Arrive 0

黒文鳥

文字の大きさ
146 / 217
6章

0.5

しおりを挟む

 ごめんってば、と早々に謝ったアトリはそれでもう終わりだと思ったのだろう。
 片手で顔を覆ったまま、彼はくたりと全身の力を抜いた。
 絶頂の名残で震える呼吸が徐々に深くなっていく。
 まだ足りないと訴えるように、ユーグレイは咥えたそれを強く吸い上げた。
 
「いッ、あ!?」

 ぎくりと跳ねた身体。
 ユーグレイの髪を軽く握って、アトリは限界を訴えるように首を振った。
 だから手加減をするつもりはないと言ったのに。
 意味のない抵抗に哀れみは覚えるが、そもそも半分くらいは彼自身の所為でもある。
 報復の意を込めて、ユーグレイはまだ熱を持つ先端を軽く喰んだ。


 ようやく退院の許可が下りたのは、あの一件から五日後のことだった。
 元々特殊個体から受けた傷だからと経過を見るために長引いていただけの入院である。
 決して文句はないが、やっと解放されたと思ったことは否定出来ない。
 昼前に最後の診察を受けて、ちゃんと迎えに来たアトリと病室を後にした。
 立ち寄った食堂では顔見知りの同僚たちが退院祝いだと酒を奢ってくれたが、長居はせずに部屋に戻って来てこれである。
 やっと触れても良いのだと思ったら、まあ当然こうなる。
 飢えを満たすような性急な交合の後、確かめるようにゆっくりと身体を重ねる。
 ユーグレイでさえ何度果てたかわからないのだから、受け入れる方のアトリは尚更だろう。
 交わされていた言葉は次第に少なくなり、声を上げることなく幾度か達したようだった。
 心地良く馴染んだ熱を引き抜いたが、まだ終わるつもりはない。
 ぐったりとしたままのアトリに許可を得ることもせず、先日の宣言通り口淫を始めたのだ。

「ゆ、ーぐ! も、もう、つらい、からっ!」

 それは無論わかっている。
 一度目のそれは、嫌そうに顔を顰めたものの諦めもあったのだろう。
 アトリは、ほんとにやんのかよと文句は言ったが抵抗まではしなかった。
 それでもユーグレイの口に出すのはかなりの忌避感があったようだ。
 散々に責め立てて半ば強引にイかせると、彼は流石に「ごめんってば」と謝罪した。
 行為の最中、何度か出していたからか。
 ごくりと飲み込んだそれはやや薄く量も少ない。
 それでは、全く物足りなかった。
 
「も、出した、だろッ! さ、すがに……むり、だってぇ!」

 シーツを蹴る足を押さえて、ユーグレイは咽喉の奥までアトリを咥え込む。
 小さく息を飲むような悲鳴が聞こえたが、催促をするように刺激を強める。
 アトリは痙攣するように上体を起こした。

「う、あぅ……、あっ、ぁ! や、だっ!」

「ーーーーーー」

 視線を上げる。
 その刹那を、見逃したくなかった。
 涙で濡れた瞳がユーグレイを映す。
 快感と戸惑いと懇願が入り混じった表情には、ここまでされてなお嫌悪は見て取れない。
 それは安堵より、ただ残酷なほどに欲情を煽った。
 アトリの腰を押さえ込んで、ユーグレイはその後孔に指を埋める。
 先程までユーグレイを受け入れていた内壁は、未知の快感に怯えるように微かに脈動していた。
 指先を折り曲げるようにして、容赦なく中のしこりを押し潰す。
 同時に震える性器をきつく吸い上げた。

「あ、ーーあ、ぁーー、ーーーーっ」

 ああ、そうか。
 他の誰も、彼がこんな蕩けた顔をすることを知らない。
 こんな風に喘ぐことを知らない。
 こうしている時のアトリは、ユーグレイだけのものだ。
 独占して、繋ぎ止めて、ひたすらに一番近くにいることを確かめたい。
 だからこうしていなければ、ユーグレイは満足が出来ないのだ。
 いつでも、アトリが欲しくて仕方がないのだ。
 
「…………アトリ」

 咽喉の奥を濡らしたあたたかな水をゆっくりと飲み込んでから、ユーグレイは身体を起こしてアトリの頬を撫でた。
 無理矢理に潮まで吹かせた自覚はある。
 引き攣るような呼吸をしながら放心していた彼は、しばらくしてからとろりと瞬きをする。

「……ばぁーか」

 掠れた声でそう言って、アトリは微かに笑う。
 重そうに持ち上げた腕がユーグレイの背に回された。
 
「こんなの、癖に、なったら、どーすんだよ」

「責任は取る」

 ユーグレイは応えるようにアトリを抱きしめて、その首筋に唇を寄せる。
 肌が隙間なく重なるように自然と腕に力が籠った。
 ユーグレイの肩に額を押し付けて、アトリは息を吐く。
 腕の中の身体からゆるりと力が抜けて行くのがわかった。
 流石に限界か。
 傷、とアトリはぽつりと呟いた。

「何だ?」

 どんな些細な言葉でも聞き逃したくなくて、ユーグレイは眠ってしまいそうなアトリの耳元で問い返す。
 
「傷、綺麗に治って、良かった」

「ーーーーーーーー」

 特殊個体から受けた傷。
 薄らと残る怪我の跡は、恐らくそうかからずに消えるだろう。
 そもそもそんなことは、ユーグレイ自身気にも留めていなかったと言うのに。
 アトリはほっとしたようにそれだけ言って、ふつりと意識を失ったようだった。
 本当に。

「君には、本当に、勝てる気がしないな」

 ユーグレイは柔らかな黒髪を撫でて、瞳を閉じた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...