【完結】笑顔で冷遇する婚約者に疲れてしまいました

ユユ

文字の大きさ
206 / 215
続編:ヒューゴの結婚

新入り

しおりを挟む
「ずるい!」

瞳をキラキラと輝かせ、腰に手を当て頬を膨らませてそう言うのは俺が愛してやまない婚約者クリスティーナ。
彼女の目線はかなり下にある。

「ニャッ」

「くうっ!!」

ずっと国中を探させ、隣国を当たらせ、やっと3つ先の国で見つけた猫だ。まだ成猫になりきれていないが既に普通の猫を超えている。

以前セルヴィー領で飼っていた雄猫ティアラは立ち上がると伸びる体をさらに伸ばして彼女の顔を舐めることができるほど大きかった。大人しくて俺にも懐いた。
ティアラは天に召された。打ちひしがれる彼女に寄り添ったのは当時の婚約者シャルル・ヘインズだった。2人がデートをしていたことにかなり焦ったが、仕事を放り出して彼女の元へ駆け付けることをセルヴィー伯爵が許さなかった。
2人の婚約破棄後、デートの詳細を後から知らされたときは信じてもいない神に感謝した。
ヘインズは彼女の心に寄り添い挽回したはずだったが、大きなミスをして彼女の方から婚約破棄を言い渡す結果になった。それがなければ俺はどうなっていたか。彼女に気持ちを寄せたヘインズに勝てたかわからないし、自分に向いた男と結婚したら彼女はもう俺とは会ってもくれなかっただろう。

「ほら、名前を付けないと可哀想だろう」

「ヒューのバカ」

椅子に座りコーヒーを飲む俺を睨み付けるが全く怖くない。彼女はニ歩後退しては一歩近付く。それでは部屋から出てしまうじゃないか。

「いつまでそうしているつもりだ?ティナ以外に渾身の愛情をかける者はいないぞ」

猫には輝く瞳、俺には抗議の瞳。それを交互に繰り返しながらやっと猫の元に到着した彼女の表情は溶けていた。

「ティアラの弟♡」

雄だから弟分だな。

「妹分も探すか?ツガイにして子猫を産ませるか?」

「なっ!」

期待に満ちた顔で俺を見た。

「ニャッ」

猫は体を伸ばして彼女の腰にしがみつく。

「抱っこしろって言ってるぞ」

「お、重っ……ウフフっ」

彼女がジオ領に来たがって離れたがらないようにするためにティアラの二代目はどうかと思いつき探し始めた。

ティアラと同じ猫は簡単には見つからず、見つけましたと連れてこられた猫を何度も返した。普通の猫より若干大きい猫やデブ猫がほとんどだ。しまいにはもう猫とは呼べない猛獣を連れて来た馬鹿もいた。

隣国にもいないとわかった時点でセルヴィー伯爵夫人に手紙を送った。伯爵がどこからティアラを連れて来たのか内緒で教えて欲しいと綴った。伯爵に送ると魂胆がバレるから恥ずかしかったので夫人に送ったのに結局セルヴィー伯爵から返事が来てしまった。

教えてもらった国でもティアラ並みの大きさは数が少ない上に愛好家もいて、妊娠する前から買い手が付いている場合も普通らしく、十倍の金を提示して予約に割り込んだ。輸送にも猫の世話ができる者を付き添わせた。2年以上かけてやっと迎えた猫だ。これで彼女が見向きもしなかったらどうしようかと思ったが、お気に召したらしい。

「ルクス、私の名はクリスティーナよ」

「ニャン」

名前はルクスに決まったようだ。


成功だと思った10時間後、成功とは言い切れない状態にいる。

「ルクス、おまえのベッドはあっちだろう」

ルクスはチラッとこちらを見るが、すぐに彼女の胸に顔を埋めた。
彼女がベッドに寝るとその上に寝そべり、俺が隣に寝ると俺と彼女の間に君臨してしまっていた。

夜は男が頑張る時間なんだよ、退け。

「フフッ。ルクス、苦しくないの?」

「ニャ」

イチャイチャするのは俺の特権なんだよ、退け。

「あったかい」

もう身も心もなのに……、おい、退け。

「スー スー」

寝息が聞こえる。ルクスも寝たようだ。
雄ではなく雌を連れてこさせるべきだったな。でも、これも幸せの一つなんだろうな。いつか俺達の間に愛の結晶が生まれて、怖い夢を見たと言いながら飛び込んで来て邪魔をするはずだ。

