【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま

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王子たちの求愛

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それでもなんとなく抵抗しないでいると、爽くんは話を続けた。

「半年一緒に働いて、俺を御曹司扱いしない女の人って珍しくて気になったからターゲットにしてみただけだった。特に好みの顔でも身体でもないですし」
「おいこら」
「それなのに、仕事では男に混じってガンガン働く先輩が、蓮兄のことになると途端にポンコツになる。傷付いて泣きそうな顔を見れば助けたくなった」

失礼なことを言われているはずなのに、どこか爽くんに口説かれるのはこれが最後になると感じて、終わりまで聞くことにした。

きっと、私が爽くんに見せられる誠意は、話をちゃんと全部聞いてきちんと断ることだと思ったから。

「風邪の時に料理作ってもらったのも初めてだった。他の男と二人で飲んでるってわかってて呼び出すのも、告白されたって聞いて嫉妬するのだって、全部莉子先輩が初めてなんだ」

ぎゅっと抱きしめる腕に力が込められた。

「莉子先輩が好きです。たぶん……初恋なんです」

キテレツな恋愛観とか、女癖が悪いとか、そんな事実は置いておいて。きっと本気で言ってくれていることは私にも伝わってきた。

だから私も、本音で彼に答えを告げなくては。

「ありがとう、爽くん。でも、私ね」

爽くんの腕から抜け出そうと顔を上げて距離を取ろうとした瞬間。

ドン!と大きな音を立ててフロントガラスが叩かれた。

車が揺れる衝撃に驚いて爽くんの腕の中で固まっていると、音を立てた張本人が運転席側に回って乱暴にドアを開けた。

「佐倉から離れろ!」

水瀬は爽くんの肩を強い力で掴むと、運転席から引き摺り下ろす。突然の水瀬の登場に驚きつつ、私も慌てて助手席から降りた。

「蓮兄には関係ないでしょ」
「なんだと?」

会社の裏手側にある駐車場。社員以外の人目につくことはないものの、いつ営業車を使う社員がくるかもしれない場所。社員用出入り口も近い。

そんな所で、水瀬帝国の王子ふたりが睨み合っているのはかなりマズイのでは。なんだか一触即発の空気を感じて止めに入る。

「待って。仕事中。ね?」

時刻は午後三時。定時までは二時間半もある。ちゃんとキリキリ働かないと給料泥棒もいいところだ。

「蓮兄は木島のお嬢様とデートでも何でもしてたらいいんじゃないかな」

私の制止も虚しく、爽くんが煽るように言葉を投げつける。

「何の話だ」
「今さっき一緒にいただろ?木島不動産のご令嬢と」

水瀬以上に私がドキリとしてしまい、爽くんに恨みがましい目を向ける。それでも彼は私でなく水瀬と対峙しているせいで視線に気付かない。

「木島……あぁ。どっかで会ったことあると思ったら、木島不動産の」
「どっかでって……。何度もパーティーで顔合わせてるだろ」
「お前じゃあるまいし、仕事に関係ない女の顔なんて一々覚えてられるか。確か社長の第二秘書なんて言ってたけど、ほぼ挨拶回りについていくだけで仕事なんてしてなさそうだし」
「まぁ、それは否定しないけど」
「彼女からは結婚式の招待状を出したって話を聞いてたんだ。爽のとこにも社長から話があるだろ」
「け……っこんしき?」

二人の会話に口を挟めないでいた私だけど、思わぬ単語につい反応してしまった。

「あの人、結婚するの?」
「らしいな」
「誰と……?」
「確か筒井銀行の頭取の息子だって言ってたか。車の音であんまり聞こえなくて」

水瀬の返答を聞くやいなや、私は力が抜けてその場にへなへなと座り込んでしまう。

「佐倉?!」

駐車場で急にぺたんと座ってしまった私に驚いて水瀬が駆け寄ってきてくれる。

肩に触れたその手の温かさと、さっき見た女の人とは何もなかったんだという安心感から、またぽろぽろと溢れてくる水分。

「だから嫌だったのに!」

添えられた手を振り払うようにブンブンと首を振る。

「やっぱり水瀬とは付き合えない」
「は? 何で今『やっぱり』ってなるんだよ。嫌だったって何が?」

唐突に先日の告白に対する断りの返事をする私に、水瀬は驚きよりも不愉快そうに眉を顰めた。

「だって……だって嫌なんだもん! 無理だもん! だからずっとただの同期でいたかったのに!」
「佐倉……」
「だって水瀬モテるじゃん! いちいち女の影に嫉妬して疲れるだけの恋愛なんてもうしないって決めてたのに!」

なんて失態だろう。

水瀬と歩いていたあの人は他の男性と結婚を決めていて、たまたま水瀬を見かけて結婚式の招待状を出したと世間話をしながら歩いていただけ。

そんなふたりを見かけただけで取り乱し、いらぬ想像をして泣いてしまうほど水瀬のことを好きになっていたなんて。

いつから芽生えていたのかも定かではないこの気持ち。ずっと蓋をして鍵をかけて、『ただの同期』と呪文を唱えてまで外に出さないようにしていたはずだったのに。

「佐倉」
「無理。バカみたいにモテるの絶対無理。元カノと長く付き合ってたみたいだし、無駄にイケメンだし、クールぶってるくせに面倒見良いし、変化に目敏いし、いつの間にか車道側歩いてるし、エスパーだし、王子のくせにカレー全部混ぜて食べるし」
「カレーの食い方に王子関係ねーだろ」
「変な殴りたくなる顔のパンダのスタンプ気に入ってるし」
「殴り……、可愛いじゃん。ってかさ」

水瀬は両手で私の頬をぎゅっと包む。

その力が強すぎて、私の顔がひょっとこみたいになってる感じが否めないのだけどどうにかなりませんか。

「お前、俺のこと好きだろ」


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