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夢
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ピンと張った寒空の夜、俺は一歩一歩足を進めた。
「待ってくれ!」
「近寄らないで!」
逢瀬の館で目の前の美しい人が喉元にナイフを突き付けていた。
「さぞ滑稽だったでしょう?充分楽しめたかしら?」
「違う!違うんだ!」
「まだ嘘を吐くの?本当に私は侮られていたのね」
「そうじゃない!」
「まあ、そうよね…」
「…頼む…ナイフを置いてくれ」
「さようなら」
「!!」
ガバッ!
「はぁっ!はぁっ!…夢か…」
自分の部屋の内装を見て夢だと安堵する。
息を整え鼓動を落ち着かせた。
チリン チリン
冬だというのに寝汗をかいていた。
メイドを呼びシーツを交換し服も着替えた。
「すまないが熱々のお茶が飲みたい」
「かしこまりました」
一度沸かした湯を運ばせ、もう一度部屋で沸かしてもらった。
「苦い方がいい」
「かしこまりました」
口の中が火傷をするほど熱いがゆっくり少しずつ飲んだ。身体が温まり、やっと落ち着いた。
「お医者様をお呼びしましょうか」
「夢が良くなかっただけだ。夜中に悪かったね」
「いつでも呼び付けてくださいませ」
「セラ ありがとう、もういいよ」
「失礼いたします」
パタン
メイドが出て行くとガウンを羽織り、ティーカップを持ってバルコニーに出た。
鼻が痛くなるほど寒い。
冷める前にお茶を口にした。
あの夢はあくまで夢だ。
だが正夢に化ける可能性がある。
俺は相手にしてはいけない女と三度も寝てしまった。そのことに彼女はまだ気付いていない。
さて、どうするか。
翌朝。
「フレデリック様、おはようございます。体調はいかがでしょうか」
「大丈夫だよ。ちょっと夢を見て寝汗をかいただけだから。ロバートは疲れていない?」
「お優しいフレデリック様にお仕えしておりますので、たいした疲れも無く、十分な睡眠をいただき元気いっぱいです」
「それは良かった」
俺の名はフレデリック。
スタンサー侯爵家の次男だ。
7つ歳上の姉ミランダは既に嫁いだ。
4つ歳上の兄モーガンは学園を卒業して両親と一緒に領地へ行って後継者教育を受けている。
ロバートは執事だ。彼がいるから両親は安心して俺一人を置いて領地に戻ることができる。
「昨夜は問題はございませんでしたか」
これは夢のことではなく、外出先でのことを言っているのだろう。
「大丈夫だよ。
ロバート。忙しくなければセラに簡単な買い物を頼んで、帰りにケーキでも食べて来られるようにしてあげて」
「では、ティールームの焼き菓子を買いに行かせましょう」
「寒いからしっかり着込ませて出してくれ。馬車も俺の馬車を使っていい。お小遣いも渡してほしい」
「かしこまりました」
朝食を食べ身支度をして学園に登校した。
ここに通うのは後6ヶ月。
その6ヶ月後は卒業で俺も進路を確定させなくてはならない。
「「スタンサー様、おはようございます」」
「おはよう、ハンストン嬢、ヤック嬢」
馬車を降りてから教室へ行き授業が始まるまでに多くの令嬢に挨拶をされる。面倒だが挨拶だけは返すことにしている。
男子生徒のことは家名に様を付けて呼ぶ。女生徒のことは家名に嬢を付けて呼ぶ。
女性に爵位の継承権が認められていないからなのか。
「おはようございます、スタンサー様」
「おはようございます、ヘベルス嬢」
「侯爵様はいつお戻りに?」
「予定はありませんので王宮行事くらいでしょう」
「侯爵様からお祝いをいただきましたの。お礼は領地でよろしいでしょうか」
「はい、よろしくお願いします」
今のはヘベルス侯爵家の長女だ。
侯爵家以上には丁寧な対応をするが、それ以外は、
「スタンサー様、おはようございます」
「おはよう、カロヴィス嬢」
「あの、今度パーティがあって、」
「私的なことで話しかけないでもらいたい。悪いね。切りがないから仕方ないんだ。察してほしい」
はっきり拒絶する。
本当に切りがないから。
教室の席に座り一限目の教科書を出した。
隣の三列前に座るあの子を視界に入れるとあの夢を思い出した。
彼女は昨夜、俺に身体を許し乱れていた令嬢で、夢に出て来てナイフで自分の首を刺した。
生きている。間違いなく夢だったと確認できて安心した。
「待ってくれ!」
「近寄らないで!」
逢瀬の館で目の前の美しい人が喉元にナイフを突き付けていた。
「さぞ滑稽だったでしょう?充分楽しめたかしら?」
「違う!違うんだ!」
「まだ嘘を吐くの?本当に私は侮られていたのね」
「そうじゃない!」
「まあ、そうよね…」
「…頼む…ナイフを置いてくれ」
「さようなら」
「!!」
ガバッ!
