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成人
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会場となった大広間には大勢の招待客で溢れていた。
「な、何でこんなに…」
王族専用の出入口から覗き込む。
「皆 クリステルを祝いたいんだよ」
脚を止めてしまった私を宥めるように 王太子は肩を摩った。
「大丈夫。私が側にいるのだから何の心配もない。クリステルは微笑めばいいだけだ」
彼を見上げてじっと見つめてニコリと微笑むと王太子は顔を赤くした。
「っ! 今 お強請りされたら何でも叶えてしまいそうだ」
両手で顔を覆いだした。
「さあ、行きましょう」
「ま、待ってくれ」
今度は逆転するかたちで顔を赤らめる王太子の腕を掴んで会場に入った。
陛下と王妃は私に引っ張られている王太子を見て沈黙した後、
「リオナード、熱でもあるのか? 部屋に戻って医師に診せなさい」
「っ!」
首まで赤くなったところで王妃が陛下に耳打ちをした。
陛下はリオナードを凝視した後 前を向いて私の紹介を始めた。
「今宵はクリステルのために よく集まってくれた。
クリステルは私の要請に応じてイザークに嫁いでくれた。14歳だった少女も今や19歳。晴れて大人の仲間入りをした。これからは外に出ることもあるだろうし社交の場で顔を合わせることもあるだろう。どうか私の義妹クリステルを皆て支えて欲しい」
そうだわ。陛下の弟と婚姻したら義兄妹なのね。
「(リオナード様にとって私は叔母なのですね)」
「(言いたくはないが その通りだよ)」
拍手が収まると、祝いの挨拶が始まった。
最初はもちろん
「おめでとうございます。デリー公爵家当主のフェルナンと申します」
「王太子妃殿下の御厳父樣ですね? お会いできて光栄ですわ」
「何と可憐な姫でしょう…いや、失礼。王弟妃殿下」
「ふふっ 公爵様、後でダンスに誘っていただけませんこと?」
「…私が…でしょうか」
「はしたないお願いでしたか?」
「いえ、是非 王太子殿下の次に申し込みに上がります」
「お、お父様っ」
「妃殿下、ご挨拶を」
父親である公爵に促されて渋々祝いの言葉を口にした。
「成人おめでとうございます」
「ありがとうございます、エリーズ王太子妃殿下」
「もしかして、今のように私の夫にエスコートするよう強請ったのですか?」
「王太子妃殿下!」
公爵が慌てて王太子妃を止めようとしているけど…
「何故 私がそのようなことをしなくてはならないのですか?」
「だって、パートナーがいませんもの」
「そんなことはありませんわ。王太子殿下がお誘いくださらなければサールベーズ卿と出席する予定でしたわ」
「護衛騎士と?」
「ええ、そうですわ」
レイはサールベーズ伯爵家出身だからエスコートできるしもダンスも踊れる。いつも側にいて安心だもの。
「エリーズ、だからお前を表に出したくないのだ」
「リオナード様っ」
「こうやって祝いの席をぶち壊す。クリステルの心遣いが無駄になってしまった」
「心遣い…何を、」
王太子が怒りをあらわにし、
「これ以上はご不興を買うだけ。王太子妃殿下、お待たせしている次の方にお譲りしましょう」
「お父様っ」
公爵が王太子妃を連れて行ってしまった。
その後は友好的な方々ばかりだったし、側で王太子が会話を支配してくれる。
チラッと見ると私には微笑むだけ。
こんなに優しい人が夫なら…
そんな馬鹿なことを一瞬頭に過ぎってしまった。
「さあ、ファーストダンスの時間だ」
そう言うと王太子は片膝をついて手を差し出した。
「お、王太子殿下!?」
「クリステルと、」
「クリステル!」
王太子がダンスの誘いをしかけた時に 居ないはずの男の声が私の名を呼んだ。
「すまないな、リオナード王太子殿下。俺の代わりをしてくれて感謝する。妻の機嫌を取りたいのだが」
そう言いながら王太子の腕を掴んで立たせた。
「……」
