【完結】転生令嬢は遠慮いたしません!

ユユ

文字の大きさ
10 / 38

ミスラの獲物

しおりを挟む
王都に来て四ヶ月近くになっていた。

「おはようございます。パパは?」

「呼び出しがあって王宮へ向かったわ」

ふーん。つまんないな。今日は予定が何もない。

「ミスラ、お散歩する?」

「グルッ」

「嫌なんだ」

約束通り父伯爵は犬をくれたのだが、

『パパ、犬種は?』

『なんだろうな。モコモコしてて手触りがいいから選んだけど犬種は聞かなかったな』

ダークグレーのベルベットのような手触りの毛の柴犬サイズの子は三ヶ月経ってないのに大型犬並みに育った。
もっと育ちそうで父伯爵はちょっと困り顔だ。

イメージ的にはマラミュート。毛の奥を探るとすごい筋肉がついている。
性格はめちゃめちゃ引きこもり。あまり散歩はしたがらない。
トイレついでに少し外を歩く程度。
日中はテラス側で陽に当たっている。

助かるのはお風呂好きだということ。

おもちゃ遊びもしないし、唯一できるのは添い寝だけ。

「生きた置物と変わらないよ」

ミスラに顔を埋めているとミスラがビクッと動いた。

「どうしたの?」

スッと立ち上がり、音を拾うように耳を動かすと牙を剥き始めた。

「グルルルル…」

「ミスラ?ごめんね。嫌だった?」

ミスラは尻尾で私の顔を撫でると猛スピードで走っていった。

「ミスラ!!」

あの引きこもりがあんなに早く走れるとは驚きだった。

廊下のメイド達の驚く声が聞こえる。

「ミスラは何処?」

「あそこから外に出ました!」

掃除のために換気していた窓から出たらしい。必死に後を追うと…

「ギャアアアアッ」

「助けてくれー!」

騎士も合流して庭の茂みへ行くと二人の男がミスラの餌食になっていた。

「ミスラ!離れて!」

「グルルルルッ」

見知らぬ人みたい……。

「ミスラ、怖いからこっちに来て」

「………」

男を放すと私の所に擦り寄ってきた。

騎士達が男達の持ち物を探ると笛を吹いた。
警戒レベルが上から二番目の合図だった。
命の危険と避難無し。

集まってきた騎士達に指令を出す。

「屋敷内のすべての安全を確認しながら戸締りをしろ。奥様を守れ」

「お嬢様は」

「ミスラがいるから大丈夫だ。王宮に早馬を出せ」

「はっ!」


「ジョー、ビンス。何者なの?」

「どちらも殺し屋です。伯爵様の留守を狙ったのでしょう。普通はこんな昼近い午前中にやって来ませんから」

「生きてるの?」

「そっちは死んでいますが、こっちは拷問までは生きられるでしょう。
ミスラを止めてもらえて良かったです」

私はミスラをギュッと抱きしめた。

「ありがとう。ミスラ。貴方のお陰で屋敷のみんなを守れたわ。貴方は最高の守神ね」

ペロッ

舐めてくれるのは嬉しいけど口の中、血だらけだから私の顔にも血が……

「ミスラ、安全確認が終わったら一緒にお風呂入ろう。その後ミスラの好きなものあげる」

「フンッ」

ミスラは鼻息で返事をする。嫌な時は唸る。
しかしこんな凄い犬だとは思わなかった。
2階の締め切った部屋にいたのに外の塀近くの茂みにいる侵入者に向かって迷わず走って行った。

固有の能力か、ミスラの才なのか。




安全確認が終わり、一階の中浴場にお湯を張ってもらいミスラと血を洗い流していた。

ドンドンドンドン!

「ここを開けろ!」

「お嬢様が今、」

「王子命令だ!開けろ!」

メイドが開けると押し除けてやってきたのはセインだった。

「王子殿下、お嬢様は、」

「セイン殿下!?」

王子は湯船に足を踏み入れ私を抱き上げた。

「ギャア!!」

「どこだ!何処を怪我した!!」

持ち上げて裸体を隅々まで確認をしていく。

バチバチバチバチッ

「バカ!何処も怪我してないってば!」

「はぁ~」

私を抱きしめながら湯の中に崩れ落ちた。

鼓動がすごく早い。

「セイン殿下?」

「………」

結局、父伯爵と母夫人が来るまで強く抱きしめられたままだった。





そして、湯で濡れた服を脱いでガウンを羽織ったセインは正座をしていた。

「バカ!普通に考えればわかるでしょ!
怪我してたら呑気に風呂に入ってないし!
ましてやミスラと入るわけないでしょ!!」

「す、すまみません」

「メイドが止めたでしょう!」

「すみません」

「王子命令って何ですか!!」

「だけど、」

「だけどじゃない!!」

「っ!  ティーティア…」

「全部見た」

「正確には全部ではない」

ゴンッ!

「イタッ」

「そろそろ許してあげましょう」

「公爵様?」

「殿下がどれだけ必死だったか。
単騎で飛び出して、ヴェリテ邸の門番に止められて大騒ぎしていて、馬車で追いついた時には剣まで抜いて門番を脅していた」

チッ、城と家が近すぎるのよ!
ほぼお隣さんじゃないの!

「セイン殿下、後で門番に謝って」

「はい」


「失礼します。団長、………」

団長の部下が耳打ちをしている。

「では城に移るか」

「どうされたのですか」

「口を割らないんだ」

「ミスラを連れて行きますか?トラウマだと思うんですけど」

「そうだな、やってみるか」

「あの、発言よろしいでしょうか」

「ジョー、どうした」

「伯爵様、ミスラはお嬢様の言うことしか聞きません。お嬢様でないと攻撃を止めません」

「つまり会わせて攻撃し始めたら手に負えないわけか」

「はい」

「じゃあ、私が付き添います」

「駄目だ!」

「何でセイン殿下が駄目だって言うんですか?」

「くっ! ティーティアだってトラウマだろう」

「大丈夫です。守護神ミスラがいますから」

「ティーティア、頼む」

「はい、公爵様」











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜

腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。 「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。 エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

これが普通なら、獣人と結婚したくないわ~王女様は復讐を始める~

黒鴉そら
ファンタジー
「私には心から愛するテレサがいる。君のような偽りの愛とは違う、魂で繋がった番なのだ。君との婚約は破棄させていただこう!」 自身の成人を祝う誕生パーティーで婚約破棄を申し出た王子と婚約者と番と、それを見ていた第三者である他国の姫のお話。 全然関係ない第三者がおこなっていく復讐? そこまでざまぁ要素は強くないです。 最後まで書いているので更新をお待ちください。6話で完結の短編です。

処理中です...