【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

文字の大きさ
56 / 72

刺繍疲れ

しおりを挟む
「本気でございますか?」

「本気よ。大変だから手分けしてお願い。肝心な部分は私がやるから」

「かしこまりました」



グラシアン殿下がこっちを向きながら牛の搾乳をしている様子を刺繍した下着と、ボディビルダーにグラシアン殿下の顔を付けて横を向き脚をくの字にして上半身は正面に向け腕を前に回して筋肉を主張するポーズの刺繍をした下着と、両サイドにグラシアン殿下の横顔をめいいっぱい刺繍した下着を贈り、段々と慣れて来た殿下は刺繍の説明をするまでになった。

「ねえ、アリス、スーザン」

「はい。王妃殿下」

「究極の美男子が崩れているわ」

「こんなにも変わるものなのですね」

「適応してしまうとは、ガッカリです。もっと恥ずかしがる姿を見たかったのですが」

「アリス、お前が刺したのはどの辺りだ?」

「顔ですよ。グラシアン殿下。そっくりでしょう?」

「馬鹿いうな。私は何百倍も美しいぞ」

「ついに自分で言っちゃいましたね」

「言いましたね」

「先方の国王陛下に伝わったら大変だわ」

「ビルダーポーズとってくれましたしね」

「アリス、次はもっと鍛えてから来るからな」

「え?もう大丈夫です。来ないでください」

「お前…王族に無礼だぞ」

「その姿で言われても」

「じゃあ、アリスがコルシックに来ればいい」

「自国ならその姿でも問題ないと思っているようですが、余計にまずいですからね」

「するわけないだろう。筋肉だけ確認させるんだよ」

「なんかヤバい火の付け方しちゃったようですので、絶対に行きません。王子殿下を狂わせた罪で投獄されちゃいますから嫌です」

「アリス。明日はお前の屋敷に行きたい」

「嫌です」

「いいだろう?」

「よくないです」

「恥ずかしい趣味でも持ってるのか?」

「そんなこと言っても駄目ですからね」

「スーザン嬢。いいよな?」

「えっ…私にはお返事できる権限はございません」

そこでトリシア王女が陛下に向き直った。

「国王陛下。私、マチアス様と婚約を解消しましたの」

マチアス様に視線が集中した。

「今朝、了承しました」

え!? マチアス様は真顔だった。

「本気か?」

「はい、陛下。私、恋をしてしまいましたの」

「そうか」

「シルヴェストル殿下との婚姻を申し込みます!」

シルヴェストル様の顔を見たら驚いていた。

「グラシアン王子殿下。これはどういうことかな」

「陛下、どうやらトリシアは一目惚れだったようで、数日の間に決意が固まったようです」

「だが、王族同士の婚約は、また気が変わったと簡単に破棄できるものではない」

「承知しています」

「トリシアの決意は確かです」

「分かった。縁談として受けよう。だが、そちらの国王陛下から正式な申し入れが必要だ」

「帰国後、すぐに使者を送ります」

シルヴェストル様は何も言わずにお茶の入ったカップを見つめていた。

トリシア王女殿下はとても美しい方だし、王族同士の方が釣り合うのかもしれない。

ペイジはどう思っているのかな。


この後、バンフィールド公爵が登城して、正式な婚約解消の同意書をグラシアン殿下に持たせたらしい。

夜はバンフィールド家に向かった。昼間の内に行くことは公爵に許可を取っていた。

マチアスが応接間に現れたが元気がない。

「マチアス様」

「王子には負けるよね」

「……」

「トリシア王女は自国を離れたくなかったというのもあるみたいだった。私は跡継ぎだから婿入りは出来ない」

マチアス様の手を握ると彼は私を引き寄せて抱きしめた。

「家格の釣り合うまともな令嬢なんてもう残ってない。まだ子供の令嬢と婚約して大人になるまで十何年も待つんだろうな」

「私もそう遠くないうちに破棄することになるわ。その後で婿に来てくれそうなまともな令息を探さなくちゃ」

「本気?」

「そうよ」

「もしかしてシルヴェストル殿下との未来を考えていた?」

「とても良い人だし、好きな友人だけど、シルヴェストル様は王族で、ジオニトロは建て直している最中の侯爵家。来てくださいとは言えなかったの」

「あの感じでは婚約は成立するだろう」

「トリシア王女殿下はとても美しい方でしたね」

「アリス。一緒に泣いて過去に別れを告げないか。私は長年の婚約者との別れに、アリスはシルヴェストル殿下への気持ちとの別れに」

「はい」

私なんかよりマチアス様の方が辛いはずなのに、抱きしめてずっと背中を摩ってくれた。
何時間そうしていたのか、いつの間にか眠っていた。

夜中に起きるとソファの上で寝そべるマチアス様の上に乗っていた。顔を上げるとマチアス様は眠っていた。落ちないようにしっかりと抱きしめられていた。

重くないのかな。

「アリス」

起きたのかと思ったが寝言だったみたい。
マチアス様の胸に頬を付けて目を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

婚約破棄されましたが、私はもう必要ありませんので

ふわふわ
恋愛
「婚約破棄? ……そうですか。では、私の役目は終わりですね」 王太子ロイド・ヴァルシュタインの婚約者として、 国と王宮を“滞りなく回す存在”であり続けてきた令嬢 マルグリット・フォン・ルーヴェン。 感情を表に出さず、 功績を誇らず、 ただ淡々と、最善だけを積み重ねてきた彼女に突きつけられたのは―― 偽りの奇跡を振りかざす“聖女”による、突然の婚約破棄だった。 だが、マルグリットは嘆かない。 怒りもしない。 復讐すら、望まない。 彼女が選んだのは、 すべてを「仕組み」と「基準」に引き渡し、静かに前線から降りること。 彼女がいなくなっても、領地は回る。 判断は滞らず、人々は困らない。 それこそが、彼女が築いた“完成形”だった。 一方で、 彼女を切り捨てた王太子と偽聖女は、 「彼女がいない世界」で初めて、自分たちの無力さと向き合うことになる。 ――必要とされない価値。 ――前に出ない強さ。 ――名前を呼ばれない完成。 これは、 騒がず、縋らず、静かに去った令嬢が、 最後にすべてを置き去りにして手に入れる“自由”の物語。 ざまぁは静かに、 恋は後半に、 そして物語は、凛と終わる。 アルファポリス女子読者向け 「大人の婚約破棄ざまぁ恋愛」、ここに完結。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...