66 / 72
解れた心
婚約は有効
しおりを挟む
【 マクセルの視点 】
五国統一後、エストフラムから戻ったノアは城出をしてしばらくグローリー邸に滞在していた。
そのノアが南の塔に戻ると言い出した。
そこにクリストファーが涙を浮かべた。
「寂しい」
「くっ…」
効果があった。
週三回南の塔で過ごすことで妥協した。
「クリストファー、どういうつもりだ」
「どうもなにも、父上はノアさんが好きなのでしょう?
油断していたら、すぐ捕られちゃいますよ。
私もノアさんが大好きです。
他の女性を後妻に迎えないでください」
「歳が近いが」
「義母とは呼びません。姉のような感じですからね」
クリストファーも成長したな。
しかし、ドミニクは相変わらずノアに付き纏ったし、ミシェル国王からは求婚の手紙が届く。
どうやってノアを手に入れるのか悩んでいた。
結局契約の三年が経とうとしていた。
「父上、ノアさんは旅に出るみたいです。
ファヴールとエストフラムに行くと言っていました。
ファヴールは美しい国王がいて、その人は求婚しているのですよね?
エストフラムの国王も独身でしたね?」
「……」
「うっかり婚姻契約書に署名してくれませんかね」
その言葉で閃いた。
送別会でノアを酔わせて署名させることにした。
酔うのは早かった。
「ノア、署名して」
「ん……」
「ほら、ここだよ、ここ」
ペンを握らせ署名させた。
陛下に見せると呆れた顔をされたが、
「(ノアが他国へ移住する可能性を防ぎたいのではありませんか)」
「!! 受理した」
陛下が署名してくれたので跪き指輪をはめた。
もう寝ていたが。
ロイクがノアを抱き上げて寝室へ運び、ガブリエルが薬を選んでいた。
宴会は一時間後に終わり、最後に残ってロイクを呼んだ。
「ロイク、辞表を出したそうだな」
「はい。俺はノアに騎士の忠誠を誓いましたから、ついていきます」
「グローリー家の騎士としてノアの側にいる気はないか?」
「侯爵家の?」
「グローリー家で雇ったグローリー夫人になるノエリアの専属騎士だ」
「いいのですか?」
「守りやすくなると思うしノアが遠慮しなくて済む。ロイクがフリーだとノアがロイクの将来を気にしてしまう」
「騎士らしくはないですよ」
「“勇者”だからか?」
「平民の孤児ですし」
「ノアの境遇も同じだろう。
支えてくれないか」
「かしこまりました」
「もしかしたら婚約したことを覚えていないかもしれないからよろしく頼む」
「分かりました」
旅立つ前にロイクが書いた手紙が届いた。
“微塵も覚えていませんでした。
行ってまいります”
ロイク、旅先でノアに酒を飲ませないでくれ。もう居ないので祈るしかない。
最初のファヴールからの手紙では、
“ミシェル国王が破棄しろと言い寄っています。酔った署名は無効だと泣いて説得しました。
帰ったら頑張ってください”
くっ……ミシェル国王は歳下だから泣き落としが簡単にできるのか。
次のエストフラムでは、
“同窓会です。
過去のことがあるので自制があります。
言い寄ることはないでしょう”
ロイクからの手紙にだいぶホッとしたが、帰ってから無効と言われかねないので外堀を固めることにした。
「陛下、城の小さな会場で婚約披露をさせてもらえませんか。
ミシェル国王陛下が婚約は無効だと吹き込んだようなので、言い出せない状況を作りたいと思います」
「任せておけ」
そして、国境を越えたと早馬が着き、大急ぎで指示を出した。
