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ここは小説の中
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違和感が拭えない景色や人々に混乱すること一ヶ月、だいぶ馴染んできたと思う。
「お嬢様、本当にミルクを入れないのですか?」
「本当よ。今後は蜂蜜もミルクは要らないわ」
「ティーティア、背伸びをする必要はないんだよ?」
心配そうに私を見つめるのは一週間前に我が家に移り住んだニつ歳上の義兄ユリウスだ。
正確には実の兄でも義理の兄でもない。
およそ一ヶ月前、サンセール王国という愛の女神を崇める小国の伯爵令嬢ティーティアとして目覚めたが、中身は岡本未来なのでもう蜂蜜もミルクも不要だ。
物語のような部屋、外国人だらけ。脳内混乱はあったが、ティーティアの記憶を受け継いでいたために問題はなかった。
ティーティアは風邪を拗らせて高熱を出していたという。しかも痙攣を起こして気を失ったらしい。
もしかして憑依とか入れ替わりとかというやつ?
未来は死んだ??
全く分からなかったが、こうなっては仕方ない。ティーティアとして生きるために状況把握を始めた。
裕福で国王夫妻の覚えの良いヴェリテ伯爵家は恵まれていた。
だが子が産まれずに周囲から第二夫人をと進言を受けたが拒否し続けてやっと産まれたのがティーティアだった。
一人娘のティーティアは溺愛されて何不自由なく甘やかされたために少し我儘になっていた。
勉強はするし癇癪は起こさないが何に対しても好き嫌いが激しく頑固だった。
お茶もミルクたっぷりの蜂蜜入りじゃないと口につけなかった。
「ティーティア、どこか悪いんじゃないの?今まで口にしなかった野菜や魚も食べて」
「そうだぞ。熱が引いてから剣を片手に運動を始めるし」
「お父様、お母様、私はどこも悪くありませんわ。寧ろ良くなったのです。死ぬかもしれないと思ったら今のままでは駄目だと感じたのです。
ですがお強請りは健在です。お義兄様が欲しいと我儘を通したではありませんか」
「ならいいんだが」
「今欲しいものは無いの?」
「最高のマナー講師に習いたいです。三ヶ月くらいで結構です」
「最高?」
「どんな人が相手でも非の付け所がないほどに」
「それを三ヶ月!?」
「そんな最高の講師を伯爵令嬢が領地で長く独占できませんわ」
「断られそうだが頼んでみるよ」
「ありがとうございます」
「他には無いのか?」
「お義兄様の笑顔が見たいので、お義兄様の欲しい物がいいです」
「ユリウスは希望は何かないか」
「許されるなら剣術の講師を付けていただきたいです。今の大事な家族が守れるように」
「ユリウスもまだ子供なのだから無理をしなくてもいいのだよ」
「頑張らせてください」
「分かった」
「あと、そのマナー講師の先生が来たら私も受けたいのです。最高の講師なら令息のマナーもご存知でしょう」
「合わせて聞いてみよう」
「ありがとうございます」
それがとんでもない話になってしまった。
王都に戻った父から来た手紙に記された指示に従い、三人で王都に行くことになった。
王宮で働いている父はたまに領地に帰ってくる。母は半々だ。領地と王都が近いので成り立っている。今はユリウスを迎えたばかりだから母が領地に残っていた。
父が陛下に世間話を振られ、領地での家族のことを話したら、陛下が兄妹を王都に連れてきて王宮で習わせればいいと言い出したらしい。
ユリウスと同い歳の双子の王子と王女がいるから丁度いいと言われたらしい。
何が丁度なの??
嫌な予感しかしない。
何故、伯爵家が王家と近いのかというと、国王夫妻がまだ王太子夫妻だった頃、貴族派の一部が謀反を起こしたことがあった。
偶然、王太子妃の学友であった母が母の妹を連れて王宮のお茶会に参加していた。
お茶会が終わり、皆を帰した後で三人で話し込んでいたのだ。
騎士達が王太子妃を避難させるときに母が提案した。
『私を王太子妃ということにして護衛をしてください。髪も瞳も色が似ていますから私が囮になります。騎士様、ミラベル様と隠し部屋に隠れてください』
『そんなこと出来ないわ!』
『ミラベル様はまだ安定期に入っていないのに走り回るわけにはいきません!』
騎士達もその案に乗り、王太子妃を隠し部屋に隠すと、預かった王太子妃の宝石を母が付けようとした。
『お姉様、私の方が顔立ちが似ていますから私がやります』
『駄目よ』
『敵が王女が誰か迷ったら三人とも死にます。今日は私の方がドレスが明るい色なので目立ちます。借りた王太子妃様の宝石を身に付ければ完璧です』
騎士も同意して母の妹が王太子妃の振りをした。
刺客に追いつかれ、母の妹は殺された。
王宮騎士団が救いに来た時には母も背中を切られ、倒れたところを刺そうと剣を振り上げられたところだった。
国王夫妻、王太子夫妻は無事だったが、王太子夫妻の長女も殺された。
母は重症だったが手厚い治療の末に生き延びた。
母と母の妹は王族を命がけで救った友人として讃えられた。
それから王家とヴェリテ伯爵家と母の実家の侯爵家は親しくなった。
母の妹の方は結婚前だったので王家から婚約者の家門へ慰謝料が支払われた。
謀反に関わった者達の大粛清を行った一方でヴェリテ伯爵家には影が落ちていた。
母は流産していた。
あの時、母も妊娠していたのだ。本人でさえも気が付いていなかった。
散々妹と一緒に走り回り、目の前で妹を殺されて自身も斬られ、殺されかけたショックで流産したのだ。
その報告を受けて王太子妃は深い後悔に苛まれることになる。
それから妊娠が出来ずにいたところをやっとティーティアを授かったのだ。
「お嬢様、本当にミルクを入れないのですか?」
「本当よ。今後は蜂蜜もミルクは要らないわ」
「ティーティア、背伸びをする必要はないんだよ?」
心配そうに私を見つめるのは一週間前に我が家に移り住んだニつ歳上の義兄ユリウスだ。
正確には実の兄でも義理の兄でもない。
およそ一ヶ月前、サンセール王国という愛の女神を崇める小国の伯爵令嬢ティーティアとして目覚めたが、中身は岡本未来なのでもう蜂蜜もミルクも不要だ。
物語のような部屋、外国人だらけ。脳内混乱はあったが、ティーティアの記憶を受け継いでいたために問題はなかった。
ティーティアは風邪を拗らせて高熱を出していたという。しかも痙攣を起こして気を失ったらしい。
もしかして憑依とか入れ替わりとかというやつ?
