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カリナ・ゾイエット(婚約者を奪われない為に)
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【 カリナの視点 】
「羨ましいですわ。バトラーズ公爵のご子息と婚約なさったのでしょう」
「ご長男のレヴィン様は優秀で若くして近衛騎士団の副隊長になられたとか」
「ダークグレーの髪に紫の瞳の美丈夫ですわよね」
「変な噂も聞きませんし」
「娘も喜んでおりますわ。ね、カリナ」
「とても素敵な方でした」
「カリナ様はお綺麗だから、お似合いですわね」
「きっと産まれてくる子も美男美女ですわね」
先日、婚約した相手は名門バトラーズ公爵の跡取りだった。
領地は豊かで港も持っている。
代々バトラーズ家の男性は何かしらの要職についている。先代は宰相、現当主は夫人が亡くなるまで財務大臣だった。
そしてレヴィン様は近衛騎士団の有望株。
ずっと憧れていた。
候補になったと聞いた時は神に感謝をした。
私が選ばれたのには理由がある。
他の2人の候補に細工をしたからだ。
ひとりは未亡人のヒモをやっている美青年に誘惑してもらい噂をたてた。
もうひとりは令嬢がひっかからなかったので重篤な性病持ちの女を雇い、着飾らせて夜会に忍び込ませた。肌の変色を隠すのが大変だった。
令嬢の父親にだけ仮面舞踏会への招待状を送った。娼館に通っている情報を掴んでいたから誘いにのると思った。
結果、夫妻も感染った。まだ夫婦の営みがあったようだ。
私には遠縁に変わった仕事をする従兄がいる。殺しまではやらないらしい。美青年のヒモも性病持ちの女も彼が用意してくれた。
元は貴族だけど次男だったため、今は平民。
だけど多額のお金を生前贈与してもらったらしい。
彼が幼い時から助けていた。揶揄われていると連れ出して避難させた。
彼には吃音があった。学園に入っても治らなかった。
吃音は遺伝すると考える人が少なくない。バカだと思う。父方にも母方にも居ないので浮気を疑われるところだが父親に瓜二つだった。
持参金付きで婿入り先を探したが見つからず、平民になった。
それでも時々会って話をする。
彼は私にだけは躊躇わずに話をする。
リックは恩返しのように私に協力をしてくれるのだ。
月に一度レヴィン様とお茶をしている。
私の恋心と違って彼は私に興味がない。
微笑みの仮面で私の前に座る。
だけど先日、彼は仮面を付けていなかった。
ついに心を許してくれたのかと嬉しくなってはしゃいで話してしまった。
“次期バトラーズ公爵夫人が下品なゴシップ記者では困る。品位を持ち、教養を身に付け、まともな社交をしてくれ”
汚物でも見るような目だった。
帰りの馬車で泣いて屋敷に戻ると母がどうしたのか聞いてきた。
「夜会で見た辺境伯の令嬢が婚約者の浮気相手にワインをかけられたという話をしたの。
そうしたら“下品なゴシップ記者”って言われたの」
「近衛騎士をなさっているくらいだから高潔なのね。そのような話は止めなさい」
「ドレスの話や友人が婚約者と南の別荘地に行った話をしたの。それにも不満みたいで。
私は恋人のようになれたらいいなって。友人が羨ましくて。ドレスや宝石を贈られたり、旅行に連れて行ってもらえたり…ううっ」
「貴女とレヴィン様は恋人ではないの。
そんなことを望んでも命懸けで騎士をしているレヴィン様には煩わしいだけだなの。
レヴィン様に愛を求めるのは止めなさい。
レヴィン様と結婚したければ欲を殺しなさい。恋愛結婚をしたければレヴィン様は諦めなさい」
「お母様!」
「どうにもならないのよ。もうすぐバトラーズ家の夜会だから挽回なさい」
夜会当日、出迎えたレヴィン様に母が謝罪をしたが意味がなさそうだった。
話しかけようとしたけど視界にも入れてもらえないし、王女殿下が来ていて近付けない。
