【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま

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堕ちないための逃げ道

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スパークルに打ち合わせに行った日から二週間が経った。

火曜日の今日は親友の奈美の会社が月に一度のノー残業デーということで、仕事帰りに飲もうと約束していた。

オフィスビルが立ち並ぶ駅から歩いて数分のところに新しく出来た『calanbar(カランバル)』というカフェバーで待ち合わせ。この店はカフェメニューがメインだが、店内に併設された簡易的なバーカウンターにドリンクを作ってくれるバーテンダーも常時いて、本格的なカクテルとちょっとした軽食も楽しめる。

奈美が『イケメンバーテンダー見ながら飲みたい』と言い出したのでこの店で軽く夕食を取ってから、ふたりでお気に入りのバーに移動することにした。

「へぇ、クズ男謝ってきたんだ。おせーよって話だよね。もう1人のバカ女は?」

相変わらず言葉遣いが悪い。慣れたとはいえ苦笑が漏れる。

奈美は中学の頃こそヤンキーみたいな外見をしていたが、今やファッション誌のモデルのようにスタイリッシュなモード系お姉さんになっている。

しかし口調だけは変わらず、美しい見た目と、口から零れ出る品位の欠片もない言葉のギャップが凄まじい。そんなところが好きだ。

それに、この言い草は散々悩み泣かされ退職にまで追い込まれた私を思ってのことだとわかっているので、敢えて何も言わずにいた。

「美香は謝らずにそのまま。会社も辞めたみたい」
「沢田洋司ってデザイナー、脱税で捕まったもんね。いい気味」
「……まぁ、それと関係あるのかわかんないけど」
「それで? 契約続行?」
「うん、そうみたい。もう私は関わらないようにしてもらってるから詳しくは知らないけど」

あの後、原田部長が賢治から業務を引き継ぎ、友藤さんと改めて打ち合わせをしたとルー部長から聞いた。私宛に謝罪があったとのことだけど、もう賢治に会いたくもないし、友藤さんとも気まずいままなのでお気持ちだけでと面会を断った。

賢治は原田部長の温情でまだ会社にいるらしいけど、美香はあの騒ぎを起こした次の日から会社に来ていないらしい。

奇しくもあの二日後に父親の脱税が週刊誌にすっぱ抜かれ、たぶん今はそれどころではないだろう。賢治と婚約という話も彼女が一方的に言っていただけの嘘だったらしい。

ふう、とひとつため息をつくと、手元のカルーアミルクに口をつけた。今はこの甘さが私の心を癒してくれる。

「あんなに悩んでたのに、どうでもよくなっちゃった」
「ふーん。それって例のチャラ男のおかげ? どうでもよくなったって割りに浮かない顔してるけど」
「えっ」

相変わらず奈美は鋭いところを突いてくる。

元職場に行って色んな事が吹っ切れたのは事実だ。後味悪いまま退職して、あのビルの最寄り駅を使うのも怖かった。私の噂を知っている人に会うんじゃないかって不安だった。

だけど思わぬ形で幕引きとなった。

美香が乱入してきてとんでもない修羅場になりそうだったところを、契約を打ち切るという暴挙に出て私を守ろうとしてくれた。

確かに、少し彼に救われた。感謝もしている。

でも、それだけ。

「告白っぽいこと言われたんでしょ? それからどうしてるの?」
「……まぁ、極力会わないように?」
「あーあ」
「だって! 奈美だって知ってるじゃん、私が今までなんで彼氏と長続きしなかったのか」

そう、私は奈美には全て話していた。恋人に対し強い独占欲を持ってしまうこと。昔の彼女にすら嫉妬して苦しくなること。そして、過去には親友の奈美にすら独占欲を抱いて苦しかったことも全て。

「どう考えても無理。人妻と職場で真っ最中なの見てるんだよ?!」

他にも私が仕事でよく関わる人の中にも、彼と関係を持っていた女性が何人もいるはず。

「朱音の話を聞く限り、会社の人達とは完全に割り切った身体だけの関係でしょ? 嫉妬するほどチャラ男に気持ちなんてないよ。十中八九チャラ男は相手の顔も名前も覚えてないわ」
「……それはそれで最低だけど」

あり得る話だとは思った。まさかみんながみんな身体だけじゃないだろうけど、全員が彼女になれかたといえばきっとそうじゃないだろう。

でも……中にはちゃんと付き合っていた人だっているはずで、その数はきっととんでもなく多い。もはや何に嫉妬したらいいのかわからないほど、心がぐちゃぐちゃになっていく気がする。

「よし! じゃあ合コンするか!」
「やだ」
「何でよ」

速攻断ったのが予想通りで可笑しかったのか、奈美は笑いながらグラスを傾けた。美人がロックグラス片手に微笑むと何て絵になるんだ。多少口が悪かろうと、この美貌と面倒見の良さでモテる奈美は、中学時代から彼氏を切らしたことがない。

「チャラいのしか来なさそう」
「まぁ出会いを求めた奴らの集まりだからね、否定はしないけど」

彼女はぐいっと顔を近付けてくる。

「それならそれでいいじゃん。朱音もこの際1回くらい遊んでみな?そしたらたかが一回寝ただけの相手なんてこんなもんかってわかるから」

奈美の言っていることは分かる。私が相手に執着しすぎるのは、軽い遊びも出来ないほど恋愛に関して潔癖だからなんだろう。

「まぁヤるヤらないはともかく、息抜き程度に色んな男を見るのもアリだよ。朱音が真剣に付き合わなければ嫉妬も独占欲も感じようがないんだから気楽でしょ?」
「うーん」
「はい、決まり! こっちでメンツ集めるから。あんたは可愛くしておいで!」


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