29 / 45
王子たちの求愛
4
しおりを挟む笑ってる。嬉しそうに笑ってやがる。
「冤罪です」
「虚偽の証言は犯罪だぞ」
「……黙秘権を行使します」
「だから、それはもうほぼ認めてるようなもんだって」
「……」
「ほら、認めとけ。田舎のかぁちゃんが泣いてるぞ」
「私は東京出身です」
「そういう意味じゃねぇ」
ひょっとこ顔のまま見つめられるのがツライと睨んでいると、少しだけ頬を包む手の力が緩んだ。
「嫉妬するのが辛いって言うのなら、しなくて済むように甘やかす。佐倉がいいなら付き合ってることも隠さないし、会社とか立場とか関係なくベタベタに可愛がる」
「……」
「元カノには二度と会わないし連絡も取らない。むしろ向こうも取りたくないだろうし」
「わかんないじゃん。水瀬だもん。しかも高校の頃からの付き合いだって……」
「俺がお前に惚れたから、他に好きな人が出来たから別れてくれって言ったんだ。入社してからはあんまり会ってもいなかったし」
「え?!」
そんな。だって、水瀬が電話で別れ話してたのって、確か入社一年目の頃で……。
「俺が水瀬ハウスの御曹司だって就活の頃に知ったらしくて。目の色変えたのに気付いてから、うまく付き合っていける自信はなかったんだ」
爽くんも言ってたな。自分の周りには『御曹司』ってことに価値を見出している子ばっかりだって。
ずっと付き合ってた彼女すら、その価値だけに囚われてしまったのを見た水瀬はどれだけ傷付いたんだろう。
「そしたら、入社式で佐倉に会った。周りが俺の名字を意識する中、何も考えてなさそうに話しかけてきて」
「そ、その時の事は忘れてっ!」
「はは! 無理だよ。たぶん、その時に惚れたんだ」
そんな馬鹿な。あの黒歴史のどこに惚れる要素があると言うのか。
「わかるなー、その感覚」
唐突にログインしてきた声に驚く。
振り返ると可笑しそうな顔をしてこちらを見ている爽くんと目が合った。
「莉子先輩、俺がいること絶対忘れてましたよね。自分が仕事中だって止めたくせに」
「や、あの、ごめん……」
「おい、爽」
「だって蓮兄。俺が先に先輩と話してたんだよ?それを蓮兄が邪魔したから」
そうだ。車の中で話してたのが途中になってしまったんだ。本当にすっかり忘れてしまった自分にも驚くし、爽くんにも申し訳ない。
「ねぇ莉子先輩。さっきの話の続き。しばらく、好きでいていいですか?」
きっとキッパリ断ろうとしていた私の気持ちなんて爽くんにはお見通しで、話の続きのタイミングを図ってくれていたんだろう。
それが果たして今かどうかというのは、後ろにいる水瀬の顔を見なくても分かる気はするけれど。
初恋だと、そう告げてくれた爽くん。それが嘘だとは思わない。きっと爽くんは本気で思ってくれているってわかってる。
でもきっと、『御曹司』に囚われずにちゃんと彼を見てくれる子に出会っていないだけ。簡単に自分に靡かなかった私に執着してる部分もあると思うから。
「まぁ。爽くんの気持ちに関しては私がとやかく言えないけど」
「おい」
後ろから鋭いツッコミが入るけど、今は無視を決め込むことにする。
「でも私なんかに執着しなくても、もっと可愛くていい子が見つかるよ」
「そうかな」
「そうだよ。みんながみんな爽くんを好きになると思ったら大間違いだよ」
「……ヒドイ」
「御曹司としてじゃない爽くんを見てくれる子も絶対いる。ちゃんと顔も身体も好みのね」
「あ、莉子先輩そこ気にしてました?」
「失礼な奴だなとは思ったよ」
「あはは! やっぱり莉子先輩面白くて好きです」
会社の駐車場に爽くんの大きな笑い声が響いた。
22
あなたにおすすめの小説
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
数合わせから始まる俺様の独占欲
日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。
見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。
そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。
正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。
しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。
彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。
仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる