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気持ちの変化を感じる男
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【 シャルルの視点 】
あの頃は憤りで何も見えていなかった。
欲に眩んで息子を売る父、いかに社交界で人脈を作るかを気にする母、好きなことをさせてもらえる弟。そして裕福だからと婚約者も買えると思っているクリスティーナ・セルヴィーとそれを叶えようとするセルヴィー伯爵。全てに腹を立てていた。
満面の笑み僕の前に座る令嬢に、愛のない婚約がどういうことなのか教えてやろうと思った。
様々な条件を突き付け、泣いて婚約を止めると言い出すと思っていたが、彼女はそれを受け入れた。
その約束が後々に自分の手枷や足枷になるとは思ってもいなかった。
1年早く入学していた僕は令嬢達と遊んだ。言葉だけではなく実際にその目で見ればいいと思っていた。パーティの度に早々に彼女と離れて他の令嬢と消えた。彼女は無理をして微笑んでいるのはわかっていた。だけど僕は彼女の鬱陶しい視線が嫌いだった。
彼女が入学するとすぐに令嬢達からの攻撃が始まった。
『おい、いいのかよ。婚約者だろう?』
『いいんだよ。お強請り婚約だから』
『え?』
『父親に僕と婚約したいと強請ったんだ。僕は全く望んでいない。互いに貞操を守らなくていいし恋人だろうが作ってかまわないという条件なんだ。だから僕は女達の嫉妬に関わるつもりない』
こんな会話が広まってしまった。それでも自分の選んだ道なのだから耐えるなり婚約を止めるなり好きにしろと思っていた。
だけど彼女に盾となる学友が現れ、更にはジオ家の跡継ぎが彼女に付き纏い始めた。それでもどうでもよかった。僕は微笑んで必要最小限の対応をするだけ。サリモア公女の事件のときも僕まで巻き込まれて迷惑だった。
だけど父から、この婚約の話が出たとき彼女は知らなかったし強請ってもいないと聞かされた。僕は絡みつくような陶酔した視線を送る彼女を信じることはできなかった。
だけどそれが本当に誤解だったと信じることができたときは既に彼女の視線は変わっていた。馬車の中では視線さえ合わさず外を見ている。誘っても嬉しそうではない。
クリスティーナは僕の決めた条件を逆手に取るようになっていた。彼女がこんなに凛としてはっきり意見を言う令嬢だとは思ってもいなかった。
焦りが出てきたけど、婚約は維持されている。彼女も今はナーバスになっているだけかと思っていた。
『妊娠!?』
カツラと化粧と詰め物でごまかしたアマリア・ビクセンと一夜を過ごして悪化した。妊娠中だと言われた。しかもビクセン嬢はクリスティーナと同じクラス。最悪だった。セルヴィー伯爵から指摘されたのは婚約維持の危機だった。クリスティーナはますます距離をとるようになってしまった一方でジオ公子と仲を深めているようだった。
酔って判断が鈍った状態での出来事だと言っても彼女は信じない。ビクセン嬢を愛人として迎え入れると思っているようだった。社交は極力控えて過ごし解放されるまで待った。やっと妊娠していないと判明してホッとした。両親も僕もクリスティーナと直ぐに結婚をする気でいたが、セルヴィー伯爵が不在で政略結婚だから伯爵に委ねると言い出した。確かに僕がこの婚約は政略結婚だと言った。遅れているのも妊娠騒動のせいだと言われたら何も言えない。
クリスティーナはモルゾン公爵領、ゼオロエン侯爵領、続いてセルヴィー領に滞在していたのでなかなか会うことが叶わなかった。
だけどセルヴィー領から帰ってきた彼女は悲しみを抱えていた。亡くなった飼い猫の話を振ると涙を流し出した。僕まで胸が痛くなった。彼女の手を包むように上から重ねて、飼い猫の話を聞き続けた。
放っておけば閉じこもるだろうと考え、外出の約束をした。元気付けたかった。
絵画展では奇妙な発見をした。彼女は誰も気付かなかった箇所を5つも見つけ出した。僕達はパッと絵全体を見て気になるところに目を向ける。だけど彼女は多分最初から1つ1つパーツを追いかけるように見ているのかもしれない。廃棄必須かと思われた絵の活路を見出した彼女は生き生きとしていた。
クリスティーナが店を出していることは知っている。母も人気店だと言っていたから。名前だけ貸したかたちかと思ったらそうではないことに保守的な貴族は批判を口にした。
“貴族令嬢ならもっとやるべきことがあるでしょうに”
“社交に力を入れて婚家の役に立つよう自分を磨くべきですわ”
夫人や令嬢はそんなことを言いながら彼女の店の商品を購入する。建国祭の限定品は即完売で買えなかったと母が嘆いていた。母は彼女から優遇を受けて商品が楽に手に入ることを望んでいた。本来なら自ら新作をどうぞ限定品ですと持ってくるくらい気を利かせて欲しいと思っている。僕から彼女に言えと言われていたが、そんな物乞いみたいな真似は嫌だった。正直もう商売は止めて欲しいと思っていた。
あの頃は憤りで何も見えていなかった。
欲に眩んで息子を売る父、いかに社交界で人脈を作るかを気にする母、好きなことをさせてもらえる弟。そして裕福だからと婚約者も買えると思っているクリスティーナ・セルヴィーとそれを叶えようとするセルヴィー伯爵。全てに腹を立てていた。
満面の笑み僕の前に座る令嬢に、愛のない婚約がどういうことなのか教えてやろうと思った。
様々な条件を突き付け、泣いて婚約を止めると言い出すと思っていたが、彼女はそれを受け入れた。
その約束が後々に自分の手枷や足枷になるとは思ってもいなかった。
1年早く入学していた僕は令嬢達と遊んだ。言葉だけではなく実際にその目で見ればいいと思っていた。パーティの度に早々に彼女と離れて他の令嬢と消えた。彼女は無理をして微笑んでいるのはわかっていた。だけど僕は彼女の鬱陶しい視線が嫌いだった。
彼女が入学するとすぐに令嬢達からの攻撃が始まった。
『おい、いいのかよ。婚約者だろう?』
『いいんだよ。お強請り婚約だから』
『え?』
『父親に僕と婚約したいと強請ったんだ。僕は全く望んでいない。互いに貞操を守らなくていいし恋人だろうが作ってかまわないという条件なんだ。だから僕は女達の嫉妬に関わるつもりない』
こんな会話が広まってしまった。それでも自分の選んだ道なのだから耐えるなり婚約を止めるなり好きにしろと思っていた。
だけど彼女に盾となる学友が現れ、更にはジオ家の跡継ぎが彼女に付き纏い始めた。それでもどうでもよかった。僕は微笑んで必要最小限の対応をするだけ。サリモア公女の事件のときも僕まで巻き込まれて迷惑だった。
だけど父から、この婚約の話が出たとき彼女は知らなかったし強請ってもいないと聞かされた。僕は絡みつくような陶酔した視線を送る彼女を信じることはできなかった。
だけどそれが本当に誤解だったと信じることができたときは既に彼女の視線は変わっていた。馬車の中では視線さえ合わさず外を見ている。誘っても嬉しそうではない。
クリスティーナは僕の決めた条件を逆手に取るようになっていた。彼女がこんなに凛としてはっきり意見を言う令嬢だとは思ってもいなかった。
焦りが出てきたけど、婚約は維持されている。彼女も今はナーバスになっているだけかと思っていた。
『妊娠!?』
カツラと化粧と詰め物でごまかしたアマリア・ビクセンと一夜を過ごして悪化した。妊娠中だと言われた。しかもビクセン嬢はクリスティーナと同じクラス。最悪だった。セルヴィー伯爵から指摘されたのは婚約維持の危機だった。クリスティーナはますます距離をとるようになってしまった一方でジオ公子と仲を深めているようだった。
酔って判断が鈍った状態での出来事だと言っても彼女は信じない。ビクセン嬢を愛人として迎え入れると思っているようだった。社交は極力控えて過ごし解放されるまで待った。やっと妊娠していないと判明してホッとした。両親も僕もクリスティーナと直ぐに結婚をする気でいたが、セルヴィー伯爵が不在で政略結婚だから伯爵に委ねると言い出した。確かに僕がこの婚約は政略結婚だと言った。遅れているのも妊娠騒動のせいだと言われたら何も言えない。
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だけどセルヴィー領から帰ってきた彼女は悲しみを抱えていた。亡くなった飼い猫の話を振ると涙を流し出した。僕まで胸が痛くなった。彼女の手を包むように上から重ねて、飼い猫の話を聞き続けた。
放っておけば閉じこもるだろうと考え、外出の約束をした。元気付けたかった。
絵画展では奇妙な発見をした。彼女は誰も気付かなかった箇所を5つも見つけ出した。僕達はパッと絵全体を見て気になるところに目を向ける。だけど彼女は多分最初から1つ1つパーツを追いかけるように見ているのかもしれない。廃棄必須かと思われた絵の活路を見出した彼女は生き生きとしていた。
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