【完結】生まれ変わった男装美少女は命を奪った者達に復讐をする

ユユ

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解れた心

懺悔

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【 マクセルの視点 】


ノエリアを追いかけて宿に着いた。
宿から出てきた男達の会話に耳を傾けた。

「めちゃくちゃ可愛かったな」

きっとノアのことだろう。

「領主の息子が通い詰めるはずだよ」

「一昨日は花束、昨日は髪飾り、今日はなんだろうな」

そうなるよな。

「真っ赤になっちゃって」

は?

「潤んだ上目遣いだしな」

「また昼に様子をみにくるか」

………。



キィッ

「いらっしゃいま……せ」

後ろに高く結った髪が揺れた。

白いシャツに茶色のスカート、ワイン色のエプロンを着けていた。

……指輪はつけていなかった。


この胸の痛みはなんだ。
目眩までしてきた。

「お客さん、顔色が悪いね。こっちに座ったらどうだい」

「ここの女将か」

「はい」

「一番良い部屋を。連れ達にも部屋をやってくれ」


ノエリアは私の所へは来ることはなく、仕事を続けていた。

部屋に案内されてベッドに横になった。
いろいろなことが頭を駆け巡る。

もうノエリアは他の男の手を取って、新しい人生を始めようとしているのではないか。
別の男に恋をしているのではないか。
もうその身を捧げたのではないか。

だから指輪をしていないのではないか。

あれはダイヤを並べて家紋にした指輪と、私の瞳の色で最高級のエメラルドの指輪だ。

この女はグローリー家のもの、私のもの。
肌に刻めない代わりに指輪にしてはめた。

誰にも、元妻にもそんな物を贈ったことはない。独占欲の塊だ。


「ノエリア…」

薬を飲み、いつの間にか寝てしまった。
もう薄暗い。

昼前に着いたのにかなり長く寝てしまったようだ。


領主の息子とやらは昼に何の贈り物をしたのだろうか。ノエリアは受け取っているのだろうか。

ノックに応答すると、入室したのはロイクだった。

「体調は大丈夫ですか」

「大丈夫だ」

「まだ顔色が悪いですね。部屋食にします」

「皆は」

「飲みに行かせました」

「……ノエリアは」

「働いています」

「私は捨てられるのか」

「閣下。貴方は何がしたいのですか」

「………」

「これ以上ノアを傷付けるつもりならノアを連れて国を出ますよ?」

「傷付ける?」

「白い結婚を望んでいるなら最初からそう言ってもらえたら、ノアは無駄に準備をすることもありませんでした」

「準備?」

「ノアは未経験ですよ。心の準備が必要でした。酔って交した結婚でもノアなりに貴方の妻になろうとしていたのです。

まあ、貴方は外で遊ぶタイプの男みたいですから、ノアも察したのでしょう。

侯爵邸ここに私は必要無い”と言って侯爵邸を出る決意をなさいました」

「白い結婚など望んでいない」

「では何故」

「怖かった。嫌われたくなかった。
手が震えて触れることさえ出来なくて」

「はぁ」

「他の女に手をつけていない。ノアと出会ってからは処理はしてもらったが抱いていない。婚約して旅から戻ったあたりでは、何も受け付けなくなった。他の女は駄目なんだ」

「夕食を運ばせにノアを寄越しますから、気持ちを伝えて謝ってください。

失敗すればノアを連れてファヴールに移住します」

「それは、」

「ミシェル国王は溺愛と言っていいほどノアを愛しています。若くとも威厳までしっかりあります。彼なら良いかなと思いまして」

「………」

「感情的になりすぎて馬鹿な態度をとったり、変なことを言い出さないでくださいよ」




しばらくするとノエリアが夕食を持ってきた。無表情のノエリアは初めて城に現れた時のノアと一緒で “拒絶” を意味していた。

「ノエリア、座ってくれ」

「仕事中です」

「お願いだから座ってくれ」

ノエリアは仕方ないといった顔でソファに座った。彼女の横に座り直した。

「君を傷付けるつもりはなかった。
申し訳ない」

「………」

「私はノエリアだけを愛している。
婚約も嬉しかったし、結婚も嬉しかった。
だけど怖かった。何故か君を抱いて嫌われたらと不安になって、君に触れようとする手は震えてしまう」

「他の人で済ませたのでしょう」

「断じて無い」

「だったらそう言えば良かったじゃないですか。半年も黙っていて、家出されたら言い訳ですか。それを信じろと?」

「信じてもらうしかない」

「………」

「帰ってきてくれないか」

「………」

「もし許してくれるなら、手が震えても下手でも相性が合わなくても受け入れてくれるなら愛させて欲しい。
途中で使い物にならなくなっても呆れないでいて欲しい」

「……経験談ですか」

「こんなことは初めてだ。
ノエリアだけなんだ」

「無理をしなくていいのですよ。
離縁したからといって国を焼いたりしませんから」

「違う…違うんだノエリア」

ノエリアの頬に触れようと手を伸ばし、あと少しというところで手が震えだす。

「………」

ガブッ

「痛っ」

ノエリアが私の手を噛んでいた。

「そのまま食いちぎってくれて構わない」

歯を立てるのを止められると柔らかい唇の感触がしてきた。

ヂュッ

口を離すときに舌で撫でられたように感じた。

頬に触れる手はもう震えていなかった。

もう片方の手もノエリアの頬に添えると小さな顔だなと思った。

ゆっくり唇を合わせた。
合わせただけで離した。

「嫌じゃない?」

「……はい」

もう一度唇を合わせた。

唇を離すとノエリアが手が私の頬に触れた。

「馬鹿な人」

指が何かを拭った。濡れてる?

「泣くほど怖かったの?」

ノエリアは微笑んでいた。
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