【完結】仮面の令嬢と秘密の逢瀬

ユユ

文字の大きさ
34 / 36

本来の持ち主へ

しおりを挟む

父上は困り果てた顔をして、兄上の状況を口にした。

「神父が、神に仕えるということはどういうことなのか説明したのだが、聞き流している気がするんだよ。“ここで神に仕えます”としか言わないんだ」

「長男に対し判断を下せないのは、夫人が諦めきれないからですね?」

「そうなのです。
ですが元々上手くいっていませんでしたし、一度帰って話し合うということもせず、相手の迷惑も考えずに押しかけ続けるモーガンを許してはいけないのは承知しています。
妻の涙についズルズルと……はぁ」

「侯爵。我が子ならばどんな性質の子でも継げるというものではありませんよ。
夫人が泣こうが喚こうが関係ありません。夫人も生まれたときから貴族教育を受けて知っているはずです。夫人はご自分の涙で侯爵が強く出ることができないことを知っていて利用しているだけです。フレデリックが支えてくれるはずだと、本来のフレデリックのものまで奪って自分に似た子を優先させています。違いますか?」

エレノアの兄ギリアスは、冷静な目を持っていた。
ちょっと馬鹿だと思っていたのに…これは意外だった。

「…無垢そうな涙の裏には利己的で、夫からも息子からも搾取をしているのです。夫人の偏愛に一つも良い部分などありません。
侯爵も決断できないのであれば、さっさとフレデリックに全てを渡して、夫人と長男と例の町で暮らせばいいのですよ。義務を果たさなかった元貴族として」

それは俺にも言えよう。

兄モーガンは貴族に向かない。平民にも向かない。
夢の国で生きているような人だ。
彼には悪意がない。かと言って善人とは言えない。相手のためを思って何かをするという考えが存在しない。優しさに見えるものは、自分が可哀想だと感じたからであって、深く考えていない。寝れば忘れる程度だ。
そんな男でも血の繋がった兄で、俺に意地悪などしたこともない。いつも笑顔で接してくれた。悪意のない者を相手に鞭を振るうことは俺にはできなかった。罪悪感との戦いになるからだ。だから跡継ぎの座を譲り、支えてやればいいかと思っていた。

だが、客観的に見ればギリアスが正しい。
特に領地をもつ侯爵位を継ごうというのなら、不出来でも後継者教育に真摯に取り組むべきだ。
兄の妻は他所の血族。彼女も兄を客観的に見てしまい、他の男に目を向けてしまったのだろう。

純粋そうに見える母上も他人から見れば利己的か…。

「父上。そんなに神に仕えたいと主張するのであれば除籍して教会本部に預け最下層から修行させるべきです。あの町の教会に拘るのなら、それは神に仕えたいからではありません。好きな女の側にいたいと駄々をこねた俗物です。
いくらなんでも貴族としてすべきことは分かっているはず。それでも己の欲望を通そうとするのなら、甘い汁は与えないことです。
しかも領内で起こしているのです。領民の目があります。厳しい判断をなさらないと領民が不満を募らせます。
母上は侯爵夫人です。侯爵家のために動けないのなら退がらせるべきです。そしてそれは自身が選択したことだと分からせるべきです。
父上も父親として夫としての温情は終わりにして侯爵として判断をしませんか」

「そうか…そうだな」


翌日 兵士を連れて出掛けた父上は、兄を縛って連れて帰って来た。
母上は泣いている。

ギリアスも立ち合い、家族会議が始まった。

「私は妻可愛さに現実から目を背けていた。だがそれは間違いだった。
モーガン。神に仕えたいというのは本気だな?」

「はい!父上」

「いいだろう。神に仕えるといい」

「ありがとうございます、父上!」

「あなた!」

「おまえは黙っていろ」

「っ!」

「神に仕えるには修行が必要だ。明日、教会本部へ向かいなさい」

「え?」

「手を挙げて“はい なります”と言えば誰でも教会にいられるとでも?
本部で審査を受けて修行しながら下積みをするものだ。あの町の神父もそうした。
あの教会でなければ神に仕えることができないなんてことはありえない。国中に教会は存在するのだからな。
何にせよ、修行からだ」

「わ、私はあの教会で、」

「追放するぞ?」

「父上!?」

「おまえがやっていることは迷惑以上のことなのだ。どうせ言っても分からないだろう。
とにかく、修行無しであの教会に執着するなら追放する」

「でも、私はスタンサー家の息子です」

「義務を放棄したくせに都合のいいことを言うな。
息子だから神に仕えることを許してやったのだ。感謝すべきだろう?
異議は受け付けない。決定事項だ。
フレデリックに引き継ぎ、私は責任を取って隠居する。妻の面倒を見なくてはならないからな」

「あなた…今 私のことを我儘だと仰ったの!?」

「侯爵夫人としての振る舞いは出来ていないし、明らかに相応しくないモーガンを跡継ぎにしようと必死だ。涙は使いすぎると効果を失う。不満なら永久に実家に帰っていいぞ」

「っ!!」

いつもなら涙を見せる母上だが、悔しそうだ。
兄上は驚いた顔のまま固まってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します

佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。 セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。 婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...