【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま

文字の大きさ
21 / 28
オンリーワンになりたくて

しおりを挟む

奈美が私のためを思って開いてくれた合コンだけど、私は申し訳ないほど身が入らなかった。

約束の十九時よりもかなり早く着いたため、近くのコーヒーショップで時間を潰してからレストランへ向かった。

私の格好を見るなり奈美が「お、いいじゃん。やる気じゃん」とうんうんと頷いていたけど、今の私は朝この服装を選んだ時のテンションと真逆で、なんならすっぽかしてしまおうかとすら思っていた。

さすがに幹事をしてくれた奈美に申し訳なさすぎて時間通りにレストランに来たものの、私は早くお開きになってくれと願いながら男性陣が取り分けてくれたピザを口に運んだ。

奈美が予約してくれたイタリアンレストランは、駅から五分ほど歩いたところにある隠れ家的お店で、一番奥まった半個室の席に通された。

店内は温かみのあるオレンジ色の照明で、二十名ほど座れる大きなカウンターテーブルの隣には観葉植物が置いてある。右奥の小さな段差を上った先に六人掛けのソファ席が二つ並び、さらに奥に扉はないものの壁で区切られた半個室が二部屋あった。

奈美と同じ会社『ソルシエール』に勤める私以外のメンバーは、さすがアパレル勤務というだけあってみんなオシャレ。

女性陣は奈美と同じくモード系の華さんと、小柄でフェミニン系の凛さん。

ふたりとも合コンになんて来なくても男性は選びたい放題だろうに、もしかしたら私のせいで奈美に捕まったのだろうかと思うと申し訳ない。

男性陣はみんなスーツだけど、夏だからジャケットは着てなくてネクタイもしていない。シャツの袖は捲られていて、クールビズが定着している。

女性が多い会社に勤めているからなのか、彼らの元々もっている素質なのか、女性への気遣いがさりげなくて嫌味がない。第一印象はみんな優しそうでイケメン。

そういえば彼は夏でもジャケットにネクタイまで締めていた。営業職だからだろうか。うっかり友藤さんのことを思い出してしまい、慌てて頭から小銭男を追い出す。

目の前に座っている岡部と自己紹介をした彼が「朱音ちゃん次何飲む?」と気遣ってくれる。

奈美以外は初対面の人ばかりなのでこの場で酔っ払うわけにはいかないと思いつつ、今日は何もかも忘れてお酒を飲んでしまいたい欲求に駆られた。

「じゃあ、杏露酒のロックを」
「それよく女の子飲んでるの見るけど美味い?」
「甘酸っぱいって感じです。普段はソーダで割ってますけど、ロックだとそこそこ度数もあるのでお酒好きな男性でもいけるかも」
「普段ソーダ割りなのに今日はロックなんだ?」

ニコッと笑うその目の奥に、分かりやすく誘うような色が見えた。なるほど、合コンで強めのお酒を敢えて頼んでいる私は恰好のカモに違いない。

あぁ、慣れてるんだな。

岡部さんとの会話で得たのは、そんな感想だけだった。

もしも、この一連の会話をしたのが友藤さんだったら。私は何を思ったんだろう。

合コンで酔った女の子をお持ち帰りし慣れているだろう彼に対し、きっと過剰なほど拒否反応を起こす。それを悟られまいと必死に軽蔑したような冷たい眼差しを向けて、私に関わってこないでと一線を引く。

そして頭の中に、自分が彼に惹かれてはいない証拠を並べ立てる。

だって最低最悪な初対面だった。誘われれば来る者拒まずのクズ男で、ランチ代だと軽々しくキスをしてくるようなチャラ男。

私が求めているのはその人の『唯一』になれるような恋愛。だから絶対にあんな人に惹かれるわけがない。

そうやっていつも意識してきた。

現場に来るたびに差し入れを持って挨拶に回る仕事熱心なところも、いつもさりげなく一番重い段ボールから片付けを手伝ってくれる優しさも、自分は食べないのにランチの時はいつもデザートセットを頼むところも。

ずっと見ない振りをしてきた。

なのに、あの日。私の元職場で醜い修羅場を演じそうになったあの時。あんな風に庇われたら、誰だって心が勝手に彼に引き寄せられてしまう。

そっちじゃない。その先にはボロボロになって泣く未来しかない。そうやって心の手綱をしっかり持って、なんとか堕ちてしまわないように耐えてきたというのに。

小指で突かれても堕ちる。自分ではそう思ってたけど、もうとっくに堕ちているのかもしれない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25) 「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」 ◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20) 「京都案内しようか?今どこ?」 再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。 「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」 「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

処理中です...