【完結】些細な呪いを夫にかけ続けている妻です

ユユ

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婚姻するしかなかった

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いかにも高価な衣装に身を包んだ男は エントランスで家令に告げる。

「今夜はシフォーン伯爵家のご令嬢のパーティだから、戻りは明日になる」

「かしこまりました」

「いってらっしゃいませ」

「チッ」

妻である私に舌打ちをして出かけてしまった。

「奥様、」

「いつものことよ。ありがとう、アルバート」

普通なら、夫から冷たくされる妻など粗末に扱われてもいいはずなのに、この屋敷の使用人達は私に優しい。

私専用の執務室へ戻り、伯爵家の仕事を再開する。



私はセシル。もうすぐ21歳。

ハーゼル子爵家の長女で、ハミエル・セヴリッジ伯爵の妻となり2年が経とうとしていた。

ハミエルは同い歳。
彼の父が病に伏して1年半。若き伯爵となったハミエルは一向に仕事をする様子は無く、ただ“やっておけ”と命じるだけ。
このままではまずいと私が仕事をしはじめ、領地で療養している義父母の元へ通い 教わった。

義父の補佐達が優秀なので、ベッドの上から義父が指示を出すだけで領地は成り立っている。
タウンハウスにも補佐はいて、ある程度は彼らで充分だけど、やはり判断が必要なことは当主がやらねばならない。契約の更新があったり、新たな契約が必要だったり、トラブルを解決したりしなくてはならないし、他に女主人としても屋敷内の細々とした雑務に追われる。

ハミエルは“女なんかに”、“お前などに”と馬鹿にして、仕事をしているフリをしていると思っていたようだけど、約1年前にお義父様が正式に、タウンハウスの全ての実権を私に渡した。これが更にハミエルの不興を買った。

正直、じゃあどうしろと?と言い返したいが、余計騒ぐだろうと受け流すことにした。


何故ハミエルが私をこんなに嫌うのか。
それは、12歳の最後の魔力判定の儀式で“発現無し”と告げられたから。
自分の婚約者が魔力無し 属性無しのレアなハズレだと知った時から態度が一変した。

シャルム王国を含むこの大陸には魔法が存在する。
幼少期あたりに覚醒することがほとんどで、一属性で少しの魔力を持つ人が大半。
稀に魔力量の大きな人や複数属性持ちの人が現れる。私は真逆の稀な“無し”だった。

10歳の時も受けて“無し”と告げられたが、覚醒が遅れる子もいると、セヴリッジ伯爵家に伝えなかった。
だが12歳を過ぎたら覚醒することは無いと言われているので、最後の判定結果を告げないわけにはいかなかった。

契約違反ではないから婚約破棄はできない。
父ハーゼル子爵とセヴリッジ伯爵の魔法契約のため、慰謝料を支払えば解消できるというものではない。

ハミエルは交流を拒否し 心ない言葉を投げ付けた。
学園が始まっても徹底的に無視。だから私も近寄らなかった。

この頃からだろう、彼の浮気が始まったのは。
次から次へと令嬢と交際した。1人の時もあれば複数の時もある。学園内でも学園の外でもお構いなしだった。

この時に婚約破棄をしたかったけど、お父様が許してくれなかった。

今思えば、私から破棄して欲しくて彼は大っぴらに浮気していたと思う。
結局、成人式だけは嫌々パートナーをやってくれたけど、卒業パーティを含むその他のパーティには他の女性をパートナーにして参加していた。
夜会に出るようになったら、更に羽目を外していた。ハミエルの恋人に“別れて”と言われたことも何度かあった。彼は次期伯爵だし、無駄に顔が良かったから。
私は“契約を破れないのでハミエルに言って”と返すだけ。

いつもひとりぼっちの惨めな子爵令嬢の出来上がりだった。

そしてそのまま 誰もが知る見向きもされない妻が出来上がった。

誓いのキスは寸止め。
初夜も無く、いまだに白い結婚のまま。
もはや抱かれたくもないけど、時々義母から手紙が送られてきて、“孫はまだかしら?”“孫の顔を見るのを楽しみにしています”などとかいてあるから たまったものではない。
ハミエルを責めることも、義母に“貴女の息子のせいですよ”とも言えず、言葉を飲み込んできた。

ただ義父は勘付いているようだ。ハミエルのせいだと。
義父が元気だったらハミエルを殴り飛ばしていただろう。だが、ベッドの住人になってしまったし、息子はハミエルただ一人。選択肢が無い。今の状態でチェスの駒のようにハミエルを退かして養子を伯爵にするわけにもいかない。
今更ながら、私と離縁の交渉をしようにも、伯爵家の仕事を半分引き受けさせてしまったし、自由恋愛承諾契約もしているから沈黙している。

シャルム王国は婚約者や婚姻相手が了承していれば自由恋愛を楽しむことができる国だ。魔法があるから避妊も楽だし、魔法で親子鑑定が出来てしまうので謀も無理だから安心して交われる。
承諾したか否かは魔法で契約を刻む。

私とハミエルの左薬指には指輪のように既婚者の証が刻まれている。そして右小指にも婚姻後に指輪のように自由恋愛承諾者の証が刻まれている。


コンコンコンコン

〈アルバートです〉

「どうぞ」

「失礼します。
先程、若旦那様が戻られて、医者を呼ぶよう指示がありました」

「医者?」

「実は、」

その理由を聞いて ニヤつきがおさまらなかった。

「お大事にと伝えておいてくださる?」

「かしこまりました」

パタン


引き出しから魔法書を取り出して、次の実験を何にするか選ぶことにした。







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