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一仕事完了
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「大抵は朝までぐっすり眠りますので、奥様もゆっくりお休みください」
仕事が終わり玄関先で帰りの挨拶をした。
「ありがとうございました、助かりました」
ギィ バタン ガチャッ
玄関のドアが閉まり、依頼者の家を背にして駅へ向かおうとした。
夜の11時過ぎ。少し離れたところからヘッドライトが2回光った。
近寄ると社有車の黒塗りのミニバンだった。中には見慣れた顔の男が運転席にいて、乗れと合図を送る。
「大輝くん?私、今日は電車移動ですよ?」
「知ってる。メシでも食うか?」
「この時間からですか?」
「腹減ってるんだろう?」
「大輝くんは?」
「まあ、減ってると言えば減ってるな」
「何ですかそれ」
「何が食いたいんだ」
「お蕎麦ですかね」
「行きたい店があるのか?」
「小谷村に」
「村!?どこにあるんだよ」
「最近気になっているお店は長野の小谷村にあるんですけど、この時間から向かっても閉まってますね。向かわなくても閉まってますけど」
「開いている店を言えよ」
「大輝くんのお勧めにします。こってり無しで」
「飲み屋でいいか?」
「車でですか?」
「俺は飲まないよ。マスターが知り合いで料理が上手いんだ」
「料理上手のマスター…素敵」
「やっぱ違う店にする」
「え~」
伏原大輝くんは私の8つ歳上の32歳。『アクター』での役割は送迎と保安。
私達“アクター”はときに危険なこともある。そのときは彼がついて来て備える。
例えば女性のアクターを指名する男性依頼者。私達は防犯ベルと撃退スプレーを常備しているけど、上手く使えないこともある。
依頼の申込後に細かな仕事内容を確認する際にクロなら断りグレーなら彼ら保安がついてくる。ボディカメラは仕込んであるし音声も飛ばせる。
「あ~もしもし、聡さん。はい、楓は拾いましたが腹を減らしてるんで食わせてから帰ります。
はい?違います、代々木に向かってます。え?苺大福?時季じゃないでしょう。それに和菓子屋なんて閉まってますよ。
あーなんか電波悪いっすね。切りますね」
副社長をぞんざいに扱うなんて。
「電波悪くないですよね」
「通過した場所は悪かったんだよ」
「……」
「楓」
「はい」
「長野に蕎麦食いに行きたいのか?」
「え?…まぁ」
「どっちなんだよ」
「開いてませんよ?」
「今度休みに連れて行ってやる」
「え?」
うちの会社『アクター』では下の名前で呼び合う決まりになっていて、歳下の私がさん付けではなく“くん”で呼ぶのは希望があったから。
歳下で彼をくん付けで呼ぶのは私だけ。
「嫌なのか?」
「そうじゃなくて長野ですよ?私達の拠点は東京ですよ?」
「行くか行かないか」
「…行きます」
「何処かで休みの日を合わせるから」
「はい、ありがとうございます」
大輝くんの体にはしっかり筋肉が付いていて、浮き出る血管に異性を感じる。短髪で薄茶色の瞳。別にハーフでもクウォーターでも何でもないらしい。子供の頃はその瞳の色のせいで虐められたこともあるらしい。“ぶん殴ったら大人しくなったけどな”と笑う。だけどきっと義務教育を終えた頃にはもうモテたんだろうな。
「楓」
「はい」
「穴が開くからそんなに見るな」
「私にはそんな得意技はないですよ。目からレーザー出せたらマ○ベルで雇ってもらえると思います。それに運転している人に穴開けたら私も死にます」
「言っておくが、あれは実在しているわけじゃないぞ?CGとかだからな?」
「分かってます…その目は何ですか」
馬鹿をする小さな子を見て笑ってるような顔をしちゃって。いつも笑わないくせに。
「知らない人について行くな。知っていても男にはついて行くなよ」
