【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま

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拗らせた初恋《Side遊人》

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『恋』というものをしたことがない。

生まれた時からそういった感情が欠落していたのか、母が知らない男の上で腰を振っているのを幼い頃に見てしまったのが原因なのか。

学生の頃に友人たちが彼女を作るのを見ても、羨ましいとは思えなかった。

俺が女に求めるものは恋愛でも癒しでもない。ただ性的な欲求を満たす束の間の相手。それも特段自分から欲することもない。誘われたら乗るだけのこと。なくても全く困らないものという認識だった。

可愛いとか綺麗という一般的な美的感覚はあっても、それがその人物を特別に押し上げるかといえばそうじゃない。
どれだけ綺麗だろうが可愛かろうが、ただそれだけ。ひとりの女を特別だと思ったことは一度もない。

それをあっさりと覆したのが朱音だった。

彼女が以前働いていた職場で元カレを知り、言いようのない醜い感情に襲われた。

あんな男を想って辛い顔をしているのが許せないのと同時に、彼女は俺の過去を知っていても少しも気にしない関係なんだと目の前に突きつけられた気がして頭が沸騰しそうになるほどイライラした。

過去を責められてもどうしようもないし、クズだと言われても言い訳のしようもない。そうわかっているのに、元カノにすら嫉妬してもらえる関係だった男が憎くて羨ましくて妬ましかった。

その感情は今までに経験したことがないものでも、朱音の悩みの種であった『嫉妬』や『独占欲』と呼ばれる類のものであることはわかる。

朱音が他の男のことで頭を悩ませるのも、俺を完全に蚊帳の外にして恋人を探しているのも許せない。

働くのが楽しくてしょうがないという活き活きした顔も、デザートを食べてる時の本当に幸せそうな顔も、辛辣な言葉を投げつけてくる小憎たらしい顔も、弾けるような笑顔も全部。全部を俺のものにしたい。

その気持ちを早く伝えたくて、逸る気持ちを抑えきれずに営業車の中で彼女を抱き締めた。柔らかい頬に触れてしまえば、もう我慢することなんて出来なかった。

こんな衝動に突き動かされるように誰かを抱き締めたことなんてない。拒んでほしくなくて、必死に彼女を腕の中に閉じ込めた。

俺は恋をしたことがない。恋人という存在がいたことすらない。

告白されたことはあっても、誰かを特別に思えたことがなかった俺は真剣に受け止めたこともない。彼女になりたいという本気な女は拒絶し、一度だけでいいという軽い気持ちしか持ってない奴だけ相手をしてきた。

そんな俺は当然告白なんかしたこともなく、どうやってこの気持ちを伝えればいいのかわからない。

彼女はこの1年散々俺の良くない噂を聞いているだろう。最悪なことに現場を見られていもいる。

そんな俺が何をどう伝えれば、今初めて感じるこの恋情が正確に伝わるのか。

全く検討もつかないままに抱き締めると、彼女は腕の中から出ようともがき、俺の言葉をすべて聞くことなく拒絶した。

『気のせいです!』
『自分になかなか靡かない女の元カレを見て、そんな気になってるだけですよ』

そして事もあろうに、彼女の目の前で断ったはずの俺に連絡先を渡してきた女と寝たらどうかと下ネタ満載なセリフを綺麗な笑顔で言ってきた。

あの初対面で朱音を誘い、軽蔑の眼差しで出て行けと言われた時の比ではない。

その何十倍も何百倍も驚き、そして心が凍りつくような感覚を味わった。触っても何もないはずの胸が痛み、ドクドクと血を流していた。


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