【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま

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モテる彼氏はいりません

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それなら、もっと穏やかな形がいい。

毎日ときめいてドキドキして、女の影が見えたら嫉妬して。そんな恋愛は私にはもう出来ない。

ただお互いの存在で癒やし合えるような、穏やかな相手とならうまくいくかもしれない。

「俺はダメですか?」
「ふふ、論外だね。ただでさえモテるのに、過去の女の子達にも嫉妬しなきゃいけないなんて疲れ果てそう」
「ヤキモチ妬くには値しない恋愛しかしてきてないんだけどな。じゃあ蓮兄は?」

どう答えたらいいのかわからず、ただ曖昧に笑って黙って首を振る。

「確か学生時代からずっと同じ子と付き合ってたっけ。それが嫌ですか?」

いつだったか同期会で、店の外に出た水瀬が電話で別れ話をしていたのを思い出した。

確か高校から付き合ってたと聞いた。随分長い付き合いで一途なんだなとあの頃は感心しただけだったけど。

「きっと……色んな事を比べちゃうんだろうな」

ぼそりと呟いてしまったのは、ずっと隠し続けていた本音をあっさりと暴かれてしまった爽くんの前だからか。

高校の頃からずっと付き合っていた彼女を、ずっと大事にしてきたんだろう。

自分にだってそれなりに彼氏がいたのを棚に上げ、過去の彼女を考えるだけでも嫉妬で身が焦がされる思いだというのに。

また涙が滲みそうになったのを堪えると、なぜか爽くんが私を凝視している気配がする。

「気持ちの伴ってない彼女がたくさんいたのと、長く付き合ってた彼女がひとりだけいるのはどっちが嫌ですか?」
「……どっちも嫌だよ。ちょいちょい偏頭痛に悩まされるのも脳梗塞になるのも、どっちも嫌でしょ」
「とんでもないたとえ話ぶっこんできましたね」
「大量のコバエと毒蜘蛛みたいな虫に例えるよりマシでしょ」
「あははは! 莉子先輩、面白すぎる!」

なんだか不本意だけど、笑ってくれるのならいいかとこちらも少しだけ微笑む。

風邪っぴきの後輩に口説かれるよりはだいぶマシだ。

「それでいうと、会社経営一族の御曹司は何に例えられるんですか?」

ちょっとした言葉遊びに食いつかれ、私もなんとなく考えてみる。

御曹司かぁ。私はあまり気にしないけど、その肩書のせいでモテてしまうんだから厄介なシロモノだと思う。

「常に付きまとう嫌なもの…。あ、生理痛?」

私がはじき出した答えに、爽くんは目を見開いて驚いている。

「御曹司って、嫌なものなの?!」
「だって……面倒じゃない? 付き合う相手がって例えだよね?」

どうしても水瀬の顔が浮かぶ。

彼はモテる。ルックスとか、水瀬帝国の王子だということを差し引いてもモテると思う。

聞いてなさそうなのにちゃんと話を聞いてくれているところも。

いつ話したかも覚えていないことをちゃんと記憶してくれているところも。

仕事の進捗を気にかけてくれているところも。

髪やメイクを変えたら気付いてくれるところも。

夜道を歩いているのを心配してくれる優しいところも。

毎回車道側を歩かせないようにしてくれるスマートなところも。

バカみたいな会話に毎度付き合ってくれる律儀なところも。

全部ぜんぶ、好きになってくださいと言わんばかりのモテ要素しかない。

そこにさらに『御曹司』なんていう世の女性達にはたまらない肩書なんかがついていた日には。そんな水瀬と恋愛なんかしたら。

ただでさえ一緒に営業にいた頃と違ってどんな人に囲まれて仕事をしているかも知らないのに。

どれだけやきもきするんだろうと思うと、自分の気持ちを認めることなんて出来なかった。

「俺の周りは、俺が水瀬の御曹司ってことに価値を見出してる子ばっかりだった」

あまりに呆然として呟くから、なんだか悪いことを言った気分になる。

「え、なんかごめん? これからもう少し御曹司っぽく扱おうか?」
「ははっ、何、御曹司っぽい扱いって」
「いやわかんないけど。爽さまって呼んだり? 似てないモノマネも似てるっておだてたり?」
「あはははは! はーもうやめて、莉子先輩といるとホント笑える。熱上がりそうです」

喜んで良いのかバカにされているのか。どちらにしても熱が上がって辛くさせてはここに来た意味がまるでない。

「じゃあ私そろそろ」
「莉子先輩」

お腹を抱えて笑っているかと思いきや、急に真面目な顔で私を見つめる。

その瞳はやはりどこか水瀬に似ていて、思わずドキリとしてしまった。

「俺ね、子供の頃からいずれ親の会社に入って、親が決めた相手と結婚して会社継ぐってわかってて」

話しながら爽くんはぺり、と額に貼られていた冷却シートを剥がした。

「でもやっぱ一生一緒にいる結婚相手から好かれないって問題だなってガキの俺は考えて。どんな相手だろうと俺に振り向かせられればいいんだって結論に辿り着いたんです」

何を言わんとしているのか何となく察して、私は手にしていたペットボトルの蓋を開けてお茶を一口飲んだ。

「将来の見合い相手も、そうやって俺に惚れさせられればいい。そう思ってずっとあんな恋愛ごっこをしてきた」

淡々と話す内容は思いの外ショッキングで、やはり御曹司は面倒なものなんだと思った。

爽くんが少しチャラい外見に反して真面目だというのは、この半年一緒に仕事をしていればわかる。

それがなぜあんなキテレツな恋愛観になったのだろうと疑問ではあったけど。まさかこんな捻くれて拗らせた思考回路だったとは。

要約すれば、今までの女の子たちとの恋愛は、すべて将来の結婚相手の子を自分に惚れさせる練習台だと言っているのだ。

驚いて何も言えない私に向かって、爽くんは苦い笑みを零した。

「こんなこと……初めて人に言った。やばい、本気になりそう」


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