18 / 28
拗らせた初恋《Side遊人》
1
しおりを挟む『恋』というものをしたことがない。
生まれた時からそういった感情が欠落していたのか、母が知らない男の上で腰を振っているのを幼い頃に見てしまったのが原因なのか。
学生の頃に友人たちが彼女を作るのを見ても、羨ましいとは思えなかった。
俺が女に求めるものは恋愛でも癒しでもない。ただ性的な欲求を満たす束の間の相手。それも特段自分から欲することもない。誘われたら乗るだけのこと。なくても全く困らないものという認識だった。
可愛いとか綺麗という一般的な美的感覚はあっても、それがその人物を特別に押し上げるかといえばそうじゃない。
どれだけ綺麗だろうが可愛かろうが、ただそれだけ。ひとりの女を特別だと思ったことは一度もない。
それをあっさりと覆したのが朱音だった。
彼女が以前働いていた職場で元カレを知り、言いようのない醜い感情に襲われた。
あんな男を想って辛い顔をしているのが許せないのと同時に、彼女は俺の過去を知っていても少しも気にしない関係なんだと目の前に突きつけられた気がして頭が沸騰しそうになるほどイライラした。
過去を責められてもどうしようもないし、クズだと言われても言い訳のしようもない。そうわかっているのに、元カノにすら嫉妬してもらえる関係だった男が憎くて羨ましくて妬ましかった。
その感情は今までに経験したことがないものでも、朱音の悩みの種であった『嫉妬』や『独占欲』と呼ばれる類のものであることはわかる。
朱音が他の男のことで頭を悩ませるのも、俺を完全に蚊帳の外にして恋人を探しているのも許せない。
働くのが楽しくてしょうがないという活き活きした顔も、デザートを食べてる時の本当に幸せそうな顔も、辛辣な言葉を投げつけてくる小憎たらしい顔も、弾けるような笑顔も全部。全部を俺のものにしたい。
その気持ちを早く伝えたくて、逸る気持ちを抑えきれずに営業車の中で彼女を抱き締めた。柔らかい頬に触れてしまえば、もう我慢することなんて出来なかった。
こんな衝動に突き動かされるように誰かを抱き締めたことなんてない。拒んでほしくなくて、必死に彼女を腕の中に閉じ込めた。
俺は恋をしたことがない。恋人という存在がいたことすらない。
告白されたことはあっても、誰かを特別に思えたことがなかった俺は真剣に受け止めたこともない。彼女になりたいという本気な女は拒絶し、一度だけでいいという軽い気持ちしか持ってない奴だけ相手をしてきた。
そんな俺は当然告白なんかしたこともなく、どうやってこの気持ちを伝えればいいのかわからない。
彼女はこの1年散々俺の良くない噂を聞いているだろう。最悪なことに現場を見られていもいる。
そんな俺が何をどう伝えれば、今初めて感じるこの恋情が正確に伝わるのか。
全く検討もつかないままに抱き締めると、彼女は腕の中から出ようともがき、俺の言葉をすべて聞くことなく拒絶した。
『気のせいです!』
『自分になかなか靡かない女の元カレを見て、そんな気になってるだけですよ』
そして事もあろうに、彼女の目の前で断ったはずの俺に連絡先を渡してきた女と寝たらどうかと下ネタ満載なセリフを綺麗な笑顔で言ってきた。
あの初対面で朱音を誘い、軽蔑の眼差しで出て行けと言われた時の比ではない。
その何十倍も何百倍も驚き、そして心が凍りつくような感覚を味わった。触っても何もないはずの胸が痛み、ドクドクと血を流していた。
10
あなたにおすすめの小説
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた
九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。
そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。
年下男子に追いかけられて極甘求婚されています
あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25)
「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」
◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20)
「京都案内しようか?今どこ?」
再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。
「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」
「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。
あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。
各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。
*☼*――――――――――*☼*
佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳
文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務
仕事人間で料理は苦手
×
各務 尊(かがみ たける) 30歳
実花子の上司で新人研修時代の指導担当
海外勤務から本社の最年少課長になったエリート
*☼*――――――――――*☼*
『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。
――――――――――
※他サイトからの転載
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※無断転載禁止。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる