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困惑する女 D
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【 ドロテの視点 】
最近お父様とお母様がピリピリしてる。
跡継ぎとして残っている弟も忙しそうだ。
「ドロテ様、お手紙が届きました」
裏を見ると恋人のヴァレリーからだった。
“お付き合いはこれまでとし、今後は他人として遠くからお幸せを祈らせてくださいませ”
「は!?」
ヴァレリーに会いたいと返事を送るも受取拒否で戻ってきてしまう。
仕方なく、茶会で新たな令嬢を捕まえようと思ったが…
「ドロテ様宛の新たな招待状は届いておりません」
「1通も!?」
「はい」
どういうことなの。いつも何かしら届いているのに。既に届いていたものは ヴァレリーがいたから一つを除いて全て断ってしまっていた。
「じゃあ、うちで開こうかしら」
「……奥様にお伺いいたします」
歯切れの悪い侍女に聞きに行かせてクローゼットを開けた。
そろそろ新しいドレスを作ろうかしら。
侍女が戻って来た。
「茶会も夜会も開けないとのことです」
「お母様に話に行くわ」
「奥様はお忙しくて、」
「私は娘なのよ!」
お母様はお父様の執務室にいると聞いた。珍しい。
ノックをして入室すると、一瞬私を見た父は書類に目線を戻した。
「お母様、私、お茶会を開きたいの」
「駄目だと返答したはずよ」
「どうして?いつものことじゃない」
「セクレス家は忙しいのよ!」
お母様が語気を強めた。
「じゃあ、ドレスを新調して、」
「ドロテ」
お父様の低い声が威圧的に聞こえた。
「はい」
「お前はいくつまでそうしているつもりだ」
「お父様?」
「まともな嫁ぎ先はもう無いのに、いつまで実家に甘えているつもりだ」
「……」
「次々と恋人を変えてはしたない。
金を使うことばかり考えていないで、セクレス家に役立つことでも考えたらどうだ」
「も、申し訳ございません」
「いつまでも少女のように自由に振る舞えると勘違いするのは止めろ。邪魔をするな、忙しいんだ」
「失礼しました」
あんなに怒るなんて初めてのことだった。
そのくらいセクレス家が困った事になってるということなの!?
弟が戻ったと聞いて、弟の部屋を訪ねると着替え終わったところだったようだ。
「何の用ですか」
「セクレス家に何が起きているの?」
「さあ。次々と取引を止めたいと申し出があり、王都の店からも外方を向かれた。うちが誰かの機嫌を損ねたようだ」
「え?」
「忙しいんだ」
ドアを閉められてしまった。
翌朝。
「ドロテ様、本日は外出なさいますか」
身支度を整えるメイドが尋ねた。
「予定はないけど」
「ではこのままで、」
「正気なの?化粧をしてちょうだい」
「…実は、白粉や美容に関わるものが入手困難になりまして、供給が元に戻るまで奥様を優先して使うことになりました」
「は?」
「もし外出予定がない日常もお使いになると、いざという時にお困りになります」
そう言うメイドは化粧をしていた。
「貴女のを寄越しなさい」
「私のは安価な白粉で、」
「3倍払うからいいでしょう」
「困ります」
「いいから持ってきなさい!他のメイド達の分も集めるのよ!」
メイド達が使う必要ないじゃない。
だけど数十分後、お母様とメイド長が部屋に来た。
「何を考えているの!」
「だって」
「そこに後からお父様も現れ私の頬を打った」
バチン!
「キャアッ」
「弱い者から物を奪うような低俗な人間に成り下がったとはな」
「っ!」
「昨日も忠告したのに理解する頭が無いのだな」
「お父様」
「そんなに必要なら自分で買いに行け!貴族を盾にして無理に売らせるようなことは絶対にするなよ。
メイド長、入手が今までと違う品はドロテに使わせるな。ドロテが使いかけの物だけそのまま使わせてもいい。自分で買ってきたものだけにさせてくれ」
「かしこまりました」
お父様が退室すると、お母様が溜息を吐いた。
「メイド達はお客様や訪問者の応対があるでしょう。薄化粧をさせないなんて選択肢は無いし、彼女達が使っている化粧品は私物なの。それを奪うのは罪だということを覚えておきなさい。
貴族だからと使用人の私物を奪ってはいけません。
…どうしてこんな幼子に言い聞かせなくてはならない様なことを今更言わせるの」
「……」
「貴女の来客は無いし外出もないのだから必要ないじゃない。これ以上恥ずかしい振る舞いは止めてちょうだい」
お母様はそう言って退室した。
翌日、白粉を求めて店にわざわざ足を運んだのに、
「予約販売となっており、予約のお客様でいっぱいとなっております」
「予約をするわ。いつ届けてくださるの?」
「今からですと10年は先となります」
「は? 今まで普通に買えたじゃないの」
「原料の納入に規制がかかっているため、どうにもなりません」
店内を見渡すと、どの商品も“予約販売”“品切れ”の札が出ていた。
仕方なく平民の店に着くも、入りに“平民専用”“貴族の方は貴族街でご購入願います”と書いてあった。
「何なのよ!」
「友人に分けてもらえないか手紙を出しても断りの返事が届くだけだった。」
最近お父様とお母様がピリピリしてる。
跡継ぎとして残っている弟も忙しそうだ。
「ドロテ様、お手紙が届きました」
裏を見ると恋人のヴァレリーからだった。
“お付き合いはこれまでとし、今後は他人として遠くからお幸せを祈らせてくださいませ”
「は!?」
ヴァレリーに会いたいと返事を送るも受取拒否で戻ってきてしまう。
仕方なく、茶会で新たな令嬢を捕まえようと思ったが…
「ドロテ様宛の新たな招待状は届いておりません」
「1通も!?」
「はい」
どういうことなの。いつも何かしら届いているのに。既に届いていたものは ヴァレリーがいたから一つを除いて全て断ってしまっていた。
「じゃあ、うちで開こうかしら」
「……奥様にお伺いいたします」
歯切れの悪い侍女に聞きに行かせてクローゼットを開けた。
そろそろ新しいドレスを作ろうかしら。
侍女が戻って来た。
「茶会も夜会も開けないとのことです」
「お母様に話に行くわ」
「奥様はお忙しくて、」
「私は娘なのよ!」
お母様はお父様の執務室にいると聞いた。珍しい。
ノックをして入室すると、一瞬私を見た父は書類に目線を戻した。
「お母様、私、お茶会を開きたいの」
「駄目だと返答したはずよ」
「どうして?いつものことじゃない」
「セクレス家は忙しいのよ!」
お母様が語気を強めた。
「じゃあ、ドレスを新調して、」
「ドロテ」
お父様の低い声が威圧的に聞こえた。
「はい」
「お前はいくつまでそうしているつもりだ」
「お父様?」
「まともな嫁ぎ先はもう無いのに、いつまで実家に甘えているつもりだ」
「……」
「次々と恋人を変えてはしたない。
金を使うことばかり考えていないで、セクレス家に役立つことでも考えたらどうだ」
「も、申し訳ございません」
「いつまでも少女のように自由に振る舞えると勘違いするのは止めろ。邪魔をするな、忙しいんだ」
「失礼しました」
あんなに怒るなんて初めてのことだった。
そのくらいセクレス家が困った事になってるということなの!?
弟が戻ったと聞いて、弟の部屋を訪ねると着替え終わったところだったようだ。
「何の用ですか」
「セクレス家に何が起きているの?」
「さあ。次々と取引を止めたいと申し出があり、王都の店からも外方を向かれた。うちが誰かの機嫌を損ねたようだ」
「え?」
「忙しいんだ」
ドアを閉められてしまった。
翌朝。
「ドロテ様、本日は外出なさいますか」
身支度を整えるメイドが尋ねた。
「予定はないけど」
「ではこのままで、」
「正気なの?化粧をしてちょうだい」
「…実は、白粉や美容に関わるものが入手困難になりまして、供給が元に戻るまで奥様を優先して使うことになりました」
「は?」
「もし外出予定がない日常もお使いになると、いざという時にお困りになります」
そう言うメイドは化粧をしていた。
「貴女のを寄越しなさい」
「私のは安価な白粉で、」
「3倍払うからいいでしょう」
「困ります」
「いいから持ってきなさい!他のメイド達の分も集めるのよ!」
メイド達が使う必要ないじゃない。
だけど数十分後、お母様とメイド長が部屋に来た。
「何を考えているの!」
「だって」
「そこに後からお父様も現れ私の頬を打った」
バチン!
「キャアッ」
「弱い者から物を奪うような低俗な人間に成り下がったとはな」
「っ!」
「昨日も忠告したのに理解する頭が無いのだな」
「お父様」
「そんなに必要なら自分で買いに行け!貴族を盾にして無理に売らせるようなことは絶対にするなよ。
メイド長、入手が今までと違う品はドロテに使わせるな。ドロテが使いかけの物だけそのまま使わせてもいい。自分で買ってきたものだけにさせてくれ」
「かしこまりました」
お父様が退室すると、お母様が溜息を吐いた。
「メイド達はお客様や訪問者の応対があるでしょう。薄化粧をさせないなんて選択肢は無いし、彼女達が使っている化粧品は私物なの。それを奪うのは罪だということを覚えておきなさい。
貴族だからと使用人の私物を奪ってはいけません。
…どうしてこんな幼子に言い聞かせなくてはならない様なことを今更言わせるの」
「……」
「貴女の来客は無いし外出もないのだから必要ないじゃない。これ以上恥ずかしい振る舞いは止めてちょうだい」
お母様はそう言って退室した。
翌日、白粉を求めて店にわざわざ足を運んだのに、
「予約販売となっており、予約のお客様でいっぱいとなっております」
「予約をするわ。いつ届けてくださるの?」
「今からですと10年は先となります」
「は? 今まで普通に買えたじゃないの」
「原料の納入に規制がかかっているため、どうにもなりません」
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仕方なく平民の店に着くも、入りに“平民専用”“貴族の方は貴族街でご購入願います”と書いてあった。
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