「はぁっ!はぁっ!…夢か…」
自分の部屋の内装を見て夢だと安堵する。
息を整え鼓動を落ち着かせた。
チリン チリン
冬だというのに寝汗をかいていた。
メイドを呼びシーツを交換し服も着替えた。
「すまないが熱々のお茶が飲みたい」
「かしこまりました」
一度沸かした湯を運ばせ、もう一度部屋で沸かしてもらった。
「苦い方がいい」
「かしこまりました」
口の中が火傷をするほど熱いがゆっくり少しずつ飲んだ。身体が温まり、やっと落ち着いた。
「お医者様をお呼びしましょうか」
「夢が良くなかっただけだ。夜中に悪かったね」
「いつでも呼び付けてくださいませ」
「セラ ありがとう、もういいよ」
「失礼いたします」
パタン
メイドが出て行くとガウンを羽織り、ティーカップを持ってバルコニーに出た。
鼻が痛くなるほど寒い。
冷める前にお茶を口にした。
あの夢はあくまで夢だ。
だが正夢に化ける可能性がある。
俺は相手にしてはいけない女と三度も寝てしまった。そのことに彼女はまだ気付いていない。
さて、どうするか。
翌朝。
「フレデリック様、おはようございます。体調はいかがでしょうか」
「大丈夫だよ。ちょっと夢を見て寝汗をかいただけだから。ロバートは疲れていない?」
「お優しいフレデリック様にお仕えしておりますので、たいした疲れも無く、十分な睡眠をいただき元気いっぱいです」
「それは良かった」
俺の名はフレデリック。
スタンサー侯爵家の次男だ。
7つ歳上の姉ミランダは既に嫁いだ。
4つ歳上の兄モーガンは学園を卒業して両親と一緒に領地へ行って後継者教育を受けている。
ロバートは執事だ。彼がいるから両親は安心して俺一人を置いて領地に戻ることができる。
「昨夜は問題はございませんでしたか」
これは夢のことではなく、外出先でのことを言っているのだろう。
「大丈夫だよ。
ロバート。忙しくなければセラに簡単な買い物を頼んで、帰りにケーキでも食べて来られるようにしてあげて」
「では、ティールームの焼き菓子を買いに行かせましょう」
「寒いからしっかり着込ませて出してくれ。馬車も俺の馬車を使っていい。お小遣いも渡してほしい」
「かしこまりました」
朝食を食べ身支度をして学園に登校した。
ここに通うのは後6ヶ月。
その6ヶ月後は卒業で俺も進路を確定させなくてはならない。
「「スタンサー様、おはようございます」」
「おはよう、ハンストン嬢、ヤック嬢」
馬車を降りてから教室へ行き授業が始まるまでに多くの令嬢に挨拶をされる。面倒だが挨拶だけは返すことにしている。
男子生徒のことは家名に様を付けて呼ぶ。女生徒のことは家名に嬢を付けて呼ぶ。
女性に爵位の継承権が認められていないからなのか。
「おはようございます、スタンサー様」
「おはようございます、ヘベルス嬢」
「侯爵様はいつお戻りに?」
「予定はありませんので王宮行事くらいでしょう」
「侯爵様からお祝いをいただきましたの。お礼は領地でよろしいでしょうか」
「はい、よろしくお願いします」
今のはヘベルス侯爵家の長女だ。
侯爵家以上には丁寧な対応をするが、それ以外は、
「スタンサー様、おはようございます」
「おはよう、カロヴィス嬢」
「あの、今度パーティがあって、」
「私的なことで話しかけないでもらいたい。悪いね。切りがないから仕方ないんだ。察してほしい」
はっきり拒絶する。
本当に切りがないから。
教室の席に座り一限目の教科書を出した。
隣の三列前に座るあの子を視界に入れるとあの夢を思い出した。
彼女は昨夜、俺に身体を許し乱れていた令嬢で、夢に出て来てナイフで自分の首を刺した。
生きている。間違いなく夢だったと確認できて安心した。
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