到着予定日に合わせて支度が始まる。
かなり大掛かりな支度に王都の飲食店も巻き込んだ。
数日後、予定通り王都入りした合図が届いた。
城門を通ったノアを乗せた馬車が通過すると割れんばかりの声援で溢れた。
五国統一の果たした炎の魔法使いと宰相の婚約に城の者達で庭園パーティを開くことにした。
大臣から下働きまでほとんどの者が外に出て声援を送った。
戸惑うノアの手を取って連れてきたのは国境で作戦を書いた紙を渡して知らせておいたロイクだ。
私にノアを引き渡すとノアの斜め後ろに立った。
私は跪き、ノアの手に口付けをした。
「今日は、マクセル・グローリーと、ノア改め、ノエリア・ヒートの婚約パーティだ」
国王陛下が告げると皆が拍手をした。
「婚姻は二カ月後。皆で祝おう!」
皆におめでとうと言われ、祝いの品を渡す者も少なくなく、ノアは頑張って笑顔を作った。
その夜はクリストファーとロイクと私でノアと南の塔に泊まった。
翌日、陛下にお礼の挨拶をしてグローリー邸に連れ帰った。
「奥様、おかえりなさいませ」
「お、奥様!?」
「お荷物は私共で運びます。
お疲れでしょう。すぐにお部屋にご案内いたします」
「え?」
前の部屋ではなく夫婦の部屋に連れて行かせた。
寝室を中央に、左右にそれぞれの部屋がある。
ただし、扉は無い。
「これ……夫婦の……」
「左様でございます。
もう夫婦と変わりはございません。
ある程度の物は旦那様がお選びになり買い揃えました。ノエリア様が戻られるのを心待ちにしておられました」
「マクセルが?」
「はい。家具の配置まで事細かに指示を出されました。ソファも、いくつも座っては不満を漏らし、やっと購入できました」
「あれ?ベッドは……」
「中央のベッドだけでいいと、それぞれの私室には置いておりません」
「じゃあ、」
「はい。毎晩共寝でございます」
「こ、今夜から?」
「はい。ベッドも特注品でございます」
メリンダの報告では、拒否感が出ていると言うことなので夕食で果実酒を飲ませた。
酔い潰れはしなかったが、リラックスしてウトウトしだした。
「父上、ノエリア様を連れて行ってください。フォークで顔を刺しそうです」
クリストファーがそう言うので、ノエリアを連れて行こうとしたらロイクが抱き上げ連れて行ってしまった。
少ししてロイクから報告を受けた。
「湯浴みは夕食前に済ませてあるので、歯磨きをしました。今、メイドが着替えさせています」
「ご苦労」
五国統一後、エストフラムから戻ったノアは城出をしてしばらくグローリー邸に滞在していた。
そのノアが南の塔に戻ると言い出した。
そこにクリストファーが涙を浮かべた。
「寂しい」
「くっ…」
効果があった。
週三回南の塔で過ごすことで妥協した。
「クリストファー、どういうつもりだ」
「どうもなにも、父上はノアさんが好きなのでしょう?
油断していたら、すぐ捕られちゃいますよ。
私もノアさんが大好きです。
他の女性を後妻に迎えないでください」
「歳が近いが」
「義母とは呼びません。姉のような感じですからね」
クリストファーも成長したな。
しかし、ドミニクは相変わらずノアに付き纏ったし、ミシェル国王からは求婚の手紙が届く。
どうやってノアを手に入れるのか悩んでいた。
結局契約の三年が経とうとしていた。
「父上、ノアさんは旅に出るみたいです。
ファヴールとエストフラムに行くと言っていました。
ファヴールは美しい国王がいて、その人は求婚しているのですよね?
