【完結】笑顔で冷遇する婚約者に疲れてしまいました

ユユ

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続編:ヒューゴの結婚

影のゆらめき(アマンダ)

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急遽呼び出しを受けたヒューゴ様が何処かへ向かった。一部の者にしか知らされていないがあるらしいが、私は教えてもらえていない。

「いまだに受け入れ難いのです。誰もがヒューゴ様の妻となる女性は優れた剣の使い手なり弓の使い手なり、もしくはナイフを自由自在に扱う手練だろうと言っていたのに、芯が強いとかそんな程度の令嬢が相手だなんて」

使われていない部屋にお兄様を呼び出して、協力を得ようとした。

「全員がどう思おうと関係ない。ヒューゴ様本人がお認めになればそれが全てだ。我々はそれに従い敬意を払うべきだ」

「お兄様!」

「ヒューゴ様のお気持ちは本物だ。もう諦めなさい。クリスティーナ様を傷付ければ命という代償を支払うことになる。既に2度黒鷹を動かしているんだ」

「黒鷹を!?」

黒鷹はジオ軍の中の暗殺部門だ。少数精鋭で謎が多い。
ヒューゴ様はあの女のために黒鷹を動かしたというの!?そんなに大事!?

「クリスティーナ様がいなかったとしてもおまえは選ばれない。ヒューゴ様が令嬢と出会う前にフラれていることを忘れたのか?」

「私はお兄様の妹ですよ、味方をしてくださってもいいではありませんか!」

「私はメルノス伯爵家という家門を守り、妻と子を守り、ジオ公爵家に忠誠を誓う者であって、妹とはいえいつまでも妄想や夢から目覚めない愚か者に手を貸すつもりはない」

「お兄様っ!」

「おまえが何か愚かな真似をしたときは、真っ先に私がおまえを始末するぞ、アマンダ。それがメルノス家を守る唯一の方法になるからだ」

ヒューゴ様が不在のわずかな間に人を雇うことは叶わない。だからお兄様に協力してもらおうと思ったのに、逆に問題を起こせば私を殺すと言われてしまった。

攫うのは無理、他の男達に汚させるのも無理。なら殺す?
私はどうしてもあの女が悲観する顔が見たいし無様に捨てられる姿が見たい。だとしたら顔に傷を負わす?階段から突き落として不自由な体にする?婚姻後ならまだしも、婚前なら解消するはず。

でもやっぱり体が不自由なくらいじゃ愛人として残すかもしれない。夜の相手だけはできるもの。


馬を走らせ森へ行き、光毒性物質を持つ植物の樹液を採取した。後はエキスを彼女が使う物に垂らせばいいだけ。
顔に付ける物がいいわ。あの女の店の化粧水とか。
重度の火傷を負い、場合によっては失明してしまう。
見つけたら報告しなくてはならない有毒植物を偶然見つけたけど、もしものためにずっと黙っていた。植物や毒に詳しい人なら気付くかもしれない僅かな匂いにあの女はきっと気が付かないはず。

あの女が食事をしている隙に部屋に入り混ぜた。

ロビンス卿と一緒に夜勤を始め、就寝時間には廊下に立った。何の反応もないが間違いなく使ったはず。朝にならないと駄目なの?


期待と不安が入り混じり、もうすぐ夜明けという頃に数人の足音が近付いてきた。ヒューゴ様だ。ロック卿達も一緒だった。

ドアの正面ではなく私の前に立ちヒューゴ様に見つめられた。わずかな廊下灯に反応してオレンジ色の瞳が光る。

「キャス、メア」

彼が名を呼ぶと突然私の横に2人現れた。服の色と雰囲気から黒鷹だと察した。

「やっ!何!?」

1人が私の両腕を後ろに捻り拘束具をつけた。

「クリスティーナが起きるだろう、静かにしろ。に連れて行け」

多分彼の言う離れは、疑わしい者も有罪が確定している者も閉じ込めておく独房があり拷問を行う部屋もある場所のことだ。

「ヒューゴ様っ、んんっ!!」

口に布を詰め込まれて持ち上げられ連れて行かれた。


到着したに血の気が引く。しかもこの部屋は拷問部屋だろう。石造りの壁には鎖枷が5つ取り付けられている。配置からすると手足と首だろう。

「繋げ」

5つの鎖枷を嵌められ、鎖を引かれ長さを調整されると壁に磔にされた。そして口の布が外された。

「ゲホッ、ゲホッ!」

「アマンダ、理由を知りたい。メルノス伯爵夫妻に娘の愚行の理由を告げなくてはならないからな」

「な、何のことか」

「クリスティーナには黒鷹を付けて警護させていた。だからおまえが何かを彼女の化粧品に混ぜている姿も見届けている。おまえが彼女の部屋を出た後、回収したのがコレだ」

黒鷹の1人が瓶を見せた。
私を泳がせていたの!?怪しんでいたの!?

