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カイゼル・フェリング
しおりを挟む今更だが学園での虐めに関する調査をしてみた。
「年月が経っていて調べられたのは教科書の購入記録でした。後は元学園生に聞いてまわる必要がありますので、醜聞になるかもしれません」
執事は今更調査など恥だと言っているのだろう。
「教科書の話を教えてくれ」
「かしこまりました。
教科書は学園内の購買でしか買うことができません。必ず生徒の名前を入れます。
まず、入学前にメリンダ嬢のお父上が購入して以来一度も購入はございません」
「盗まれたと言っていたがすぐ教科書を持っていた」
「上級生や卒業生から譲って貰った可能性もありますが、使い古した他人の名前入りの教科書なら気が付かれたでしょう」
「つまり盗まれていなかったということだな」
「そうなります」
「ありがとう。
シーファ家に手紙を出す」
「かしこまりました」
数日後、シーファ家を訪れた。
夫人は貴族科だったし、メリンダについて知っているようだった。
聞き回ることはできないが、シーファ夫人には今更だろう。そう思ってお願いをした。
レオンスと共に応対してもらった。
「校舎は離れていますし、商科の生徒が入り込んだら目立ちますわ。
机や椅子に仕掛けられた汚れや画鋲に一度も引っかかったことが無いじゃないですか。
まるで知っていたかのように」
「自作自演だと?」
「黙って片付けるか先生に報告すればいいのに何故令息に報告なさるのですか?令嬢達でもなく。
明らかに被害者ぶる作戦でしょう。
盗まれた教科書もすぐ手に持っていましたし。
新品ではなく、フォント嬢の名前の入ったちょっと使われた形跡のあるものでした。
盗まれてはなく、ご自身で隠し持っていたのは丸わかりでしたわ」
「何故誰も教えてくれなかった」
「恋は盲目。現にクラスメイトより関係の長い婚約者を貴方は悪く言っていたではありませんか」
「言ってないが」
「夜会で親しいご友人と話をなさっていましたわ。誰もが通り聞こえる場所で話していらしたわ。私も聞いたことがありましたし、アリエルは早い段階で耳にしていたようですわ」
まさか……
「フォント嬢の事が明るみになった時に結婚生活についての契約書を交わしませんでしたか?
あれは貴方の発言を書き記したものになっているそうですわ」
アリエルに聞かれていた……
「愛人を許し、お金もかからず、財産も欲しない、貴方とだけ白い結婚。そんな望みを叶えてくれる懐の深い令嬢はアリエルくらいですわね」
「まぁ、おかげで私達はアリエルと今の付き合いができているのだから有難いがな」
「次の愛人を探さないとなりませんわね」
「えっ」
「跡継ぎを産む人が必要でしょう。アリエルとは無理なのですから」
「っ!」
「アリエルはモテるから、恋人はすぐにできるから敢えてカイゼルに向くことはないだろう」
屋敷に帰り、窓から旧別棟を見下ろす。
あそこにまた愛人を迎えろと言うのか。
窓を開けて新別棟を見る。
「アリエル…」
本当は気が付いていた。
結婚前に付き合っていた隣国の公爵とホテルにいたという話を聞いた時から。
あの焼け付くような胸の苦しみと冷静になれない苛立ちは嫉妬だ。
初めての強い嫉妬だった。
そして気が付いた。私はアリエルが好きなのだと。
だが、メリンダを抱き愛人にしてしまった。
両家で新たに契約をしてしまった。
強がりだと言って蓋をしたあの契約はその後もずっと有効だった。
後戻りができなかった。
次々と恋人が変わり送迎に訪れた男と口付けや抱擁を交わすアリエルに何度傷つけられたことか。
メリンダにも情はあった。可愛いと思っていた。だが、シーファ家の夜会で崩れ去った。
「アリエルは」
「お元気です」
「ならいい。アリエルから見える場所に綺麗な花を植えてやってくれ」
「かしこまりました」
それから私は執務に集中する事にした。
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