157 / 215
気持ちの変化を感じる男
しおりを挟む
【 シャルルの視点 】
あの頃は憤りで何も見えていなかった。
欲に眩んで息子を売る父、いかに社交界で人脈を作るかを気にする母、好きなことをさせてもらえる弟。そして裕福だからと婚約者も買えると思っているクリスティーナ・セルヴィーとそれを叶えようとするセルヴィー伯爵。全てに腹を立てていた。
満面の笑み僕の前に座る令嬢に、愛のない婚約がどういうことなのか教えてやろうと思った。
様々な条件を突き付け、泣いて婚約を止めると言い出すと思っていたが、彼女はそれを受け入れた。
その約束が後々に自分の手枷や足枷になるとは思ってもいなかった。
1年早く入学していた僕は令嬢達と遊んだ。言葉だけではなく実際にその目で見ればいいと思っていた。パーティの度に早々に彼女と離れて他の令嬢と消えた。彼女は無理をして微笑んでいるのはわかっていた。だけど僕は彼女の鬱陶しい視線が嫌いだった。
彼女が入学するとすぐに令嬢達からの攻撃が始まった。
『おい、いいのかよ。婚約者だろう?』
『いいんだよ。お強請り婚約だから』
『え?』
『父親に僕と婚約したいと強請ったんだ。僕は全く望んでいない。互いに貞操を守らなくていいし恋人だろうが作ってかまわないという条件なんだ。だから僕は女達の嫉妬に関わるつもりない』
こんな会話が広まってしまった。それでも自分の選んだ道なのだから耐えるなり婚約を止めるなり好きにしろと思っていた。
だけど彼女に盾となる学友が現れ、更にはジオ家の跡継ぎが彼女に付き纏い始めた。それでもどうでもよかった。僕は微笑んで必要最小限の対応をするだけ。サリモア公女の事件のときも僕まで巻き込まれて迷惑だった。
だけど父から、この婚約の話が出たとき彼女は知らなかったし強請ってもいないと聞かされた。僕は絡みつくような陶酔した視線を送る彼女を信じることはできなかった。
だけどそれが本当に誤解だったと信じることができたときは既に彼女の視線は変わっていた。馬車の中では視線さえ合わさず外を見ている。誘っても嬉しそうではない。
クリスティーナは僕の決めた条件を逆手に取るようになっていた。彼女がこんなに凛としてはっきり意見を言う令嬢だとは思ってもいなかった。
焦りが出てきたけど、婚約は維持されている。彼女も今はナーバスになっているだけかと思っていた。
『妊娠!?』
カツラと化粧と詰め物でごまかしたアマリア・ビクセンと一夜を過ごして悪化した。妊娠中だと言われた。しかもビクセン嬢はクリスティーナと同じクラス。最悪だった。セルヴィー伯爵から指摘されたのは婚約維持の危機だった。クリスティーナはますます距離をとるようになってしまった一方でジオ公子と仲を深めているようだった。
酔って判断が鈍った状態での出来事だと言っても彼女は信じない。ビクセン嬢を愛人として迎え入れると思っているようだった。社交は極力控えて過ごし解放されるまで待った。やっと妊娠していないと判明してホッとした。両親も僕もクリスティーナと直ぐに結婚をする気でいたが、セルヴィー伯爵が不在で政略結婚だから伯爵に委ねると言い出した。確かに僕がこの婚約は政略結婚だと言った。遅れているのも妊娠騒動のせいだと言われたら何も言えない。
クリスティーナはモルゾン公爵領、ゼオロエン侯爵領、続いてセルヴィー領に滞在していたのでなかなか会うことが叶わなかった。
だけどセルヴィー領から帰ってきた彼女は悲しみを抱えていた。亡くなった飼い猫の話を振ると涙を流し出した。僕まで胸が痛くなった。彼女の手を包むように上から重ねて、飼い猫の話を聞き続けた。
放っておけば閉じこもるだろうと考え、外出の約束をした。元気付けたかった。
絵画展では奇妙な発見をした。彼女は誰も気付かなかった箇所を5つも見つけ出した。僕達はパッと絵全体を見て気になるところに目を向ける。だけど彼女は多分最初から1つ1つパーツを追いかけるように見ているのかもしれない。廃棄必須かと思われた絵の活路を見出した彼女は生き生きとしていた。
クリスティーナが店を出していることは知っている。母も人気店だと言っていたから。名前だけ貸したかたちかと思ったらそうではないことに保守的な貴族は批判を口にした。
“貴族令嬢ならもっとやるべきことがあるでしょうに”
“社交に力を入れて婚家の役に立つよう自分を磨くべきですわ”
夫人や令嬢はそんなことを言いながら彼女の店の商品を購入する。建国祭の限定品は即完売で買えなかったと母が嘆いていた。母は彼女から優遇を受けて商品が楽に手に入ることを望んでいた。本来なら自ら新作をどうぞ限定品ですと持ってくるくらい気を利かせて欲しいと思っている。僕から彼女に言えと言われていたが、そんな物乞いみたいな真似は嫌だった。正直もう商売は止めて欲しいと思っていた。
あの頃は憤りで何も見えていなかった。
欲に眩んで息子を売る父、いかに社交界で人脈を作るかを気にする母、好きなことをさせてもらえる弟。そして裕福だからと婚約者も買えると思っているクリスティーナ・セルヴィーとそれを叶えようとするセルヴィー伯爵。全てに腹を立てていた。