「俺が戻って来てからは彼から報告を受けた」

ヒューゴ様が手をあげると、お兄様が入室した。

「お、お兄様!?」

「彼から、妹がクリスティーナに何かしそうだと報告を受けた。おまえを捕らえる10分前のことだ」

「私は妹なのですよ!」

「忠告したはずだ。私はメルノス伯爵家を守ると」

「未遂ということと、申告に免じて連座はしない」

「感謝します」

「だが、コレを妹の顔に塗れ。それで終わりだ」

お兄様が手袋を受け取ると手にはめ、瓶を受け取り筆を浸した。

「嫌……お願い、お兄様」

「クリスティーナ様にしたことを自分で証明しろ。何も起きなければクビになるだけで済むだろう」

「嫌!!」

「暴れると口の中に入るぞ」

顔中に塗られてしまった。だんだんヒリついてくる。
この部屋は不快な匂いと外の匂いがする。
何十人、何百人と此処で拷問を受け、涙を流し粗相をし、涎を垂らし血を流したのだろう。時には死ぬまで放置されて酷い状態になったのだろう。落としきれない死臭もする。
鉄格子の付けられた大きな窓から朝日が差し込む。
ああ、何の毒かもバレてるのね。

「ギャアアアア!!」

燃えるように痛い!!顔が、鼻の中が、口の中が、目が!!

「コレを俺のクリスティーナに?」

「申し訳ございません」

「日が落ちたら妹を楽にしてやってもいいぞ。それまで此処で立ち会え」

「感謝します」

「キャスとメアは一緒に残れ、ロック行くぞ」

バタン



何時間経っただろうか。
叫び疲れて声が枯れた。喉も張り付くようにカラカラだった。もう視界はほぼ真っ白だ。

「お兄……さ」

「はぁ、まだ日が落ちるまで10時間以上はあるな」

え? まだ1時間程度しか経ってないの!?

「た……助けて」

「報告してなければメルノス伯爵家は全員殺されていた。忠告した後におまえはクリスティーナ様の持ち物に毒を仕込んだということは、家族を殺そうとしたことと同じなんだ。そうだろう?」

そんなつもりは

「ごめ…なさ……」

「おまえは5歳の甥と1歳の姪を処刑台に上がらせようとしたんだ。おまえの弟の嫁の腹にいる胎児を産まれる前に殺そうとしたんだ。父上も母上もおまえには甘かった。なんだかんだ言っても結局おまえの我儘を聞いてくれていたじゃないか。優しい2人も、祖父母もみんな処刑台に上がらせようとしたんだ。その報いを受け止めろ」

ごめんなさい……


少し経つと数人が入って来た。

「予定が変わった。卿は家に戻り伯爵夫妻に報告してくれ」

「はっ!失礼します」

ドアが閉まる音がするとヒューゴ様の声が近くなった。そして何かを塗られ目にや口の中にも流し込まれた。

「皮膚は治るだろうが目はどうなるかな」

治る!?毒で焼かれた顔が?


翌日にはぼんやりとはしているけど確実に視界が良くなっているし、顔も痛みが引いた。

ヒューゴ様達と医者?らしい姿の男が近寄ってきた。

「見えてますね」

「効き目がすごいな」

「投与が早かったからでしょう。完全に失明してからでは無理だと思います。深さのある刺し傷も眼球は難しいでしょう」

「そうか。枷を外せ」

助けてもらえるの?きっとお父様達が懇願してくれたのね。

「研究所へ移送してサブマ草しんやくの実験に使ってくれ。伯爵家には俺から伝える」

実験?

「ヒューゴ様、許してください。親戚ではありませんか」

声が出る!本当に治してくれたのね。

「俺の名を呼ぶな、虫唾が走る。アマンダ・メルノスは昨夕処刑された。代わりに被験体番号が与えられている」

「ヒューゴ様っ!」

「連れて行け」

「ヒューゴ様っ!!」



頭から頭巾を被せられ馬車で輸送された。
到着した先は自然豊かな場所に屋敷や施設が建てられていて、小さな町のようになっていた。

「ここは」

「ジオ領にある新薬開発施設だ。限られた者しか知らない。この新薬はセルヴィー伯爵家との共同研究だが、セルヴィー家無しには成し得なかった。死にかけの王族も救ったゆえに神薬とか聖薬と呼ばれている。その被験体に選ばれたことを光悦に思うんだな」

その言葉にわずかな希望が生まれた。だけど地獄の始まりだった。
刺されたり指を折られたりしては薬の効果を確認し、治ると舌を切り落とされ薬で止血され、熱湯で喉を焼かれ、火で喉を炙られ、歯を折られ、抜かれ、左耳を途中まで削がれ、右耳は切り落とされ、頭皮の半分は剥がされ、半分は焼かれ、爪を剥がされ、左の眼球を抜き取られ、乳房を切り落とされては薬を塗られた。

痛みを軽減させてなんてもらえない。拷問を続けながら治したり止血して生きている限り続けるつもりなのがわかる。殺して欲しいと懇願しようにももう言葉は発することができない。
あの日、日暮れとともにお兄様に殺されていれば良かった。

神薬?聖薬?

これは悪魔の薬よ。この世に存在してはいけない忌わしい薬。






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