ティナを撫でようと手を伸ばすとルクスが目を開けて猫パンチをしてきた。

「こいつ……」

ティアラと同じで賢く穏やかな甘えん坊かと思ったのに全然違う。まさに猫被りの独占欲が強い雄猫ライバルだ。

「ん……ルクス……」

寝言でも名を呼ばれて満足気にルクスは瞼を閉じた。

彼女と出会うまで誰かをこんなに好きになるとは思わなかった。そして愛おしい女が狙われるとこれほど腹が立つものだとも思わなかった。

今回が初めてでもないのに全く慣れない。
ティナを見るアマンダの目に宿る殺気は衰えるどころか増していった。ルクスが領都の商家に到着したという知らせを受けて見に行くことにした。彼女につけておいた黒鷹達とロビンスには俺が不在になることでアマンダが動くかもしれないから気を抜かないよう指示をして出かけた。
ルクスを連れ帰ると、アマンダは自身の兄に協力を断られた後に1人馬に乗り外出したと報告が上がった。
屋敷に戻っていないことにしてルクスの世話とベッドを作ることにした。

アマンダが植物の毒を仕込んだので、ティナに付けたメイドに瓶を回収させた。陽の光に強く反応して焼けただれる毒が混じっていた。
アマンダを捉えてサブマ草の被験体にするため施設へ輸送させた。

何も知らずに眠る彼女の寝顔を見て安心する。やはりジオ家の本来の姿を教えずに済むのならそうしたい。彼女の憂いのない眩しい笑顔で穢れた返り血を浴びた俺も浄化される気がするんだ。

以前、エンブレーズ大公女に“眠り姫”を飲ませるよう大公に渡して始末した。
サリモア公女に重傷を負わせて獣に食わせて殺した。
今回は、斬りつけたり刺したり、剥がしたり焼いたりしては治しての繰り返しを死ぬまでやるよう命じた。

ジオ家が……俺が何をしてるか知って避けられでもしたら。



翌朝

いろいろと考えていたらあまり眠れなかった。
既に一度起きてトイレを済ませて水を飲んだルクスはまた俺とティナの間に入り、俺の方を見てお座りしている。まるで最愛のツガイを守る専属護衛騎士のようだ。腹が減ったと起こすこともない。彼女の顔に近付き匂いを嗅いでまた俺の方を向く。

「おい、おまえの本当の主人は俺だからな」

「フン」

ふてぶてしく鼻息であしらわれた。

「外に放り出すぞ」

「ヒュー?」

しまった!

ルクスはこれでもかと彼女に自身の体を擦り付けながら悲しそうに鳴く。

「ニャー ニャー」

「よしよし、可哀想に。ヒューに虐められていたのね?」

「ニャー ニャー」

聞こえていたらしい。

「違うんだティナ」

「こんなに人懐っこい子を放り出そうとするなんて。大きくてもまだ子猫なのよ?」

「やってない」

「脅していたじゃない」

「それはこいつが」

「ルクス、一緒にお部屋移ろうか。私の部屋があるからそっちに行こう。夜も私とルクスだけ。安心して眠れるよ?」

「ニャッ ニャッ」

「そうだ、一緒にセルヴィー領に行く?」

「ティナ!」

「怖くないんだから」

「俺が悪かった。ティナをルクスにとられて寂しかったんだ」

「猫相手に何言ってるの」

そう言いつつルクスを抱き上げて呼び鈴を鳴らしてメイドに預けるとベッドに戻り抱きついてきた。

「ティナ」

「ルクスがごはん食べてる間だけよ」

「ちょっと待ってろ、フルコースに追加のデザートと風呂とブラッシングも命じてくる」

「ちょっと、来たばかりでそんなことしたらストレスじゃない」

「あいつは大丈夫だ」

昼まで戻すなと言いに行ってからたっぷりティナを抱いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。 番外編(編集済み)と、外伝(新作)アップしました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

処理中です...