「大輝くんのことですか?」
「俺はもう手遅れだろう」
「……」
仕事が終わり玄関先で帰りの挨拶をした。
「ありがとうございました、助かりました」
ギィ バタン ガチャッ
玄関のドアが閉まり、依頼者の家を背にして駅へ向かおうとした。
夜の11時過ぎ。少し離れたところからヘッドライトが2回光った。
近寄ると社有車の黒塗りのミニバンだった。中には見慣れた顔の男が運転席にいて、乗れと合図を送る。
「大輝くん?私、今日は電車移動ですよ?」
「知ってる。メシでも食うか?」
「この時間からですか?」
「腹減ってるんだろう?」
「大輝くんは?」
「まあ、減ってると言えば減ってるな」
「何ですかそれ」
「何が食いたいんだ」
「お蕎麦ですかね」
「行きたい店があるのか?」
「小谷村に」
「村!?どこにあるんだよ」
「最近気になっているお店は長野の小谷村にあるんですけど、この時間から向かっても閉まってますね。向かわなくても閉まってますけど」
「開いている店を言えよ」
「大輝くんのお勧めにします。こってり無しで」
「飲み屋でいいか?」
「車でですか?」
「俺は飲まないよ。マスターが知り合いで料理が上手いんだ」
「料理上手のマスター…素敵」
「やっぱ違う店にする」
「え~」
伏原大輝くんは私の8つ歳上の32歳。『アクター』での役割は送迎と保安。
私達“アクター”はときに危険なこともある。そのときは彼がついて来て備える。
例えば女性のアクターを指名する男性依頼者。私達は防犯ベルと撃退スプレーを常備しているけど、上手く使えないこともある。
依頼の申込後に細かな仕事内容を確認する際にクロなら断りグレーなら彼ら保安がついてくる。ボディカメラは仕込んであるし音声も飛ばせる。
「あ~もしもし、聡さん。はい、楓は拾いましたが腹を減らしてるんで食わせてから帰ります。
はい?違います、代々木に向かってます。え?苺大福?時季じゃないでしょう。それに和菓子屋なんて閉まってますよ。
あーなんか電波悪いっすね。切りますね」
副社長をぞんざいに扱うなんて。
「電波悪くないですよね」
「通過した場所は悪かったんだよ」
「……」
「楓」
「はい」
「長野に蕎麦食いに行きたいのか?」
「え?…まぁ」
「どっちなんだよ」
「開いてませんよ?」
「今度休みに連れて行ってやる」
「え?」
うちの会社『アクター』では下の名前で呼び合う決まりになっていて、歳下の私がさん付けではなく“くん”で呼ぶのは希望があったから。
歳下で彼をくん付けで呼ぶのは私だけ。
「嫌なのか?」
「そうじゃなくて長野ですよ?私達の拠点は東京ですよ?」
「行くか行かないか」
「…行きます」
「何処かで休みの日を合わせるから」
「はい、ありがとうございます」
大輝くんの体にはしっかり筋肉が付いていて、浮き出る血管に異性を感じる。短髪で薄茶色の瞳。別にハーフでもクウォーターでも何でもないらしい。子供の頃はその瞳の色のせいで虐められたこともあるらしい。“ぶん殴ったら大人しくなったけどな”と笑う。だけどきっと義務教育を終えた頃にはもうモテたんだろうな。
「楓」
「はい」
「穴が開くからそんなに見るな」
「私にはそんな得意技はないですよ。目からレーザー出せたらマ○ベルで雇ってもらえると思います。それに運転している人に穴開けたら私も死にます」
「言っておくが、あれは実在しているわけじゃないぞ?CGとかだからな?」
「分かってます…その目は何ですか」
馬鹿をする小さな子を見て笑ってるような顔をしちゃって。いつも笑わないくせに。
「知らない人について行くな。知っていても男にはついて行くなよ」
「大輝くんのことですか?」
「俺はもう手遅れだろう」
「……」
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