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黒文鳥

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8章

0.1

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 背中に回されていた手がシーツに落ちた。
 堪え切れなかった声がその乱れた呼吸の合間に溢れる。
 常よりも柔らかな奥は、熱を放ったばかりのユーグレイをまだ締め付けて離さない。
 
「…………ぁ、う」

 僅かに身体を起こすと、腕の中に閉じ込めたままのアトリがぼんやりとこちらを見上げた。
 まだ引かない興奮で自身の背が震えるのがわかる。
 ユーグレイは奥歯を噛んで、その濡れた唇を指先でなぞった。
 口腔へと滑り込ませた指に熱い舌が触れる。
 アトリは一瞬不思議そうに瞬いたが、それがユーグレイの指だと気付くと応えるように舌を這わせた。

「……君、それは、駄目だろう」

 そんなことをされて歯止めが効くはずがない。 
 狭い口内を遠慮なくかき混ぜると、アトリは軽く咳き込む。
 唇の端から透明な唾液が伝った。
 それでも、彼は嫌がらない。
 このまま。
 奥を割り開いて、何度も熱を注ぎ込んで、境界が曖昧になるほどにずっと。
 耐え難い欲求は最早本能に近かった。
 ユーグレイは荒くなる息を吐き出して、アトリの額に片手を置く。
 もう熱はなさそうだが、彼は間違いなく消耗しているはずだ。
 それが疲労から来るものであれ防衛反応に付随するものであれ、アトリの不調は決して軽視出来ない。
 ゆっくりと指を引き抜いて、ユーグレイは首を振った。
 これほどに自制が効かないものか、と苦い笑いさえ込み上げて来る。

「もう良い、アトリ。無理をさせて、すまなかった」
 
 なるべく負担にならないように慎重に腰を引くと、追い縋るように中が痙攣するのがわかる。
 脱力していたはずのアトリの脚が小さく跳ねた。
 
「い、やだ……、ユーグ。抜く、な」

 瞳を閉じたまま、アトリは嫌々と首を振る。
 もう手を持ち上げる気力さえないくせに、「もう一回」とせがむ。
 殆ど意識は飛んでいるだろう。
 それでも欲しいと乞うのは、ユーグレイのためか。
 甘やかされているなとどこか擽ったく思うのと同時に、そこまで言わせるほどにアトリに想われているという事実に堪らない心地になる。
 
「十分だ。今夜は、もう」

 そこまでしなくても良い、と宥めるようにアトリの髪を撫でる。
 父や兄が深く関わった一件をようやく収めたことも影響があるのだろう。
 対価のように差し出される言葉は確かにユーグレイの欲しいものではあるが、それがアトリの負担になるのであれば話は別である。
 止まっていた腰を更に引くと、滑る接合部から白濁が滲み出して来た。
 アトリはびくりと背を浮かせる。

「や、だって……、ユーグっ!」

「……アトリ?」

 ユーグレイが十分だと言っている以上、アトリが無理をする必要はないはずだ。
 それとも声が届いていないのか。
 不意に心配になってアトリの頬を軽く叩く。
 薄らと開かれる瞳。
 ユーグレイの手に擦り寄って、アトリは引き攣るような息をした。

「もっと、したい。全然足りない。ユーグが、欲しい」
 
 喉の奥が鳴った。
 ユーグレイのためではない。
 それはもっと単純な、アトリ自身の望みだ。
 言葉を返す余裕などなかった。
 抜けかけた自身を容赦なく奥まで突き入れると、アトリは白い咽喉を晒して喘いだ。
 脳が沸騰したのではないかと思うほど、思考はまともに働かない。
 無理をさせないのでは、なかったか。
 いや、けれどアトリ自身がそれほど望んでくれるのならば。
 
「アトリ」

 すんなりと開いた最奥がユーグレイの先端を咥え込む。
 ベッドから浮いた細い腰が、がくがくと痙攣した。
 触れていないのにアトリ自身も熱を吐き出したらしい。
 放っておいて悪かったなと思って慰めるようにそれを扱くと、「イく前に触れよ」と半泣きの文句が飛んで来た。
 ごもっともだ。
 すまないと一応は謝罪をするが、耐え切れずにユーグレイは小さく笑う。
 ああ、もう駄目だ。
 ただひたすらに、彼が愛おしくて仕方がない。

「ユーグ」

 無防備に揺さぶられながら、アトリは「気持ち良い」と繰り返す。
 そうだなと答えて、ユーグレイは腕の中の身体を強く抱き締めた。
 


 
 


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