エストフラムの国王も独身でしたね?」
「……」
「うっかり婚姻契約書に署名してくれませんかね」
その言葉で閃いた。
送別会でノアを酔わせて署名させることにした。
酔うのは早かった。
「ノア、署名して」
「ん……」
「ほら、ここだよ、ここ」
ペンを握らせ署名させた。
陛下に見せると呆れた顔をされたが、
「(ノアが他国へ移住する可能性を防ぎたいのではありませんか)」
「!! 受理した」
陛下が署名してくれたので跪き指輪をはめた。
もう寝ていたが。
ロイクがノアを抱き上げて寝室へ運び、ガブリエルが薬を選んでいた。
宴会は一時間後に終わり、最後に残ってロイクを呼んだ。
「ロイク、辞表を出したそうだな」
「はい。俺はノアに騎士の忠誠を誓いましたから、ついていきます」
「グローリー家の騎士としてノアの側にいる気はないか?」
「侯爵家の?」
「グローリー家で雇ったグローリー夫人になるノエリアの専属騎士だ」
「いいのですか?」
「守りやすくなると思うしノアが遠慮しなくて済む。ロイクがフリーだとノアがロイクの将来を気にしてしまう」
「騎士らしくはないですよ」
「“勇者”だからか?」
「平民の孤児ですし」
「ノアの境遇も同じだろう。
支えてくれないか」
「かしこまりました」
「もしかしたら婚約したことを覚えていないかもしれないからよろしく頼む」
「分かりました」
旅立つ前にロイクが書いた手紙が届いた。
“微塵も覚えていませんでした。
行ってまいります”
ロイク、旅先でノアに酒を飲ませないでくれ。もう居ないので祈るしかない。
最初のファヴールからの手紙では、
“ミシェル国王が破棄しろと言い寄っています。酔った署名は無効だと泣いて説得しました。
帰ったら頑張ってください”
くっ……ミシェル国王は歳下だから泣き落としが簡単にできるのか。
次のエストフラムでは、
“同窓会です。
過去のことがあるので自制があります。
言い寄ることはないでしょう”
ロイクからの手紙にだいぶホッとしたが、帰ってから無効と言われかねないので外堀を固めることにした。
「陛下、城の小さな会場で婚約披露をさせてもらえませんか。
ミシェル国王陛下が婚約は無効だと吹き込んだようなので、言い出せない状況を作りたいと思います」
「任せておけ」
そして、国境を越えたと早馬が着き、大急ぎで指示を出した。
到着予定日に合わせて支度が始まる。
かなり大掛かりな支度に王都の飲食店も巻き込んだ。
数日後、予定通り王都入りした合図が届いた。
城門を通ったノアを乗せた馬車が通過すると割れんばかりの声援で溢れた。
五国統一の果たした炎の魔法使いと宰相の婚約に城の者達で庭園パーティを開くことにした。
大臣から下働きまでほとんどの者が外に出て声援を送った。
戸惑うノアの手を取って連れてきたのは国境で作戦を書いた紙を渡して知らせておいたロイクだ。
私にノアを引き渡すとノアの斜め後ろに立った。
私は跪き、ノアの手に口付けをした。
「今日は、マクセル・グローリーと、ノア改め、ノエリア・ヒートの婚約パーティだ」
国王陛下が告げると皆が拍手をした。
「婚姻は二カ月後。皆で祝おう!」
皆におめでとうと言われ、祝いの品を渡す者も少なくなく、ノアは頑張って笑顔を作った。
その夜はクリストファーとロイクと私でノアと南の塔に泊まった。
翌日、陛下にお礼の挨拶をしてグローリー邸に連れ帰った。
「奥様、おかえりなさいませ」
「お、奥様!?」
「お荷物は私共で運びます。
お疲れでしょう。すぐにお部屋にご案内いたします」
「え?」
前の部屋ではなく夫婦の部屋に連れて行かせた。
寝室を中央に、左右にそれぞれの部屋がある。
ただし、扉は無い。
「これ……夫婦の……」
「左様でございます。
もう夫婦と変わりはございません。
ある程度の物は旦那様がお選びになり買い揃えました。ノエリア様が戻られるのを心待ちにしておられました」
「マクセルが?」
「はい。家具の配置まで事細かに指示を出されました。ソファも、いくつも座っては不満を漏らし、やっと購入できました」
「あれ?ベッドは……」
「中央のベッドだけでいいと、それぞれの私室には置いておりません」
「じゃあ、」
「はい。毎晩共寝でございます」
「こ、今夜から?」
「はい。ベッドも特注品でございます」
メリンダの報告では、拒否感が出ていると言うことなので夕食で果実酒を飲ませた。
酔い潰れはしなかったが、リラックスしてウトウトしだした。
「父上、ノエリア様を連れて行ってください。フォークで顔を刺しそうです」
クリストファーがそう言うので、ノエリアを連れて行こうとしたらロイクが抱き上げ連れて行ってしまった。
少ししてロイクから報告を受けた。
「湯浴みは夕食前に済ませてあるので、歯磨きをしました。今、メイドが着替えさせています」
「ご苦労」
189
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】王妃はもうここにいられません
なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」
長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。
だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。
私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。
だからずっと、支えてきたのだ。
貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……
もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。
「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。
胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。
周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。
自らの前世と、感覚を。
「うそでしょ…………」
取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。
ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。
「むしろ、廃妃にしてください!」
長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………
◇◇◇
強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。
ぜひ読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる