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解れた心
結婚
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【 マクセルの視点 】
食事を終えて湯浴みをしてベッドへ行くと美しく大人に育ったノエリアが寝ていた。
寝姿や夜着姿を見たことはあるが、ナイトドレスで月明かりだけの寝室に二人きりは初めてだ。
結婚前も、結婚後も、離縁後も、いろんな女と体を重ねてきた。
単に快楽を得たい女、好奇心で声を掛けてきた女、侯爵家夫人になりたい女、侯爵であり宰相の愛人になりたい女、後妻におさまりたい女など様々だ。中には純粋に想いを寄せてくれた女もいた。
どの女にも体だけの関係だと最初に告げる。
それでもベッドに誘う女だけ抱いた。
妻はそんな私が嫌だったらしく、クリストファーが一歳になると離縁を望んだ。
男児を産んだし、具合も他の女と変わらないし、女に困っていない。
了承して離縁した。
政略結婚は終了した。私は援助を廃止した。
私が妻と妻の侯爵家に望んだのは、不祥事を起こさないこと、情報を漏らさないこと、異性関係に口出ししないこと、妻が生娘であることだけ。
その代わり、毎月援助金を渡していた。
妻は実家に離縁の話をしていなかったらしく、実家に戻ってすぐ、頬を腫らした元妻と一緒に侯爵夫妻が訪ねてきた。
『閣下、娘が我儘でご迷惑をおかけしました』
『どんなに重要な結婚だったのか理解していないとは思わず、こんなことに。
私が躾ましたから、もう一度受け入れてはいただけませんか』
『もう離縁は成立しました。
お嬢さんが望まれたことです。その様な気持ちを持った女を妻の座に戻すことはできません』
『クリストファーはまだ幼いですわ』
『侯爵夫人。その幼い我が子を置いてでも別れたかった母親に何の価値が?
それに私の異性関係がお気に召さなかったようですから、どうしようもありません。
私は今後も外で楽しみます。
子を産ませるのは妻にだけですから婚外子という言葉は私にはありません。あくまでその場限りの女達です。
お嬢さんは正妻の地位とグローリー家の子を産む資格だけでは不満だった』
その後は、冷たいだとか、色狂いとか罵られた。
夜会で会うたびに元妻の侯爵夫妻の身なりは落ちぶれていき、新調もできなくなっていた。
元妻は、女とお楽しみ中の休憩室に乗り込んできた。
『お願いします!復縁してください!』
『そんなに金が必要なら、他の男に体を売ればいいだろう』
『クリストファーの母親に娼婦になれと言うの!?』
『普通に働くという選択肢もあるぞ。
とにかく私には関係のないことだ。出ていけ』
その後、元妻の実家は爵位を返上して平民になった。その後のことは知らない。
そして不特定多数を相手にしたままノアと出会った。
こんな気持ちになるのは初めてだ。緊張して震える手で顔に掛かった髪をはらった。
長い睫毛を見ていると瞼に口付けをしたくなったが寸前で止まった。
毛布を捲ると薄紫のナイトドレスで白肌が際立ち、豊かとは言えない胸が艶やかだ。
頂は薄い衣を押し上げて、ここに居ると主張しているようにも思える。
私の陰茎は痛いほど勃ち上がっていた。
普通ならこのまま抱いている。
意識が無くても関係ない。
目の前のノエリアは婚約者。抱いても許されるはずだ。
しかもノアと出会ってから女遊びをする気が無くなった。溜まりはするので口で抜いてはもらうが、私から触れたり抱いたりしなくなった。する気が起きないからだ。
そんな状態で何年も経つ。
抱きたくて仕方がないのに、手は震え、唇を付けることさえままならない。
どうしてしまったのか。
それから結婚までの二カ月間は口淫でさえ受け付けなくなっていた。
“気持ち悪い” “触れるな” “汚らわしい”
そんな言葉が浮かんでくる。
そして結婚初夜。
「おやすみ、ノエリア」
「……おやすみなさい」
それから半年近く、ノエリアは生娘のグローリー侯爵夫人だった。
結婚から半年が経とうとした頃、ノエリアが家出をした。
全てを放り出して追いかけなかったのはロイクが付いていて時折手紙を寄越したからだ。
今、ノア少年が勤めていた宿屋に滞在しているらしい。
「父上!何してるんですか!迎えに行くのです!」
「だが……」
「ノエリア様を他の男に取られてもいいのですか!」
「ロイクが付いている」
「ロイクだって男です。夫に相手にされないノエリア様を慰めるかもしれません。
まだ婚姻していないミシェル国王が聞き付けて囲うかもしれません。
他の男との出会いがあるかもしれません!」
翌朝、陛下に相談した。
「マクセルがか」
「……何故か手が出せないのです」
「ハハハハハハッ」
「陛下」
「勃つのだから機能にも問題はないし、ノアに魅力が無いわけではない。其方は怖いのだ。抱いて嫌われるのが怖いのだよ」
「私が……」
「まるで初心な童貞だな」
「っ!」
「マクセル、このままではノアは他の男に貫かれて散らされて子種を注がれるぞ」
「そんなことは有り得ません」
「其方は何人抱いてきた。その内何人の処女を散らした。
皆、散らして注いだ後はどうした?
ノアだって彼女達と同じ女だ。
いいと思ったら体を許すかもしれない。
其方が抱いてきた女達のように」
「休暇をください」
「素直に “怖い” と白状するんだな。
“愛する妻に嫌われるのが怖い” と」
「感謝します」
「もし、抱けたら、一カ月休め。
そしてノエリアが根を上げるまで抱き潰せ」
「頑張ります」
食事を終えて湯浴みをしてベッドへ行くと美しく大人に育ったノエリアが寝ていた。
寝姿や夜着姿を見たことはあるが、ナイトドレスで月明かりだけの寝室に二人きりは初めてだ。
結婚前も、結婚後も、離縁後も、いろんな女と体を重ねてきた。
単に快楽を得たい女、好奇心で声を掛けてきた女、侯爵家夫人になりたい女、侯爵であり宰相の愛人になりたい女、後妻におさまりたい女など様々だ。中には純粋に想いを寄せてくれた女もいた。
どの女にも体だけの関係だと最初に告げる。
それでもベッドに誘う女だけ抱いた。
妻はそんな私が嫌だったらしく、クリストファーが一歳になると離縁を望んだ。
男児を産んだし、具合も他の女と変わらないし、女に困っていない。
了承して離縁した。
政略結婚は終了した。私は援助を廃止した。
私が妻と妻の侯爵家に望んだのは、不祥事を起こさないこと、情報を漏らさないこと、異性関係に口出ししないこと、妻が生娘であることだけ。
その代わり、毎月援助金を渡していた。
妻は実家に離縁の話をしていなかったらしく、実家に戻ってすぐ、頬を腫らした元妻と一緒に侯爵夫妻が訪ねてきた。
『閣下、娘が我儘でご迷惑をおかけしました』
『どんなに重要な結婚だったのか理解していないとは思わず、こんなことに。
私が躾ましたから、もう一度受け入れてはいただけませんか』
『もう離縁は成立しました。
お嬢さんが望まれたことです。その様な気持ちを持った女を妻の座に戻すことはできません』
『クリストファーはまだ幼いですわ』
『侯爵夫人。その幼い我が子を置いてでも別れたかった母親に何の価値が?
それに私の異性関係がお気に召さなかったようですから、どうしようもありません。
私は今後も外で楽しみます。
子を産ませるのは妻にだけですから婚外子という言葉は私にはありません。あくまでその場限りの女達です。
お嬢さんは正妻の地位とグローリー家の子を産む資格だけでは不満だった』
その後は、冷たいだとか、色狂いとか罵られた。
夜会で会うたびに元妻の侯爵夫妻の身なりは落ちぶれていき、新調もできなくなっていた。
元妻は、女とお楽しみ中の休憩室に乗り込んできた。
『お願いします!復縁してください!』
『そんなに金が必要なら、他の男に体を売ればいいだろう』
『クリストファーの母親に娼婦になれと言うの!?』
『普通に働くという選択肢もあるぞ。
とにかく私には関係のないことだ。出ていけ』
その後、元妻の実家は爵位を返上して平民になった。その後のことは知らない。
そして不特定多数を相手にしたままノアと出会った。
こんな気持ちになるのは初めてだ。緊張して震える手で顔に掛かった髪をはらった。
長い睫毛を見ていると瞼に口付けをしたくなったが寸前で止まった。
毛布を捲ると薄紫のナイトドレスで白肌が際立ち、豊かとは言えない胸が艶やかだ。
頂は薄い衣を押し上げて、ここに居ると主張しているようにも思える。
私の陰茎は痛いほど勃ち上がっていた。
普通ならこのまま抱いている。
意識が無くても関係ない。
目の前のノエリアは婚約者。抱いても許されるはずだ。
しかもノアと出会ってから女遊びをする気が無くなった。溜まりはするので口で抜いてはもらうが、私から触れたり抱いたりしなくなった。する気が起きないからだ。
そんな状態で何年も経つ。
抱きたくて仕方がないのに、手は震え、唇を付けることさえままならない。
どうしてしまったのか。
それから結婚までの二カ月間は口淫でさえ受け付けなくなっていた。
“気持ち悪い” “触れるな” “汚らわしい”
そんな言葉が浮かんでくる。
そして結婚初夜。
「おやすみ、ノエリア」
「……おやすみなさい」
それから半年近く、ノエリアは生娘のグローリー侯爵夫人だった。
結婚から半年が経とうとした頃、ノエリアが家出をした。
全てを放り出して追いかけなかったのはロイクが付いていて時折手紙を寄越したからだ。
今、ノア少年が勤めていた宿屋に滞在しているらしい。
「父上!何してるんですか!迎えに行くのです!」
「だが……」
「ノエリア様を他の男に取られてもいいのですか!」
「ロイクが付いている」
「ロイクだって男です。夫に相手にされないノエリア様を慰めるかもしれません。
まだ婚姻していないミシェル国王が聞き付けて囲うかもしれません。
他の男との出会いがあるかもしれません!」
翌朝、陛下に相談した。
「マクセルがか」
「……何故か手が出せないのです」
「ハハハハハハッ」
「陛下」
「勃つのだから機能にも問題はないし、ノアに魅力が無いわけではない。其方は怖いのだ。抱いて嫌われるのが怖いのだよ」
「私が……」
「まるで初心な童貞だな」
「っ!」
「マクセル、このままではノアは他の男に貫かれて散らされて子種を注がれるぞ」
「そんなことは有り得ません」
「其方は何人抱いてきた。その内何人の処女を散らした。
皆、散らして注いだ後はどうした?
ノアだって彼女達と同じ女だ。
いいと思ったら体を許すかもしれない。
其方が抱いてきた女達のように」
「休暇をください」
「素直に “怖い” と白状するんだな。
“愛する妻に嫌われるのが怖い” と」
「感謝します」
「もし、抱けたら、一カ月休め。
そしてノエリアが根を上げるまで抱き潰せ」
「頑張ります」
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