満面の笑み僕の前に座る令嬢に、愛のない婚約がどういうことなのか教えてやろうと思った。
様々な条件を突き付け、泣いて婚約を止めると言い出すと思っていたが、彼女はそれを受け入れた。
その約束が後々に自分の手枷や足枷になるとは思ってもいなかった。
1年早く入学していた僕は令嬢達と遊んだ。言葉だけではなく実際にその目で見ればいいと思っていた。パーティの度に早々に彼女と離れて他の令嬢と消えた。彼女は無理をして微笑んでいるのはわかっていた。だけど僕は彼女の鬱陶しい視線が嫌いだった。
彼女が入学するとすぐに令嬢達からの攻撃が始まった。
『おい、いいのかよ。婚約者だろう?』
『いいんだよ。お強請り婚約だから』
『え?』
『父親に僕と婚約したいと強請ったんだ。僕は全く望んでいない。互いに貞操を守らなくていいし恋人だろうが作ってかまわないという条件なんだ。だから僕は女達の嫉妬に関わるつもりない』
こんな会話が広まってしまった。それでも自分の選んだ道なのだから耐えるなり婚約を止めるなり好きにしろと思っていた。
だけど彼女に盾となる学友が現れ、更にはジオ家の跡継ぎが彼女に付き纏い始めた。それでもどうでもよかった。僕は微笑んで必要最小限の対応をするだけ。サリモア公女の事件のときも僕まで巻き込まれて迷惑だった。
だけど父から、この婚約の話が出たとき彼女は知らなかったし強請ってもいないと聞かされた。僕は絡みつくような陶酔した視線を送る彼女を信じることはできなかった。
だけどそれが本当に誤解だったと信じることができたときは既に彼女の視線は変わっていた。馬車の中では視線さえ合わさず外を見ている。誘っても嬉しそうではない。
クリスティーナは僕の決めた条件を逆手に取るようになっていた。彼女がこんなに凛としてはっきり意見を言う令嬢だとは思ってもいなかった。
焦りが出てきたけど、婚約は維持されている。彼女も今はナーバスになっているだけかと思っていた。
『妊娠!?』
カツラと化粧と詰め物でごまかしたアマリア・ビクセンと一夜を過ごして悪化した。妊娠中だと言われた。しかもビクセン嬢はクリスティーナと同じクラス。最悪だった。セルヴィー伯爵から指摘されたのは婚約維持の危機だった。クリスティーナはますます距離をとるようになってしまった一方でジオ公子と仲を深めているようだった。
酔って判断が鈍った状態での出来事だと言っても彼女は信じない。ビクセン嬢を愛人として迎え入れると思っているようだった。社交は極力控えて過ごし解放されるまで待った。やっと妊娠していないと判明してホッとした。両親も僕もクリスティーナと直ぐに結婚をする気でいたが、セルヴィー伯爵が不在で政略結婚だから伯爵に委ねると言い出した。確かに僕がこの婚約は政略結婚だと言った。遅れているのも妊娠騒動のせいだと言われたら何も言えない。
クリスティーナはモルゾン公爵領、ゼオロエン侯爵領、続いてセルヴィー領に滞在していたのでなかなか会うことが叶わなかった。
だけどセルヴィー領から帰ってきた彼女は悲しみを抱えていた。亡くなった飼い猫の話を振ると涙を流し出した。僕まで胸が痛くなった。彼女の手を包むように上から重ねて、飼い猫の話を聞き続けた。
放っておけば閉じこもるだろうと考え、外出の約束をした。元気付けたかった。
絵画展では奇妙な発見をした。彼女は誰も気付かなかった箇所を5つも見つけ出した。僕達はパッと絵全体を見て気になるところに目を向ける。だけど彼女は多分最初から1つ1つパーツを追いかけるように見ているのかもしれない。廃棄必須かと思われた絵の活路を見出した彼女は生き生きとしていた。
クリスティーナが店を出していることは知っている。母も人気店だと言っていたから。名前だけ貸したかたちかと思ったらそうではないことに保守的な貴族は批判を口にした。
“貴族令嬢ならもっとやるべきことがあるでしょうに”
“社交に力を入れて婚家の役に立つよう自分を磨くべきですわ”
夫人や令嬢はそんなことを言いながら彼女の店の商品を購入する。建国祭の限定品は即完売で買えなかったと母が嘆いていた。母は彼女から優遇を受けて商品が楽に手に入ることを望んでいた。本来なら自ら新作をどうぞ限定品ですと持ってくるくらい気を利かせて欲しいと思っている。僕から彼女に言えと言われていたが、そんな物乞いみたいな真似は嫌だった。正直もう商売は止めて欲しいと思っていた。
2,562
あなたにおすすめの小説
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。
ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。
子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。
――彼女が現れるまでは。
二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。
それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる