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後悔する男
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【 シャルルの視点 】
だけど彼女が楽しそうに絵の活用法を話す姿に僕も胸が躍った。彼女を送った後、絵画展に戻り画家ジョアンの居場所を教えてもらい、ジョアンから絵を描いた場所を聞き出した。近くて良かった。
外出に誘い、彼女には行き先を告げなかった。現地までの馬車の中で絵や彼女の店の話をした。久しぶりに彼女が僕を見て話し続けてくれてホッとした。昔のような熱は感じられないが自然なクリスティーナに居心地の良さを感じた。
農場に近付き、ジョアンの風景画の場所だとわかると目を輝かせた。良かった。この場所は正確だった。ジョアンがありのまま描いていたことが分かり僕も彼女も興奮した。ものすごく楽しかった。
帰りにテイラー氏のところに寄って豚の絵は本当だったと知らせるとショックを受けていた。クリスティーナは慰めのつもりで豚は食用だからと言ったが、僕は食肉にされるテイラー氏を思い浮かべてしまった。テイラー氏も微妙な笑みを浮かべていた。
楽しい。すごく楽しい。誰かと一緒に過ごしてこんなに楽しいと感じたことはない。令嬢達と夜を過ごすことは幾度もあったし、一部の令嬢とはデートのようなことをしてきたけど今日のように楽しいと感じたことはなかった。男友達でも。
彼女を送り届けたときも笑いが抑えきれなくて、クリスティーナは恥ずかしそうに“そんなに笑わなくたって…”と小さな声で呟いていた。可愛い。クリスティーナがすごく可愛い。頬に触れ唇を合わせ抱きしめたいと初めて思った。
屋敷に戻ると母が尋問のように聞いてくる。
「どうだったの」
「楽しかったですよ」
「そう。ジオ公子が王都を離れている間にクリスティーナの気持ちをしっかり掴まないと」
「わかっています」
いつもなら適当に“そうですね”としか答えなかった僕が強い口調で答えたことに母は驚いていた。
わかってる。言われなくても嫌というほどわかってる。クリスティーナへの気持ちがこんなに変わるのなら男を作ることを勧めなければ良かった。
全てが格上過ぎる相手と張り合うのなら、婚約者という肩書きと彼女の気持ちが僕にあるという強みで対抗するしかない。だが今となっては彼女の気持ちがどこにあるのかわからない。ジオ公子について行っていないということはそこまでではないと思うが…そう信じたいだけかもしれない。
僕は馬鹿だ。婚約以降クリスティーナにとんでもなく辛く当たった。彼女は青を身に付けることはなくなったし、心を遠くへ飛ばすかのように目線を逸らしてしまう。僕が恋人を作ろうが平気みたいだ。妊娠騒動のときでさえ涙も見せず、ただ怒りを滲ませただけ。それは嫉妬の怒りではなく契約を守れという怒りだ。彼女はいつの間にか僕に無関心になっていた。今では“お迎えする愛人でも決まりましたか”と平然と言う。
もっと早く誤解が解けていたら。というより元々誤解しなければ、僕達は今頃夫婦になっていたはずだ。クリスティーナとセルヴィー領に遊びに行って、彼女の飼い猫と寿命がくるまで楽しく遊べただろうし、彼女との楽しい日々を送れていたはずだ。それにジオ公子が付き纏うこともなかったはずだ。今思えばクリスティーナとの婚約は最高の条件だった。セルヴィー家は国外にも顔がきくし領民に職を供給して豊かな領地にしている。交流に縛りがないのに自然と中立を維持している。家族思いだし素行の悪い者はいない。クリスティーナだって男遊びをするような子ではなく純潔を感じた。交際も強引なジオ公子とだけ。僕が男を作っていいなんて言わなければ僕だけだったはずだ。
クリスティーナはジオ公子に身を捧げたのだろうか。そう思うと苛立ちを感じる。クリスティーナにじゃない。馬鹿な僕自身にだ。
だけど彼女が楽しそうに絵の活用法を話す姿に僕も胸が躍った。彼女を送った後、絵画展に戻り画家ジョアンの居場所を教えてもらい、ジョアンから絵を描いた場所を聞き出した。近くて良かった。
外出に誘い、彼女には行き先を告げなかった。現地までの馬車の中で絵や彼女の店の話をした。久しぶりに彼女が僕を見て話し続けてくれてホッとした。昔のような熱は感じられないが自然なクリスティーナに居心地の良さを感じた。
農場に近付き、ジョアンの風景画の場所だとわかると目を輝かせた。良かった。この場所は正確だった。ジョアンがありのまま描いていたことが分かり僕も彼女も興奮した。ものすごく楽しかった。
帰りにテイラー氏のところに寄って豚の絵は本当だったと知らせるとショックを受けていた。クリスティーナは慰めのつもりで豚は食用だからと言ったが、僕は食肉にされるテイラー氏を思い浮かべてしまった。テイラー氏も微妙な笑みを浮かべていた。
楽しい。すごく楽しい。誰かと一緒に過ごしてこんなに楽しいと感じたことはない。令嬢達と夜を過ごすことは幾度もあったし、一部の令嬢とはデートのようなことをしてきたけど今日のように楽しいと感じたことはなかった。男友達でも。
彼女を送り届けたときも笑いが抑えきれなくて、クリスティーナは恥ずかしそうに“そんなに笑わなくたって…”と小さな声で呟いていた。可愛い。クリスティーナがすごく可愛い。頬に触れ唇を合わせ抱きしめたいと初めて思った。
屋敷に戻ると母が尋問のように聞いてくる。
「どうだったの」
「楽しかったですよ」
「そう。ジオ公子が王都を離れている間にクリスティーナの気持ちをしっかり掴まないと」
「わかっています」
いつもなら適当に“そうですね”としか答えなかった僕が強い口調で答えたことに母は驚いていた。
わかってる。言われなくても嫌というほどわかってる。クリスティーナへの気持ちがこんなに変わるのなら男を作ることを勧めなければ良かった。
全てが格上過ぎる相手と張り合うのなら、婚約者という肩書きと彼女の気持ちが僕にあるという強みで対抗するしかない。だが今となっては彼女の気持ちがどこにあるのかわからない。ジオ公子について行っていないということはそこまでではないと思うが…そう信じたいだけかもしれない。
僕は馬鹿だ。婚約以降クリスティーナにとんでもなく辛く当たった。彼女は青を身に付けることはなくなったし、心を遠くへ飛ばすかのように目線を逸らしてしまう。僕が恋人を作ろうが平気みたいだ。妊娠騒動のときでさえ涙も見せず、ただ怒りを滲ませただけ。それは嫉妬の怒りではなく契約を守れという怒りだ。彼女はいつの間にか僕に無関心になっていた。今では“お迎えする愛人でも決まりましたか”と平然と言う。
もっと早く誤解が解けていたら。というより元々誤解しなければ、僕達は今頃夫婦になっていたはずだ。クリスティーナとセルヴィー領に遊びに行って、彼女の飼い猫と寿命がくるまで楽しく遊べただろうし、彼女との楽しい日々を送れていたはずだ。それにジオ公子が付き纏うこともなかったはずだ。今思えばクリスティーナとの婚約は最高の条件だった。セルヴィー家は国外にも顔がきくし領民に職を供給して豊かな領地にしている。交流に縛りがないのに自然と中立を維持している。家族思いだし素行の悪い者はいない。クリスティーナだって男遊びをするような子ではなく純潔を感じた。交際も強引なジオ公子とだけ。僕が男を作っていいなんて言わなければ僕だけだったはずだ。
クリスティーナはジオ公子に身を捧げたのだろうか。そう思うと苛立ちを感じる。クリスティーナにじゃない。馬鹿な僕自身にだ。
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