【完結】転生令嬢は遠慮いたしません!

ユユ

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ミスラの獲物

王都に来て四ヶ月近くになっていた。

「おはようございます。パパは?」

「呼び出しがあって王宮へ向かったわ」

ふーん。つまんないな。今日は予定が何もない。

「ミスラ、お散歩する?」

「グルッ」

「嫌なんだ」

約束通り父伯爵は犬をくれたのだが、

『パパ、犬種は?』

『なんだろうな。モコモコしてて手触りがいいから選んだけど犬種は聞かなかったな』

ダークグレーのベルベットのような手触りの毛の柴犬サイズの子は三ヶ月経ってないのに大型犬並みに育った。
もっと育ちそうで父伯爵はちょっと困り顔だ。

イメージ的にはマラミュート。毛の奥を探るとすごい筋肉がついている。
性格はめちゃめちゃ引きこもり。あまり散歩はしたがらない。
トイレついでに少し外を歩く程度。
日中はテラス側で陽に当たっている。

助かるのはお風呂好きだということ。

おもちゃ遊びもしないし、唯一できるのは添い寝だけ。

「生きた置物と変わらないよ」

ミスラに顔を埋めているとミスラがビクッと動いた。

「どうしたの?」

スッと立ち上がり、音を拾うように耳を動かすと牙を剥き始めた。

「グルルルル…」

「ミスラ?ごめんね。嫌だった?」

ミスラは尻尾で私の顔を撫でると猛スピードで走っていった。

「ミスラ!!」

あの引きこもりがあんなに早く走れるとは驚きだった。

廊下のメイド達の驚く声が聞こえる。

「ミスラは何処?」

「あそこから外に出ました!」

掃除のために換気していた窓から出たらしい。必死に後を追うと…

「ギャアアアアッ」

「助けてくれー!」

騎士も合流して庭の茂みへ行くと二人の男がミスラの餌食になっていた。

「ミスラ!離れて!」

「グルルルルッ」

見知らぬ人みたい……。

「ミスラ、怖いからこっちに来て」

「………」

男を放すと私の所に擦り寄ってきた。

騎士達が男達の持ち物を探ると笛を吹いた。
警戒レベルが上から二番目の合図だった。
命の危険と避難無し。

集まってきた騎士達に指令を出す。

「屋敷内のすべての安全を確認しながら戸締りをしろ。奥様を守れ」

「お嬢様は」

「ミスラがいるから大丈夫だ。王宮に早馬を出せ」

「はっ!」


「ジョー、ビンス。何者なの?」

「どちらも殺し屋です。伯爵様の留守を狙ったのでしょう。普通はこんな昼近い午前中にやって来ませんから」

「生きてるの?」

「そっちは死んでいますが、こっちは拷問までは生きられるでしょう。
ミスラを止めてもらえて良かったです」

私はミスラをギュッと抱きしめた。

「ありがとう。ミスラ。貴方のお陰で屋敷のみんなを守れたわ。貴方は最高の守神ね」

ペロッ

舐めてくれるのは嬉しいけど口の中、血だらけだから私の顔にも血が……

「ミスラ、安全確認が終わったら一緒にお風呂入ろう。その後ミスラの好きなものあげる」

「フンッ」

ミスラは鼻息で返事をする。嫌な時は唸る。
しかしこんな凄い犬だとは思わなかった。
2階の締め切った部屋にいたのに外の塀近くの茂みにいる侵入者に向かって迷わず走って行った。

固有の能力か、ミスラの才なのか。




安全確認が終わり、一階の中浴場にお湯を張ってもらいミスラと血を洗い流していた。

ドンドンドンドン!

「ここを開けろ!」

「お嬢様が今、」

「王子命令だ!開けろ!」

メイドが開けると押し除けてやってきたのはセインだった。

「王子殿下、お嬢様は、」

「セイン殿下!?」

王子は湯船に足を踏み入れ私を抱き上げた。

「ギャア!!」

「どこだ!何処を怪我した!!」

持ち上げて裸体を隅々まで確認をしていく。

バチバチバチバチッ

「バカ!何処も怪我してないってば!」

「はぁ~」

私を抱きしめながら湯の中に崩れ落ちた。

鼓動がすごく早い。

「セイン殿下?」

「………」

結局、父伯爵と母夫人が来るまで強く抱きしめられたままだった。





そして、湯で濡れた服を脱いでガウンを羽織ったセインは正座をしていた。

「バカ!普通に考えればわかるでしょ!
怪我してたら呑気に風呂に入ってないし!
ましてやミスラと入るわけないでしょ!!」

「す、すまみません」

「メイドが止めたでしょう!」

「すみません」

「王子命令って何ですか!!」

「だけど、」

「だけどじゃない!!」

「っ!  ティーティア…」

「全部見た」

「正確には全部ではない」

ゴンッ!

「イタッ」

「そろそろ許してあげましょう」

「公爵様?」

「殿下がどれだけ必死だったか。
単騎で飛び出して、ヴェリテ邸の門番に止められて大騒ぎしていて、馬車で追いついた時には剣まで抜いて門番を脅していた」

チッ、城と家が近すぎるのよ!
ほぼお隣さんじゃないの!

「セイン殿下、後で門番に謝って」

「はい」


「失礼します。団長、………」

団長の部下が耳打ちをしている。

「では城に移るか」

「どうされたのですか」

「口を割らないんだ」

「ミスラを連れて行きますか?トラウマだと思うんですけど」

「そうだな、やってみるか」

「あの、発言よろしいでしょうか」

「ジョー、どうした」

「伯爵様、ミスラはお嬢様の言うことしか聞きません。お嬢様でないと攻撃を止めません」

「つまり会わせて攻撃し始めたら手に負えないわけか」

「はい」

「じゃあ、私が付き添います」

「駄目だ!」

「何でセイン殿下が駄目だって言うんですか?」

「くっ! ティーティアだってトラウマだろう」

「大丈夫です。守護神ミスラがいますから」

「ティーティア、頼む」

「はい、公爵様」











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