【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま

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解かれた封印

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会社帰りに連れられてきたのは水瀬が住む超高層マンション。

もちろん水瀬ハウスの物件。『都心の中で最高の住み心地を』というコンセプトのもと建てられたらしいマンションは、エントランスの前に立っただけで庶民とは住む世界が違うと足が竦む。

爽くんが風邪をひいた時に彼のマンションを訪れた時と違い、ひとりじゃないのがほんの少しだけ救いだった。

大きなエントランスをくぐると、そこはマンションというよりはホテルのよう。何組もソファやテーブルが置かれていて、壁際には本棚まである。

爽くんのマンションでも驚いたけど、ここもコンシェルジュサービスがついているらしく、五十代くらいの男性が「おかえりなさいませ」と声を掛けてきた。

それに会釈だけして通り過ぎ、最上階直通のエレベーターに乗り込む。

三十八階まで上がったエレベーターを降りると、マンションの廊下とは思えないほどふかふかの絨毯が敷かれている内廊下。

玄関を出てもお天気がわからないんだななんて呑気なことを考えていると、カチャリとルームキーの開く音。

「佐倉、入って」
「……オジャマシマス」

玄関で靴を脱ぎ、左右にいくつ扉があるのかわからない廊下を抜けた先のリビング。

まず目に飛び込んでくるのは壁一面の大きな窓。カーテンがないところを見ると、きっとボタンひとつでブラインドが下りてくるんだろう。

会社の社食で見る景色よりも高く、最寄り駅は地下鉄なおかげで線路も見えない。広がるのはキラキラと素晴らしい夜景だけ。

大きなライトグレーのソファと真っ黒なローテーブル。床に敷かれた少し毛足の長いラグはグレーで、左側にあるダイニングテーブルも黒。

モノトーンで統一された部屋は家主にピッタリな雰囲気で素晴らしいと思いつつ、緊張で言葉が出てこない。

「座って」
「え? あ……」
「すぐにでも寝室連れていきたいけど。コーヒーくらい淹れるから」

ソファの横にドサリと鞄を置き、スーツのジャケットを脱いでネクタイを緩めながらニヤリと口の端を上げる。

一拍遅れて意味を理解した私が真っ赤になって目を見開いたのを見て満足したのか、笑いながらおしゃれなシステムキッチンへ消えていった。


駐車場での一件の後、何とか就業中だということを思い出し「そうだ、仕事しよう!」と鉄道会社のキャッチコピーよろしく叫ぶと、王子ふたりを放り出して営業部に戻った。

学生寮の営業の報告書を作成しながら、頭の中は水瀬に言われたことで一杯だった。

『嫉妬するのが辛いって言うのなら、しなくて済むように甘やかす。佐倉がいいなら付き合ってることも隠さないし、会社とか立場とか関係なくベタベタに可愛がる』

『たぶん、その時に惚れたんだ』

普段クールぶってる水瀬らしからぬ発言に、言った本人が照れていないのに私が爆発寸前なほど恥ずかしい。

一体どうしてしまったと言うんだろう。

『お前、俺のこと好きだろ』

真面目な顔で仕事をしてるフリをしても、浮かんでくるのは先程の水瀬の言葉。頬に触れられた大きな手の感触。

もう集中力なんて欠片も残っていない。

パソコン画面に映し出されているのは『営業報告書おおおおおおおおおおおおおおお』という気合いが入ってるんだか何だかわからない代物。

このままではいけない。社会人としてもマズイし、人としてこれ以上顔に血が集中したら指先から干からびてしまう。なんとか全身に血を巡らせなくては。

深呼吸しながらバックスペースを連打する。最低限今日の報告書くらいは作らねばならない。

どれだけ動揺していても仕事は待ってくれない。先日水瀬がドリームカンパニーと詰めてきた内容を確認して、また生田化成にも顔を出さなくては。

今日は金曜日。週末に何とか体勢を整えよう。今はどれだけ考えても『どうしよう』しか出てこない。

家に帰って、ごはん食べて、ちゃんと寝て。それから今日のことを考えよう。土曜と日曜の二日あれば、少しはマシな考えが浮かぶかもしれない。

これは敵前逃亡ではない。いわゆる戦略的撤退なのである。

定時の十五分前には帰る支度をバッチリ整え、トイレも済ませ、チャイムが鳴ったと同時にパソコンをシャットダウンして席を立ったというのに。

「お前の考えてることくらい分かるって言ったろ?」

なぜか勝ち誇った顔の水瀬が営業課のデスクまで迎えに来るという暴挙に出たせいで逃げ遅れ、今現在ふかふかのソファで二人でコーヒーを飲んでいる。

「佐倉」

無言で半分くらいコーヒーを飲み終えたところで水瀬が口を開いた。

何を言われるのかわからなくて心臓が痛いけど、この沈黙の空間にそろそろ耐えられなかったから話しかけてくれて助かった気もする。

「付き合おう」

またもノーガードで水瀬を見てしまっていたせいで、無駄にキラキラしたイケメン王子の視線が凶器のように心に突き刺さる。

借りてきた猫状態の私は、その言葉でさらに縮こまった。

「何が問題? 嫉妬なんて誰にもしなくていいくらい佐倉しか見てない。元カノの連絡先も知らないし、スマホから女の連絡先は全部消したっていい」
「水瀬……」
「それでお前が安心するなら。お前が手に入るなら」
「なんで、私なんかに、そんな……」

駐車場で私が喚いた懸念事項を一つずつ潰していくように安心材料を提示してくれる。

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