王太子は少し険しい顔をした。
「我が妻クリステル。成人おめでとう」
「ありがとうございます」
「ファーストダンスは夫と踊るだろう?」
「え?」
チラッと王太子を見た。ここまでしてもらったのに申し訳ない気がしたから。
「クリステル。誰が夫だか忘れると周囲に在らぬ誤解を招く。頼むから俺の手を取ってくれ」
将軍を見ると髪は濡れていた。もしかしたらちょっと前に帰城して急いで汗や泥を流して駆け付けてくれたのだろうか。
「はい、お願いいたします」
ダンスが始まり少し経つと お父様やお兄様と練習していたときとはまるで違い戸惑った。距離がやたら近いし、力強くて まるで操り人形になった気分だった。
「どうした?」
「まるで将軍の服の装飾品になってゆらゆらと揺らされているような気分ですわ」
「俺、下手か?」
「そうではありません」
「ダンスの経験はほとんどないんだ」
「恋人達と踊ったりなさらないのですか?」
「そういう付き合いじゃない恋とか愛とかそんなものは無い。ただ女が必要なだけだ」
「そうですか」
「今夜はこんな話をしたくない。
クリステル、父君と兄君達は元気にしているが、やはりクリステルが心配らしい。手紙では信用できないようだ。もし君が望むなら里帰りに連れて行こうか?」
「プリュムにですか」
「そうだ一緒に行こう」
「はい」
「連れて行くが置いてくるつもりはない。絶対に」
「将軍、もう私は戦後の友好のシンボルとして必要無いのではありませんか?意味もなく私を離れに住まわせて無駄なお金を掛けるより、相応しい女性をお迎えになってはいかがですか」
「今日から将軍と呼ぶな。王太子はリオナードと呼ぶのに夫を将軍と呼んでは勘ぐられる。
婚姻は陛下から命じられたことで、君達が陛下でも王太子でもなく俺に嫁ぐと決めたときとは違う。あのときは仕方なくも申し訳ない気持ちでいた。だが……続きは後にしよう」
曲が終わってしまい 周りはダンスの相手を変え始めた。
王太子が近付いて、今度こそはと私と踊り、その後はデリー公爵が誘いに来てくれた。
お客様達と会話をしてまわり、夜遅くに解放された。
「な、何でこんなに…」
王族専用の出入口から覗き込む。
「皆 クリステルを祝いたいんだよ」
脚を止めてしまった私を宥めるように 王太子は肩を摩った。
「大丈夫。私が側にいるのだから何の心配もない。クリステルは微笑めばいいだけだ」
彼を見上げてじっと見つめてニコリと微笑むと王太子は顔を赤くした。
「っ! 今 お強請りされたら何でも叶えてしまいそうだ」
両手で顔を覆いだした。
「さあ、行きましょう」
「ま、待ってくれ」
今度は逆転するかたちで顔を赤らめる王太子の腕を掴んで会場に入った。
陛下と王妃は私に引っ張られている王太子を見て沈黙した後、
「リオナード、熱でもあるのか? 部屋に戻って医師に診せなさい」
「っ!」
首まで赤くなったところで王妃が陛下に耳打ちをした。
陛下はリオナードを凝視した後 前を向いて私の紹介を始めた。
「今宵はクリステルのために よく集まってくれた。
クリステルは私の要請に応じてイザークに嫁いでくれた。14歳だった少女も今や19歳。晴れて大人の仲間入りをした。これからは外に出ることもあるだろうし社交の場で顔を合わせることもあるだろう。どうか私の義妹クリステルを皆て支えて欲しい」
そうだわ。陛下の弟と婚姻したら義兄妹なのね。
「(リオナード様にとって私は叔母なのですね)」
「(言いたくはないが その通りだよ)」
拍手が収まると、祝いの挨拶が始まった。
最初はもちろん
「おめでとうございます。デリー公爵家当主のフェルナンと申します」
「王太子妃殿下の御厳父樣ですね? お会いできて光栄ですわ」
「何と可憐な姫でしょう…いや、失礼。王弟妃殿下」
「ふふっ 公爵様、後でダンスに誘っていただけませんこと?」
「…私が…でしょうか」
「はしたないお願いでしたか?」
「いえ、是非 王太子殿下の次に申し込みに上がります」
「お、お父様っ」
「妃殿下、ご挨拶を」
父親である公爵に促されて渋々祝いの言葉を口にした。
「成人おめでとうございます」
「ありがとうございます、エリーズ王太子妃殿下」
「もしかして、今のように私の夫にエスコートするよう強請ったのですか?」
「王太子妃殿下!」
公爵が慌てて王太子妃を止めようとしているけど…
「何故 私がそのようなことをしなくてはならないのですか?」
「だって、パートナーがいませんもの」
「そんなことはありませんわ。王太子殿下がお誘いくださらなければサールベーズ卿と出席する予定でしたわ」
「護衛騎士と?」
「ええ、そうですわ」
レイはサールベーズ伯爵家出身だからエスコートできるしもダンスも踊れる。いつも側にいて安心だもの。
「エリーズ、だからお前を表に出したくないのだ」
「リオナード様っ」
「こうやって祝いの席をぶち壊す。クリステルの心遣いが無駄になってしまった」
「心遣い…何を、」
王太子が怒りをあらわにし、
「これ以上はご不興を買うだけ。王太子妃殿下、お待たせしている次の方にお譲りしましょう」
「お父様っ」
公爵が王太子妃を連れて行ってしまった。
その後は友好的な方々ばかりだったし、側で王太子が会話を支配してくれる。
チラッと見ると私には微笑むだけ。
こんなに優しい人が夫なら…
そんな馬鹿なことを一瞬頭に過ぎってしまった。
「さあ、ファーストダンスの時間だ」
そう言うと王太子は片膝をついて手を差し出した。
「お、王太子殿下!?」
「クリステルと、」
「クリステル!」
王太子がダンスの誘いをしかけた時に 居ないはずの男の声が私の名を呼んだ。
「すまないな、リオナード王太子殿下。俺の代わりをしてくれて感謝する。妻の機嫌を取りたいのだが」
そう言いながら王太子の腕を掴んで立たせた。
「……」
王太子は少し険しい顔をした。
「我が妻クリステル。成人おめでとう」
「ありがとうございます」
「ファーストダンスは夫と踊るだろう?」
「え?」
チラッと王太子を見た。ここまでしてもらったのに申し訳ない気がしたから。
「クリステル。誰が夫だか忘れると周囲に在らぬ誤解を招く。頼むから俺の手を取ってくれ」
将軍を見ると髪は濡れていた。もしかしたらちょっと前に帰城して急いで汗や泥を流して駆け付けてくれたのだろうか。
「はい、お願いいたします」
ダンスが始まり少し経つと お父様やお兄様と練習していたときとはまるで違い戸惑った。距離がやたら近いし、力強くて まるで操り人形になった気分だった。
「どうした?」
「まるで将軍の服の装飾品になってゆらゆらと揺らされているような気分ですわ」
「俺、下手か?」
「そうではありません」
「ダンスの経験はほとんどないんだ」
「恋人達と踊ったりなさらないのですか?」
「そういう付き合いじゃない恋とか愛とかそんなものは無い。ただ女が必要なだけだ」
「そうですか」
「今夜はこんな話をしたくない。
クリステル、父君と兄君達は元気にしているが、やはりクリステルが心配らしい。手紙では信用できないようだ。もし君が望むなら里帰りに連れて行こうか?」
「プリュムにですか」
「そうだ一緒に行こう」
「はい」
「連れて行くが置いてくるつもりはない。絶対に」
「将軍、もう私は戦後の友好のシンボルとして必要無いのではありませんか?意味もなく私を離れに住まわせて無駄なお金を掛けるより、相応しい女性をお迎えになってはいかがですか」
「今日から将軍と呼ぶな。王太子はリオナードと呼ぶのに夫を将軍と呼んでは勘ぐられる。
婚姻は陛下から命じられたことで、君達が陛下でも王太子でもなく俺に嫁ぐと決めたときとは違う。あのときは仕方なくも申し訳ない気持ちでいた。だが……続きは後にしよう」
曲が終わってしまい 周りはダンスの相手を変え始めた。
王太子が近付いて、今度こそはと私と踊り、その後はデリー公爵が誘いに来てくれた。
お客様達と会話をしてまわり、夜遅くに解放された。
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