【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま

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堕ちないための逃げ道

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そんな思いから、どこか挑発するような口調になった。

「ここから四十分はかかるんです。この時間電車も混むしスムーズに乗り換えられるとは限らないし。遅刻したくないので、そこどいてもらっていいですか?」
「何考えてるの。その日会ったばかりの女をヤろうとしてる男ばっかりだよ? 童貞なんているわけないし、君みたいな子が行くところじゃない」

『その日会ったばかりの女をヤろうとしてる男』なのはあなたも同じじゃないんですかね。友藤さんの表情が伝染したように私の眉間にも皺が寄ったのがわかった。

どの口がそんなことを言うのかとイライラが募っていく。そのせいで言わなくて良いことまで叫んでしまった。

「いいんです、わかってて行くので! 近くにホテルが有るお店を選んでもらったんです。お持ち帰りされていいよう色々万全ですから!」

言い放った瞬間、いつの間にか目の前に来ていた友藤さんに顎を掴まれた。その瞳に獰猛な光を宿し、私を射竦める。

あっと思った時には既に唇が奪われ、抗議の言葉は全て彼の中に飲み込まれていく。

「ん、んんっ!」

以前ランチの帰りにされた戯れのキスじゃない。勝手に口を割り、舌を差し込み、傍若無人に暴れまわる。

抵抗しようと振り上げた右手は捕らえられ、そのまま私の後ろの壁に押さえつけられた。左手も同様に壁に縫い付けられ、蹴り上げようとした足は彼の膝で押し潰される。

その間も唇が離れることはなく口内を蹂躙され、飲みきれない唾液が口の端から溢れる。

「朱音」
「んんっ、んぅ」

息継ぎすら許さないという激しいキスの合間に名前を呼ばれる。いつものヘラヘラした『朱音ちゃん』という呼び方じゃない。その名を愛おしむように耳に直接語られる私の名前が、とても尊いもののように聞こえる。

友藤さんの舌が私の弱いところを刺激して、快感を引きずり出そうとする。その度に鼻から抜けた声がわずかに漏れる。頬の裏、歯列、上顎まで彼に蹂躙され、巧みなキスを受け続ける。

身体に力が入らず、真っ直ぐ立っていることさえ難しい。頭がぼーっとして、このまま溺れてしまいたいと本能が告げてくる。

一体どれだけの女性がこのキスの虜になったのか。

そう思考を働かせる理性が残っていたのは、幸か不幸か。

子供だましじゃない、大人の官能的な口付け。明らかに女慣れしている、相手を気持ちよくすることを目的としたキス。

苦しくて、悔しくて、気持ちよくて、でも気持ち悪くて最低な気分。

生理的な涙だけではない、もうどんな感情で流れてくる涙なのかもわからない雫が、瞳からぼろぼろと溢れ出てふたりの頬を濡らす。

その冷たさに怯んだ一瞬を見逃さず、私は貪ってくる唇に噛み付いた。

痛みに顔を顰めた彼の手首の拘束が緩くなったのを狙って、右手を素早く自分に引き寄せると、思いっきり振りかぶって全力で頬に向かって振り下ろした。

バチンと乾いた音が静かな資料室に響き渡る。エアコンのせいだけではないひんやりとした空気が辺りを包んでいる。

肩で息をする私の手のひらはジンジンと異常な熱を持っていて、叩かれた友藤さんは半歩下がるとその場に座り込んだ。

「……これが、独占欲か」

友藤さんが血が滲む自分の唇を親指で拭い、苦しそうに呻いて顔を伏せる。私は何も言えず、息を整えながらただ呆然とその様子を眺めるだけしか出来ない。

「君が好きだ」

俯いたままの告白。こちらも見ようともしない。そんな友藤さんの様子が、なぜだか彼の本気を示しているような気がした。

私も、たぶん彼が好きだ。

目の前で項垂れている男に惹かれてしまっている。なんとかギリギリのところで留まってはいるけれど、もうたぶん誰かに小指で押されても彼に堕ちる。

だからこそ離れなければ。この先に明るい未来はない。

「……本当に少しでも私を好きなら、もう私に構わないで下さい。私が探しているのはあなたじゃない。私は誰かの『唯一』になりたいの」

それだけ告げて足早に資料室を出た。彼の姿を視界に映さないよう、終始顔をそむけたまま。台車を置いてきてしまったけど、もうあの部屋に引き返すことは出来なかった。



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