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第一王子・一日自由券

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【第一王子 セインの視点】



「今度は何処に行きたいんだ?」

「一番上からの景色が見たい!」

「ええっ」

「嫌なら塔のてっぺんに、」

「こっちでいいです!」

私は今何をしているのかと言うとティーティアを背負っている。

ティーティアの出した対価は、

『一日私を背負って城内を探索してください』

『ええ!? 背負うやつか』

『私の行きたい所へ連れて行ってください』

『分かった』


どうせちょっと背に乗せれば飽きるだろうと思っていたが、朝の8時に登城してきた。

『おはようございます!』

元気いっぱいに微笑むティーティアは男の子の格好をしていた。
それはそれで可愛いのだが、まさかこんな早くから始めるとは思っていなかった。

8時からずっと背負っている。
彼女は背中に“修行中につき話しかけないように”と書いた布を貼り付けていた。
私の胸元にも“修行中”の布が。

通りかかった使用人達や騎士達、文官達も最初はギョッとした顔をするが、文字を見るとすぐに見なかったことにして誰も助けてくれない。

最初は厨房に寄り、挨拶をし、

『今日はセイン殿下の修行日です。
昼は栄養のあるものを、夜は疲れ切って立てなくなった者が欲するものを用意してあげてください!
よろしくお願いします!』

元気いっぱいに挨拶するのでウケが良く、料理人達もいい返事をする。

『お嬢様はどうなさいますか』

『皆様と同じものが食べたいです』

『賄いを?』

『はい!セイン殿下が、他の方々の食事に影響ない程度に自由に皆様の分も一緒に作っていいと仰いました!素敵な王子様です』

『おまっ、』

『殿下!ありがとうございます!
美味しい賄いを作ってお嬢様を唸らせます』

『私、夜も居ますのでよろしくお願いします』

『よし!やるぞー!!』

夜まで………。



本館の中を巡って昼食前の最後に屋上に来た。

「いい景色ですね!殿下」

「いい度胸してるな。本当に10歳か?」

「このはるか先の景色まで貴方が守るべき民が何十万人、何百万人、何千万人といるのです。重責なのは誰から見ても分かっています。

自分一人がなどと馬鹿なことは思わないでください。セイン殿下は所詮一人の人間に過ぎません。

セイン殿下が背負うものを共に背負ってくれる人達を慎重に選ばなくてはなりません。側近から各部署の長から騎士から使用人まで。

貴方を助けてくれる人に感謝の気持ちを忘れてはなりません。“ありがとう”、“良くやった”、“助かった”、かける言葉は沢山あります。

そこに名前を付けたら二重丸。さらに個人的な情報を盛り込めればハナマルです」

「ハナマル?」

「大変良くできましたという意味です。

殿下も、陛下の仕事を手伝った後に無言で帰されるよりも、“助かった”と言われたらやって良かったと思いませんか?

“セイン、助かった”と言われたら益々嬉しい。 

“セイン、助かった。そういえば剣蛸が痛いと聞いたが大丈夫か”と言われたら気にかけてくれていると胸が温かくなりませんか?

王子も騎士も使用人も同じ人間なのです」

「そうか」

「勿論それだけでは駄目ですけど。
助かった、良くなった、幸せだと国民に感じてもらえるような政策が必要です。
難しいですが偏りもいけません」

「偏りか」

「貴族が、子供が、女性が、たった一人でどこを歩いても襲われることのない国になると良いですね」

「夢の国だな」

「それでいいのです。遠くに目標を決めて、足元からちょっとずつ手をつけます」

「遠くの目標?」

「辿り着けなくても方角が合っていればいいのです」

「迷子になるなと言っているのか」

「私、すごい方向音痴なんです。ふふっ」

「殿下~昼食のお時間です~!」

「ほら、手を振って」

言われた通り手を振ると侍従も嬉しそうに手を振り返した。

「成程。こうなるのか」

「さあ、待たせちゃうと悪いですから行きましょう」


この不思議な少女は午前中だけで城の雰囲気を変えてしまった。

サリオンとペイジェルも昼食の席に現れ、サリオンはモジモジとしながら、

「ごめんなさい」

そう言って頭を下げた。

ティーティアはニッコリ笑ってサリオンの手を取ると握手をした。

「偉そうに言ってごめんなさい。
私も充分穀潰しだから!」

何故か堂々と自分を穀潰しだと言う少女が眩しく見えた。

四人で食事をしていると双子はティーティアの食事に興味津々で、

「どうしてティーティアだけ?」

「美味しいの?」

「美味しいし食べやすいです。全てスプーンひとつで食べることができます。私のことを考えて作ってくださったのです」

サラダは小さく刻み、深皿には小さい具の煮込み。デザートもすくって食べるタイプのものだ。

「スプーンの先が割れてればなぁ」

「割れていたら危ないだろう」

「ふふっ、大丈夫にするのです。
商品化してみようかなぁ~特許とかあるよね?」

ブツブツ言いながら豪快に食べる姿に様子を見に来た料理長が嬉しそうにしている。

食べ終わると席を立ち、料理長に抱きついた。

「料理長、とっても美味しかったです!
食べやすくてこぼしませんでした!」

料理長はティーティアの頭を撫でて
“それは良かったです”と返した。

本来なら伯爵令嬢の頭を撫でるなどしない。
無礼だと罰を受けるからだ。

ティーティアは態と子供を演じている。

「またいらっしゃる時は仰ってください。
お嬢様にお作りすることを楽しみにお待ち申し上げます。
夕食にご要望はございますか」

「シムル料理長が好きなもので皆様も食べることができるメニューがいいです」

「これは急いで作戦を練らなくては。失礼いたします」

去っていく料理長の後ろ姿が楽しそうだった。




長めの昼食休憩を終えた後は、外の散策となった。

「へえ。王族は12歳までに婚約するんですね。そんな慣習は変えてしまえばいいのに」

「変える?」

「せめて学園卒業後でもいいと思うのですけど。

特に領地や家門の困窮のために女性を売りに出すみたいなのは人権侵害です。結局は手腕が劣るからツケを娘に払わせているのです。

借金や支援の為に娘を出すくらいなら領主をクビにすればいいし、これが明らかに天災などで致し方ないときは国が介入すればいいと思います。

経営の上手な人にコンサルタントになってもらうとか。

どうしようもない土地は国有地にして国の施設を建てるとか」

「国の施設?」

「訓練所、養成所、強制労働所、牢獄、病院とか」

「病院?」

「リハビリや心の病の方が入る施設です」

「其方の頭の中はどうなっているんだ?」

「秘密です」

「私の婚約者は他国の王女だ。サリオンも数ヶ月前に高位貴族の婿入りが決まっている。
ペイジェルも今話を詰めているところだ」

「王女はどんな方ですか」

「さあ。会ったこともない」

「誰が望んだ婚約なのですか」

「先方が打診をしてきた」

「力がなくてごめんね」

「10歳のティーティアなんかちっぽけな人間のひとりだ。どうにかしようなんて気にすることはない」

「結婚前に会う予定は?」

「今のところ無いな」

「もうすぐ学園に通うんですね」

「其方がいないからつまらなそうだ」

「褒め言葉と信じてます」

「そういうことにしておく」




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