ファーストダンスの時間になってレヴィン様の側に寄ったが跪いたのは王女殿下の前だった。
「カリナ。王女殿下がいる場合はこれが当たり前なのよ。ガッカリすることはないわ。
2曲目に誘われるわよ」
私はレヴィン様の前に立ったが誘って来ないので私から誘った。
また微笑みの仮面を付けている。
だけど目が怖かったし、ダンスにしては距離を取られていた。
ダンス中、何を話しかけても上の空だった。
強く呼びかけて、気持ちを込めて言った。
「冷たくなさらないでください。私達は夫婦になるのですから」
そう言ったら彼の顔が一瞬歪んだ。
その後、どう話したのかよく覚えていない。
さっと手を離されるとレヴィン様はある令嬢の手を取ってフロアまで連れて行きダンスを始めた。
とても美しい令嬢だった。
私とは比べ物にならないくらいの近さで踊っている。
「王女殿下のお気に入りね」
「えっ」
「王女殿下の同級生で城に泊まりに来させると噂の令嬢よ。なかなか社交には顔を出さないの。確か近衛騎士団に配属されたと聞いたわ」
私は殺したいと思った。
だって、私が見たこともない笑顔で令嬢と話しながら踊っているのだから。
私に急に冷たくなった理由はコレだと分かった。
翌日。
「カカカリナ、どどうした」
「この女が許せないの。殺したいほど憎い」
メモには
“アネット・ゲラン伯爵令嬢”
“近衛騎士団配属の使用人”
「わわ、わかった」
その後は手紙でやり取りをした。
“隙が無い。外出がない。ゲラン家に忍び込めない”
“王宮なら人が多いから知らない顔がいても誤魔化せるんじゃないか”
“王宮メイドの弱みを握った。薬を盛る”
だけど
“いつも騎士が近くにいて難しい”
その文字を見てレヴィン様があの女に寄り添う姿を想像してしまった
“水でもかければ着替えて乾かすためにひとりになるのでは?
最悪は顔に傷を付けるか穢すだけでもいい”
そう返事を出した。
そして
“水をかけたが作業を止めず、警備の騎士が近かった。やっと着替えに向かったが、すぐ騎士が女を保護した”
翌日また手紙が届いた。
“女が熱を出して倒れた。王宮に泊まっている”
「羨ましいですわ。バトラーズ公爵のご子息と婚約なさったのでしょう」
「ご長男のレヴィン様は優秀で若くして近衛騎士団の副隊長になられたとか」
「ダークグレーの髪に紫の瞳の美丈夫ですわよね」
「変な噂も聞きませんし」
「娘も喜んでおりますわ。ね、カリナ」
「とても素敵な方でした」
「カリナ様はお綺麗だから、お似合いですわね」
「きっと産まれてくる子も美男美女ですわね」
先日、婚約した相手は名門バトラーズ公爵の跡取りだった。
領地は豊かで港も持っている。
代々バトラーズ家の男性は何かしらの要職についている。先代は宰相、現当主は夫人が亡くなるまで財務大臣だった。
そしてレヴィン様は近衛騎士団の有望株。
ずっと憧れていた。
候補になったと聞いた時は神に感謝をした。
私が選ばれたのには理由がある。
他の2人の候補に細工をしたからだ。
ひとりは未亡人のヒモをやっている美青年に誘惑してもらい噂をたてた。
もうひとりは令嬢がひっかからなかったので重篤な性病持ちの女を雇い、着飾らせて夜会に忍び込ませた。肌の変色を隠すのが大変だった。
令嬢の父親にだけ仮面舞踏会への招待状を送った。娼館に通っている情報を掴んでいたから誘いにのると思った。
結果、夫妻も感染った。まだ夫婦の営みがあったようだ。
私には遠縁に変わった仕事をする従兄がいる。殺しまではやらないらしい。美青年のヒモも性病持ちの女も彼が用意してくれた。
元は貴族だけど次男だったため、今は平民。
だけど多額のお金を生前贈与してもらったらしい。
彼が幼い時から助けていた。揶揄われていると連れ出して避難させた。
彼には吃音があった。学園に入っても治らなかった。
吃音は遺伝すると考える人が少なくない。バカだと思う。父方にも母方にも居ないので浮気を疑われるところだが父親に瓜二つだった。
持参金付きで婿入り先を探したが見つからず、平民になった。
それでも時々会って話をする。
彼は私にだけは躊躇わずに話をする。
リックは恩返しのように私に協力をしてくれるのだ。
月に一度レヴィン様とお茶をしている。
私の恋心と違って彼は私に興味がない。
微笑みの仮面で私の前に座る。
だけど先日、彼は仮面を付けていなかった。
ついに心を許してくれたのかと嬉しくなってはしゃいで話してしまった。
“次期バトラーズ公爵夫人が下品なゴシップ記者では困る。品位を持ち、教養を身に付け、まともな社交をしてくれ”
汚物でも見るような目だった。
帰りの馬車で泣いて屋敷に戻ると母がどうしたのか聞いてきた。
「夜会で見た辺境伯の令嬢が婚約者の浮気相手にワインをかけられたという話をしたの。
そうしたら“下品なゴシップ記者”って言われたの」
「近衛騎士をなさっているくらいだから高潔なのね。そのような話は止めなさい」
「ドレスの話や友人が婚約者と南の別荘地に行った話をしたの。それにも不満みたいで。
私は恋人のようになれたらいいなって。友人が羨ましくて。ドレスや宝石を贈られたり、旅行に連れて行ってもらえたり…ううっ」
「貴女とレヴィン様は恋人ではないの。
そんなことを望んでも命懸けで騎士をしているレヴィン様には煩わしいだけだなの。
レヴィン様に愛を求めるのは止めなさい。
レヴィン様と結婚したければ欲を殺しなさい。恋愛結婚をしたければレヴィン様は諦めなさい」
「お母様!」
「どうにもならないのよ。もうすぐバトラーズ家の夜会だから挽回なさい」
夜会当日、出迎えたレヴィン様に母が謝罪をしたが意味がなさそうだった。
話しかけようとしたけど視界にも入れてもらえないし、王女殿下が来ていて近付けない。
ファーストダンスの時間になってレヴィン様の側に寄ったが跪いたのは王女殿下の前だった。
「カリナ。王女殿下がいる場合はこれが当たり前なのよ。ガッカリすることはないわ。
2曲目に誘われるわよ」
私はレヴィン様の前に立ったが誘って来ないので私から誘った。
また微笑みの仮面を付けている。
だけど目が怖かったし、ダンスにしては距離を取られていた。
ダンス中、何を話しかけても上の空だった。
強く呼びかけて、気持ちを込めて言った。
「冷たくなさらないでください。私達は夫婦になるのですから」
そう言ったら彼の顔が一瞬歪んだ。
その後、どう話したのかよく覚えていない。
さっと手を離されるとレヴィン様はある令嬢の手を取ってフロアまで連れて行きダンスを始めた。
とても美しい令嬢だった。
私とは比べ物にならないくらいの近さで踊っている。
「王女殿下のお気に入りね」
「えっ」
「王女殿下の同級生で城に泊まりに来させると噂の令嬢よ。なかなか社交には顔を出さないの。確か近衛騎士団に配属されたと聞いたわ」
私は殺したいと思った。
だって、私が見たこともない笑顔で令嬢と話しながら踊っているのだから。
私に急に冷たくなった理由はコレだと分かった。
翌日。
「カカカリナ、どどうした」
「この女が許せないの。殺したいほど憎い」
メモには
“アネット・ゲラン伯爵令嬢”
“近衛騎士団配属の使用人”
「わわ、わかった」
その後は手紙でやり取りをした。
“隙が無い。外出がない。ゲラン家に忍び込めない”
“王宮なら人が多いから知らない顔がいても誤魔化せるんじゃないか”
“王宮メイドの弱みを握った。薬を盛る”
だけど
“いつも騎士が近くにいて難しい”
その文字を見てレヴィン様があの女に寄り添う姿を想像してしまった
“水でもかければ着替えて乾かすためにひとりになるのでは?
最悪は顔に傷を付けるか穢すだけでもいい”
そう返事を出した。
そして
“水をかけたが作業を止めず、警備の騎士が近かった。やっと着替えに向かったが、すぐ騎士が女を保護した”
翌日また手紙が届いた。
“女が熱を出して倒れた。王宮に泊まっている”
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