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変わらぬ囁き
しおりを挟むセロー家を訪ねる日、今日も何事も無かったかのようにゼイン様は私の教室まで足を運んだ。
私はもう彼に触れられるのが嫌なのだと分かった。
手を握ろうとするので教科書を抱え、髪に触れようとするので後ろへひとつに結い、頬に触れようとするので廊下に出たり扉ギリギリの位置ではなく 大きく一歩下がった教室内から挨拶をした。
“髪型変えたんだ。これも可愛いね”などと、いつもと変わらぬ微笑みを浮かべて言うのだ。
そして“愛してる”と。
これが嘘だっただなんて…演技の上手い詐欺師のような人に騙されてしまっていたのね。
でも子どもの頃からなのに…ああ、そうか。キューレイ侯爵家の次男が婿入りするにはランドール家は条件が良いのね。
一昨日の夜、様子のおかしいことに気が付いたお母様は私の部屋に来て 肩を抱き腕を摩りながら何があったのか聞いてきた。
調査報告書を見せると微笑みが消えた。
『男の人に限らずだけど、浮気をする人としない人がいるの。しない人は、したくないか してはならないと理性を保てる人よ。浮気をする人は、相手の女性を好きになってしまう人、興味本位で手を付ける人、身体の欲求に負けるだけの人がいるわ。
浮気をする人の共通点は、大抵 繰り返すことよ。
そして、妻や婚約者を大事にしながら浮気をする人、大事にしなくなって浮気相手に夢中になる人、別れて浮気相手を選ぶ人に分かれるわ。
政略結婚だから妻以外に目をむけようとする人もいるし、稀に仕方なく浮気に至る人もいるけど。
ゼイン様は政略結婚でもないし稀が起きているとは思えない。
しかも既に3人と関係を持っていて、内2人は複数回。魔がさしたといいつつ、繰り返すタイプだわ』
『他の女性と関係を持ちながら、何故ゼイン様は何事も無かったかのように微笑んで愛してるなんて言えるのですか。何故ゼイン様は他の女性と関係を持って24時間も経たないうちに私の髪に触れようなどと思えるのですか!
もう どうしたらいいのか分かりません』
『“浮気をするゼイン・キューレイ”と夫婦になれるかどうかの問題なの。
例えば、いつの間にか夫婦の記念日は忘れ去られ、あなたの誕生日の贈り物は使用人任せ、悪阻で苦しんでいても出掛けてしまい、出産のときはいない。子供の傷病も気にも留めない。
彼は浮気相手と会っているかもしれない。浮気相手が妊娠して引き取りたいと言い出すかもしれない。別れてくれと言われるかもしれない。残念だけどそれを踏まえて彼と結婚できるか考えて』
『そんなの…夫婦ではありません』
『浮気男のひどい例だけど現実にある話なのよ。
愛人を住まわせたり、愛人との子を住まわせたり、愛人や愛人との子を優遇したり、愛人との子を養子にすると言ったり、本妻と本妻の子を冷遇したり。
愛人を別の屋敷に囲って帰ってこなかったり、離縁を迫られたりすることもあるわ。
うちは迎える側だし、愛人や愛人の子を迎え入れるなんてことはさせないわ。ランドールを継げるのは直系のエヴリンよ。ゼイン様や浮気相手との子は継げないの。エヴリンが継げないときは傍系血族から選ばれるわ。離縁を望むなら追い出されるのは彼の方よ』
『……』
『破棄しても構わないのよ』
『…明日、ユリウスに会いに行きます』
『遅くなりそう?』
『多分、夕食もご一緒すると思います』
『そう。ユリウス様によろしく伝えてね』
体を揺すられて我にかえった。
お母様との話を思い出していたから、手が止まっていた。教室は私とローゼと数人のクラスメイトだけ。他の皆は支度をして下校していた。
「またキューレイ様がいらっしゃっているわ」
「あ、ありがとう」
教室の出入口まで行くと、いつもの微笑みを見せた。
「さっき ご挨拶をしたと思いますが」
「そうなんだけどさ、最近一緒に出掛けてないなと思って。
予定が無ければこの後 2人で出かけないか?」
「予定があります」
「…分かった。気を付けて」
「ゼイン様もお気を付けて」
「愛してるよ、エヴリン」
「……」
「エヴリン?」
「支度しないと。失礼します」
中に戻り帰り支度をした。
「ねえ、エヴリン。キューレイ様と何かあったの?」
友人のローゼにも私の態度が変だと分かったのね。言った方がいいのかな。
「実はね、彼が何度も浮気していたことが分かったの」
「はあ!?」
「シーッ!」
小声で教えたのにローゼが声を大きくしてしまったから、残っていたクラスメイト達がこちらを見た。
ローゼの手を引いて教室の角で簡単に説明した。
「ローゼの屋敷から帰る途中にすれ違った馬車の中で、ゼイン様と令嬢が浮気の真っ最中だったの。
で、素行調査を入れたら常習犯だったってわけ」
「信じられない…」
「でしょう?毎日愛を囁きに来る人がよ?
今の浮気相手の前に2人いたんだって。一夜限りだったのは1人だけ」
「じゃあ…」
「あの夜は隣のクラスの令嬢と観劇して食事をしてから馬車で楽しんでいたようなの。
先月から彼女の屋敷で逢瀬を重ねているらしいわ」
「もう嫌なのね。分かった。来週から私が間に入るわ」
「大丈夫よ。侯爵家だから関わらない方がいいわよ。ありがとう ローゼ」
彼女と抱きしめあってから馬車乗場へ向かった。
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