未来は死んだ??
全く分からなかったが、こうなっては仕方ない。ティーティアとして生きるために状況把握を始めた。
裕福で国王夫妻の覚えの良いヴェリテ伯爵家は恵まれていた。
だが子が産まれずに周囲から第二夫人をと進言を受けたが拒否し続けてやっと産まれたのがティーティアだった。
一人娘のティーティアは溺愛されて何不自由なく甘やかされたために少し我儘になっていた。
勉強はするし癇癪は起こさないが何に対しても好き嫌いが激しく頑固だった。
お茶もミルクたっぷりの蜂蜜入りじゃないと口につけなかった。
「ティーティア、どこか悪いんじゃないの?今まで口にしなかった野菜や魚も食べて」
「そうだぞ。熱が引いてから剣を片手に運動を始めるし」
「お父様、お母様、私はどこも悪くありませんわ。寧ろ良くなったのです。死ぬかもしれないと思ったら今のままでは駄目だと感じたのです。
ですがお強請りは健在です。お義兄様が欲しいと我儘を通したではありませんか」
「ならいいんだが」
「今欲しいものは無いの?」
「最高のマナー講師に習いたいです。三ヶ月くらいで結構です」
「最高?」
「どんな人が相手でも非の付け所がないほどに」
「それを三ヶ月!?」
「そんな最高の講師を伯爵令嬢が領地で長く独占できませんわ」
「断られそうだが頼んでみるよ」
「ありがとうございます」
「他には無いのか?」
「お義兄様の笑顔が見たいので、お義兄様の欲しい物がいいです」
「ユリウスは希望は何かないか」
「許されるなら剣術の講師を付けていただきたいです。今の大事な家族が守れるように」
「ユリウスもまだ子供なのだから無理をしなくてもいいのだよ」
「頑張らせてください」
「分かった」
「あと、そのマナー講師の先生が来たら私も受けたいのです。最高の講師なら令息のマナーもご存知でしょう」
「合わせて聞いてみよう」
「ありがとうございます」
それがとんでもない話になってしまった。
王都に戻った父から来た手紙に記された指示に従い、三人で王都に行くことになった。
王宮で働いている父はたまに領地に帰ってくる。母は半々だ。領地と王都が近いので成り立っている。今はユリウスを迎えたばかりだから母が領地に残っていた。
父が陛下に世間話を振られ、領地での家族のことを話したら、陛下が兄妹を王都に連れてきて王宮で習わせればいいと言い出したらしい。
ユリウスと同い歳の双子の王子と王女がいるから丁度いいと言われたらしい。
何が丁度なの??
嫌な予感しかしない。
何故、伯爵家が王家と近いのかというと、国王夫妻がまだ王太子夫妻だった頃、貴族派の一部が謀反を起こしたことがあった。
偶然、王太子妃の学友であった母が母の妹を連れて王宮のお茶会に参加していた。
お茶会が終わり、皆を帰した後で三人で話し込んでいたのだ。
騎士達が王太子妃を避難させるときに母が提案した。
『私を王太子妃ということにして護衛をしてください。髪も瞳も色が似ていますから私が囮になります。騎士様、ミラベル様と隠し部屋に隠れてください』
『そんなこと出来ないわ!』
『ミラベル様はまだ安定期に入っていないのに走り回るわけにはいきません!』
騎士達もその案に乗り、王太子妃を隠し部屋に隠すと、預かった王太子妃の宝石を母が付けようとした。
『お姉様、私の方が顔立ちが似ていますから私がやります』
『駄目よ』
『敵が王女が誰か迷ったら三人とも死にます。今日は私の方がドレスが明るい色なので目立ちます。借りた王太子妃様の宝石を身に付ければ完璧です』
騎士も同意して母の妹が王太子妃の振りをした。
刺客に追いつかれ、母の妹は殺された。
王宮騎士団が救いに来た時には母も背中を切られ、倒れたところを刺そうと剣を振り上げられたところだった。
国王夫妻、王太子夫妻は無事だったが、王太子夫妻の長女も殺された。
母は重症だったが手厚い治療の末に生き延びた。
母と母の妹は王族を命がけで救った友人として讃えられた。
それから王家とヴェリテ伯爵家と母の実家の侯爵家は親しくなった。
母の妹の方は結婚前だったので王家から婚約者の家門へ慰謝料が支払われた。
謀反に関わった者達の大粛清を行った一方でヴェリテ伯爵家には影が落ちていた。
母は流産していた。
あの時、母も妊娠していたのだ。本人でさえも気が付いていなかった。
散々妹と一緒に走り回り、目の前で妹を殺されて自身も斬られ、殺されかけたショックで流産したのだ。
その報告を受けて王太子妃は深い後悔に苛まれることになる。
それから妊娠が出来ずにいたところをやっとティーティアを授かったのだ。
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