側にいられるのなら…私は…」

汚された椅子を震える手で拭きながらそう言うメリンダを愛おしく思った。

「私が注意してくる!」

「お願いです!このままで!
騒ぎになっても罰を受けるのは私だけなのです!」

「しかし」

「卒業まであと1年ちょっとですわ。
カイゼル様の優しさに触れていたら何もかも消し飛びます。カイゼル様は静観なさってくださいませ。お願いです」

私の胸元に顔を埋めるメリンダを抱きしめた。


3年になると私とメリンダの教室は別れてしまった。その間側で牽制できない。
教科書が無くなったり無視されたりしても必死に耐えている。

一方アリエルはまた上位で進級したようで学園で特別待遇を満喫していた。
各科の上位2名達と交流を持ち教師も味方につけていた。

メリンダには内緒で学園長に話をしに行った。アリエルが先導して学生を操りメリンダに嫌がらせをしていると。

学園長はメリンダの担任と商科の教師を呼んで隣室で話すと教師を従えて戻ってきた。

「フェリング殿、証拠はあるのかな」

「現にメリンダが泣いています」

「それを証拠とは言わない。
ラクロワ嬢が教科書を隠した場面をその目で見たり、メリンダ・フォンドに嫌がらせや無視をするように指示をしている場面に出くわしてその耳で聞いたのかな」

「それは…でも状況が」

「フェリング侯爵の後継ぎだと放っておいたが見過ごせませんね。

いいですか、貴方の立場はラクロワ嬢の婚約者です。フォンド嬢の婚約者ではない。
貴方が守り尊重する相手はラクロワ嬢だ。
にもかかわらず浮気相手に惑わされるなど。
この2年、何を学んでこられたのだ。

貴族は根拠も無しにこのような事をしないよう教えたはずだが君には難しかったようだな」

「っ!」

「君には合格するまで週の初めの放課後にテストをしよう。貴族に関するテストだ。続けて5回満点を取るまで卒業試験を受ける資格は与えない」

「そんな!」

「今すぐ貴方のお父上に抗議してもいいのですよ。素行が悪く貴族としてもいかがなものかと。調査次第では貴方とフォンド嬢は停学です」

「っ!」

私の担任がとんでもないことを口にした。
商科の教師がその後に続ける。

「フェリング殿、フォンド嬢はラクロワ嬢に構ってもらえるほどの存在だと思う根拠は何でしょうか。
貴方の事さえ相手にしていないと言うのに。

ラクロワ嬢は暇ではありませんし、燻んだ石になど興味はないでしょう。

これ以上ラクロワ嬢に汚名を着せようとするならば私が後悔させてみせますよ」

商科の教師は完全に私とメリンダを見下していた。燻んだ石!?興味がない!?
私は頭に血が上りつい怒鳴りつけてしまったことを後悔することになる。

「たかが教師の分際で次期フェリング侯爵に無礼だぞ!!」

その瞬間、学園長室は無音になった。
己の鼓動と息遣いしか聞こえない。
恐る恐る3人を見ると担任は冷たい目で見下ろし、学園長は少し顔色が悪い。
そして商科の教師は高笑いを始めた。

「ははっ!愉快だ!玩具を見つけたぞ!
お前は各家門の三代前までの家系図を丸暗記しろ。全ての王族貴族をな。暗記できるまで卒業を許さない」

「商科の教師にそんな権利はない!」

「有るかどうかは覚えればわかる。
早く覚えないと大変だぞ。貴族のテストもあるからな」

「学園長!」

「家に帰りお父上に報告するといい。
優秀な教師を雇ってくださるだろう。
早く帰れ」



ひとまず引き下がり屋敷に帰った。父上には言えない。

1年の教科書を引っ張り出して2時間復讐し、図書室の貴族年鑑は最新版しかなく三代前まで遡れないことが分かった。







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