【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

文字の大きさ
46 / 72

観察眼

もうすぐ2年生が終わろうとしていた。
王宮行事に呼ばれるときはシルヴェストル様がパートナーを引き受けてくれた。それ以外ではブレイル様が務めてくれた。

相変わらずシャルロットは[桃恋]の逆ハーメンバーに絡むようだけど、誰一人靡いていない。
虐めるはずのイリアナ様が早々に脱落したのが悪かったのかな。

「アリス?」

「あ、ごめんなさい」

マチアス様に勉強を教わっているところだった。
私は代わりに数学を教えている。2年生になって覚えている公式を使って教えたところ、驚かれた。
どうやらこの世界で数学の公式は存在しない。大事になりそうだったのでマチアス様に土下座して口止めした。

マチアス様の侍従から、“あんな土下座は初めて見ました”と苦笑いされた。ゆっくり膝をついてではなく ジャンプするように勢いよくしたために膝にアザを作ってしまった。

“分かったから”とマチアス様が私を立たせようとしたが膝が痛かった。私を抱き上げソファに座らせるとドレスの裾を捲って脚を確認した。メイドが慌てだしたのでマチアス様が我に返り、脚から目を逸らした。

『別に下着を見ているわけではありませんから、お気になさらず』

『それは問題だ』

マチアス様自らアザに効くクリームを塗ってくれた。耳が赤かった。オルデンとは違ってピュアなのね。そう思い、つい頭を撫でてしまった。

『アリス!?』

『ごめんなさい。つい可愛くて』

『っ!』

手当が終わると、男に油断するなとか懇々と叱られた。


マチアス様の侍従ウスターシュにも口止めをしたが、数学の公式に興味津々で 誓約書をもらいマチアス様とウスターシュとバンフィールド公爵の右腕と呼ばれるクリスチャン様に教えることになった。

『凄いですね。本当に正解している』

『どの数字を入れても合いますね』

『本当に発表しなくても?』

『私が困ったことになるので止めてください。内緒にできないなら教えませんよ』

特にクリスチャン様はキラキラした目で私を見るが 寧ろ公式無しに解く皆さんの方が凄いですからね?

終わると4人でお茶をする。時には食事をするのが2週間に一度のルーティンのようになってしまった。

数学だけじゃない。マチアス様とクリスチャン様は誘導尋問で他にもあることを暴いていく。
元の世界で知っていて当然の知識がチラチラと出てしまい、それをマチアス様とクリスチャン様が拾って掘り下げてしまうのだ。

バンフィールド公爵邸では外出から戻った使用人や通勤の使用人が屋敷に入って直ぐに手が洗えるよう、使用人専用の入り口の側に手洗い場を作った。
外作業の場合も外に手洗い場を設けてしっかりと洗わせる。ナンテンやタイムを含んだソープを惜しみなく使わせること。そして熱がある者、断続した咳や鼻水が出る者は働かせない。接触者の感染の有無も確認し、マスクというものも活用させた。
これにより、風邪の流行る季節もバンフィールド家とジオニトロ家の屋敷内で感染うつしあうことはなかった。

逆に蕁麻疹やアトピーなど、明らかな症状がある使用人に関しては感染の恐れは無いので、それが理由でクビにしたりしないこと。口に入れるものに気を付けて、ストレスの軽減に努めさせる。仕事の担当替えも試した。また、症状が出た日の食べ物を書き記し 統計をとった。
ストレス性の蕁麻疹が一人、特定の食べ物に反応していた者が二人、食生活を変えてアトピーの症状が軽くなった者が一人いた。クビにされずに済んだと涙ながらにお礼を言いに来てくれた。

そして効果的な植物を配合した歯磨きペーストで口内環境は快方に向かう者が多かった。これに関しても使用人に十分に使わせるようお願いをした。主人を支える者達の健康を疎かにすると、結果的にバンフィールド家に影響すると言って説得した。
“だって、給仕の口が臭かったら食欲失せますよね?看病するメイドの口が臭かったら辛いですよね?会議室にひとりでも悪臭を放つ人が居たら地獄の密室ですよ?私なら嫌です。これは頭を下げてでも使ってもらうレベルの物です”
一家は納得してくれた。

料理もお菓子もついうっかり口に出してしまう。


『ちょっと!私のアリスなのに、こっちに呼ぶからノッティング家に来る回数が減ったじゃないの!
マチアスは学園で会えるし、学園に圧力をかけて何時間も隣の席にいるじゃない。何で休みの日も独占するのよ』

今、聞き捨てならないワードがエリアーナ様から出てきたような…

『学園に圧力?』

『姉上。誤解を招くようなことは言わないでください。ただ、アリスの席の近くがいいなとちょっと言っただけです』

『だからお父様が学園長に手紙を出して、学園長の奥方にお母様が賄賂を贈ったんじゃない』

また聞き捨てならないワードが…

『賄賂を!?』

『違います。夫人の実家の領地の教会と孤児院に寄付をしただけですよ。慈善活動です』

マチアス様はニッコリと笑みを浮かべた。

こうしてすっかりバンフィールド邸を歩いていても、使用人達からは“お嬢様”と呼ばれて住人のような扱いになってしまった。


「何か悩み事?」

「特に増えていません」

「気分転換に散歩でもしよう」

マチアス様の手を取ると、急に視界が暗くなった。

「アリス!! アリス!! ……」

マチアス様が叫んでいる。迷惑かけちゃってるのかな。







あなたにおすすめの小説

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望